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第4章 獣に植物に聖女結衣

第42話 仲間?

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 簡易串焼き台の上で焼かれている骨付き肉、きれいに並べられている肉からは芳ばしい香りが広がり、溢れ出た肉汁が炎に滴りジュワッと炙られる音を響かせていた。

 焼き上がった骨付き肉を取り上げては食べ取り上げては食べるケアルナ。あまりの食欲に圧倒されてしまう。

 あの細い体のどこに消えていくんだろう。

「おねーさん、スタイルいいのにすごい……です」
 下を向いていたラクナシアがポカンと口を開けたままポケーと見つめていた。

「あたりまえですよー、綺麗になるには栄養をたっぷり摂らないとねー。ちゃんと食べないといろいろと大きくなれないわよー」
 胸を強調するケアルナ、しかし食べる手は休まることを知らない。既に集めた肉のほとんどをひとりで平らげようとしていた。

「僕たちの食べる分も残しておいてください」
 焼かれている骨付き肉を2つ取り上げると1つをラクナシアに手渡した。

「ありがとうございます」
 遠慮がちにゆりえ口で食べ始めるラクナシア。

「もっと堂々としていいんだよ。家族みたいなものなんだから遠慮なんかする必要なんてないよ」
「そうよー、わたしがママでー、彼がパパでー、ラクナシアちゃんが娘ね」

 ケアルナに視線が集まる。ラクナシアは「ご主人様がパパ? お姉さまみたいです」と小さく呟いた。

「君、男の子でしょ。私から見れば女っぽい容姿をしていても男だって分かるわー」

 バレてる! 女装愛好家だと思われるのが嫌でずっと隠してきたのに……恥ずかしさの集団に襲われて溺れてしまいそうだ。

「す……すいません。隠すつもりじゃなかったんだけど言い出せなくて」
「やっぱりー。だって一人称を僕って言っているんですものー」

 え……それだけ? てっきり何かを見透かされたのかと思った。

「ご主人様は男の人だったんですね」
 ニコニコするラクナシア。僕が男だと分かってなんで喜ぶ。

「冗談ですよー、セレンちゃんの能力ちからで姿を変えているんですよねー」
「えっ、分かるんですか?」
「まぁねー。セレンちゃんは闇の加護を受けているでしょー、もし知らなかったら内緒にしてあげてねー、隠しているみたいだからー」

 闇の加護? 確かに時間を止めた時や容姿を変えるときに真っ黒い靄を出していたけど……あれが闇の加護ということなのか。

「ケアルナさ……ん……」
 僕が話しかけると、ラクナシアとにこやかに話しをしていた。

「ラクナシアちゃんは、なんで彼が男だと嬉しいの?」
「だってぇ……私にはパパとママがもういないから……ずっとひとりだったから……なんだかパパとママが出来たみたいで嬉しくて……あっ、ご主人様申し訳ありません。失礼なことを言って」

 興奮気味に立ち上がるケアルナ、低い位置で力強くガッツポーズをすると「ラクナシアちゃん、私のことをママ、彼のことをパパと呼びなさい!」とラクナシアの両肩をバシバシ叩きだした。

 無茶振りにも程がある。そもそもケアルナって何者なんだ。さりげなーく溶け込んでいるけど……初対面だよな……。

「ケアルナ様、ダメです。ご主人様にそんなこと……」
「きみー、こんな小さな子にご主人様と呼ばせるなんて鬼畜ねー」
「ちっ違うんだ、最初からラクナシアがそう読んでたから訂正し損なっちゃって」

 ゆりえ口でハムハムと骨付き肉を食べているラクナシア。僕は既に平らげていた。

「じゃあ、ラクナシアちゃんが名前で呼んでもいいわけね」
「もちろんだよ……ラクナシア、サクラでいいからね」
「サクラ……様」

 おどおどしながら指先をもじもじさせて名前を呼ばれた。なんだか背中がくすぐったいぞ。

「ラクナシア、さまなんていらないよ。サクラでいいよ」
「そうよー、わたしもケアルナって呼んでねー、ママでもいいわよー」

 恥ずかしそうに下を向いているラクナシアは、気合を入れると顔を上げて口を開いた。

「サクラ様、ケアルナ様」
 がっくり肩を落とす僕とケアルナ。
「「いいんだよさまをつけなくてもー」」

「ごめんなさい……やっぱりまだ恥ずかしくて」
 頬を赤らめてまた下を向いてしまった。

「かわいー」
 ケアルナはラクナシアに抱きついて頬ずりする。ふと思い立ったように「じゃあ、ご飯も食べたしそろそろ出発しましょうかー」と立ち上がった。

「え、ケアルナさんも一緒に行くんですか?」
「もちろんよ、こんな可愛い子を捨てられるわけないじゃないー。なんといっても私はママですからー」

 グフフと怪しげな笑いを繰り出していたのだった。


 ◆ ◆ ◆

「それでサクラちゃんたちはどこに向かっていたのー?」
「ラクナシアを鍛えながらリュウコウにいる聖女に会いに行こうと思っています」
「へー、リュウコウの聖女って言ったら神子の討伐を請け負ったっていうじゃない。討伐隊の参加希望なのー?」
「いえ、もしかしたら聖女が僕の知り合いなのか確認しに行こうかと思って……」


 リュウコウに向かって雑談しながら歩いていくと、冒険者ですというようなパーティーや筋肉隆々な肢体を見せつけるように歩いている人を多く見かける。
 あきらかに神子討伐を目的としているのだろう。

「じゃまだ!」
「キャー」
 吹き飛ぶラクナシア。地面に叩きつけられ1回転。

「ラクナシア!」
 慌ててお姫様抱っこして持ち上げた。

「路の真ん中を歩いてるんじゃねーよ、俺たちはなー神子を討伐する者だぞ。女子供は路をあけろってーの」
 背中に斧を背負った男、こいつが腕を振り払いラクナシアを吹き飛ばした。
「なにするんだ!」
 僕の怒りを無視してニヤニヤする男たち。

「あのなー、俺達に逆らおうってんならその服、ひん剥いてやっても良いんだぞ。大した力も無いくせに勢いだけで喧嘩を売ったら大変なことになるんだ」
 僕の額にツンツンとつついてくる。

「あなたたちー、相手の力量も見抜けないお馬鹿さんはリュウコウに行かないほうが身のためよー。そんな程度の実力じゃーお呼びでないって感じねー」
 カラカラ笑うケアルナ。

「なんだテメエー、女だからって容赦しねぇぞ」
 拳を振り上げる男。

 ケアルナは怯むこと無く「サクラちゃん、何かサポート技持ってる?」と唐突に質問された。

 つい、不意に渡されたティッシュを受け取るように「はいっ」と答えてしまった。

「じゃあラクナシアちゃんに経験を積ませてあげましょー」
「はい?」
 思わず素っ頓狂な声を出して聞き返してしまった。

「さっきサクラちゃんが言ってたじゃないー、ラクナシアちゃんを鍛えるってー」
「ちょっと、こんな悪漢たちとラクナシアを戦わせるなんて」
「弱そうな癖に顔だけは立派に強面じゃないー。ちょうどいいわー」

「お前らぁーバカにするのもいい加減にしろよー」

 ラクナシアを腕から下ろす。
「私、頑張ります。パパもママも悪い奴らをやっつけるお仕事をしていました」
 力強く答えた。

 ケアルナはラクナシアに