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第4章 獣に植物に聖女結衣

第50話 マルコ神殿の神子

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 神殿の最上階、螺旋状の階段を登った先で神子は静かに待っていた。

「よく来たのじゃ」
 ラクナシアをちょっと大きくした程度の少女、紫のふわふわした髪をなびかせ立っていた。

「君が……マルコ神殿の神子……?」
「そうなのじゃ、ユニ・コーンなのじゃ」
 腕組みをして得意気な顔をする神子ユニ、登場シーンに満足がいったのか、ドヤ顔をしている。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「だめなのじゃ。ユニの街をこんなにしておいて申し開きなんて聞く気はないのじゃ」
 ユニはどこからともなく美しくも長い角を取り出した。

「サクラ様、キレイな角ですね」
 ラクナシアの言葉に、ケアルナは「ラクナシアちゃん、ここはサクラちゃんに任せましょう。私たちがいたら足手まといになっちゃうわ」とラクナシアの手を引いた。

 僕は剣を鞘から抜いて構える。何をするにも彼女を倒すしか無い……凄い力を持っているリリス長老と同等の強さを持つであろう神子に勝つことはできるのだろうか。

 角を握りしめたユニは一気に間合いを詰めた。
「剣なのじゃ」
 角は剣へと姿を変える。振り下ろされた剣先が僕を狙う。

 カキーン──

 ミスリルの剣で彼女の剣を受け止めた。

「甘いのじゃー」
 ユニは詰め寄った勢いのまま剣を縮小すると回転して僕の懐に入り込み強烈なキックを腹に打ち込んだ。

「ぐはっ」
 強烈な衝撃を受けて後ろに吹き飛ぶ。直撃する瞬間に自ら後ろに跳んだおかげで幾分か和らいでいるがかなりのダメージ。

「サクラ様」
 近寄ろうとするラクナシアをケアルナが止める。

 あと僕に出来ることは……
「フリックバレット」
 僕に出来る最大火力を持って彼女の足を狙う。打ち込むと同時に剣を構え直して一気に間合いを詰めた。

「なんなのじゃこれ」
 僕が打ち込んだフリックバレッドのギラを素手でキャッチ、渾身の力を込めて振り下ろした僕の剣をユニは手に持ったギラで受け止めた。

 なんだこの人……どうやっても勝てる気がしない。今まで戦ったどんな相手をもその他大勢に見せるほどの強さ……恐怖が正常な思考を奪い闇雲に剣を振るってしまう。そんな攻撃は当たるはずもなく空を斬り続けた。

「サクラちゃん、やっぱりまだまだ経験が足りなかったわねー。しょうがない」
 
 ビッターン──足に絡まった蔓に引っ張られて顔面を床に強打。鼻と胸が痛い……。

「ちょっとケアルナさんなんてことするんですか」
「あのねーサクラちゃん、格上相手に我を忘れて勝てるわけ無いでしょ。自分の出来ることをもっと冷静に考えてみなさい。はいよ」

 ケアルナが投げた光、僕の体がそれを吸収すると嘘のように疲労や傷が治っていく。

「サクラ様……頑張って下さい……」
 手を組んで祈るように何度も呟くラクナシア。

 僕の出来ること出来ること……「そうだ! ハルお願い!」

『ピピピッピー』
 頭の中から飛び出したハルが駆け回る。モイセスからもらったドラグナイト鉱石、これをイメージして武器つるぎを作り出した。

 黒光りする美しい刃の剣。

「あなたいったい何をしたの……」
 ケアルナの驚き。

「ドラグナイト鉱石素材の武器じゃかー、懐かしいのじゃ。あのお方も良く使っておったのじゃ」

 ユニは背中から三節棍を取り出す。
「ユニの三節棍なのじゃ、あのお方が作ってくれた特別製じゃ、さー打ってくるのじゃ」

 セレンさんとの特訓、黒ゴーレムとの訓練を思い出して冷静になってユニに一太刀一太刀を大事にしながら打ち込んだ。

 どんなに打ち込んでもどんなに打ち込んでも三節棍で防がれる。それでも必死にユニの隙を探すように……。

「まだまだなのじゃー」
 ユニはドラグナイト鉱石の剣に『ユニの三節棍』を巻きつけると一気に手首を返して刃を折った。

 伝説と言われる素材で作った刃を折ったユニの力、同じ用に僕の心まで折れてしまったらケアルナやラクナシアが危ない。

 更にハルの針によってドラグナイト鉱石の剣を作り出した。

「待つのじゃ」
 ユニが手を広げてストップした。
「どうしたんですか」
「お主の力ではユニには勝てんのじゃ、その剣筋はセレンと同じなのじゃ、話しを聞くからそこに座るのじゃ」

 神子ユニはそのままどかんと腰をおろした。

 思わずケアルナをチラリと見てしまう。彼女は目線で訴えゆっくり頷いた。

 その場に座った僕にラクナシアが駆け隣にちょこんと座る。
「成り行きで神子の討伐隊に入ってしまいましたけど、僕は聖女と呼ばれている結衣が幼馴染なのか確かめるためにリュウコウに来ただけなんです」

「聖女ってなんなのじゃ、ユニはずっとこの街に閉じ込められておったからのぉ、分からんのじゃ」

「ユニ様、新しい勢力によって大きな変革の時が来ているようです」
「お前はケアルか! 懐かしいのじゃ、ウタハは元気じゃか」
「ウタハ様は新しい勢力によって神子の座を降ろされました」
「そうじゃったのか、それよりもケアルラはドライアド族の中ではウタハより位が上じゃったような」

 何の話だ一体……ケアルナさんと神子は知り合い……それにケアルラって……。

「ドライアド族も獣人と同じようにバラバラの状態、今は神子様あっての世界ですからねー」
「そうじゃったか……マーサンを守りきれなかったのじゃか。ユニが閉じ込められたということはそうじゃったと思っておったのじゃ」

「これからマーサンに向かおうと思います、ラクーン族の子もおりますしその方も力をつけてもらえれば戦力となります」

 戦力って僕のことか? 何かに巻き込まれているような気がするけどいいのだろうか……。

「これからどうするのじゃ」
「ユニ様は一旦お引き下さい、この神殿の神子も入れ替わることになるでしょう」
「そうじゃな、ケアルラに任せるのじゃ。リリスとアカリには流石に手を出さんじゃろうて」

 リリス?

「リリスってリリス長老のことですか?」
「お主はリリスのことを知っておるのじゃか」
「はい、長老に助けられました」
「リリスは味方には優しいじゃからなー、ただ敵には容赦ない……ユニたち神子の中で最強の強さをもつのじゃ、怒らせないように注意するのじゃ」

 ユニって凄くいい人のような気がしてきた……それにこの神子が恐れる強さって途方も無いな。

「これからユニさんはどうするんですか?」
「ユニでいいのじゃ、ユニは帰るのじゃ。それとお主にプレゼントをするのじゃ、手を広げて待つのじゃ、どんどんそのバックに入れないと溢れてしまうのじゃ」

 そう言うと、壁にある扉に手をかけて中に入っていった。その扉の先に部屋なんてないけど。

 パタン……扉が閉まると同時に扉が消失……一体どこに消えたんだ! まるで、どこでもドア。

 ポトン……手の上に美しい宝石が1つ、2つ、3つ、4つどんどん集まってくる。直ぐに手の上は一杯になり言われた通りバックに詰め込む。そしてすぐに手に溜まってバックに詰め込む……「一体このキレイな石はなんなんだ」

「サクラちゃん、それ魔水晶よ。ゴーレムの核ね……無機質なものに埋め込んで動作プログラムを与えるとその通りに動き続けるのよ」

 そんな石があるんですか……「僕がもらってしまってよかったのかなぁ」

「いいんじゃない、ユニ様がくれるっていうんだから」

 こうしてヴィクトリア女王の神子討伐命令は幕を閉じた。魔水晶がサクラの手に渡ったことで全てのゴーレムが機能を失った瞬間でもあった。

 

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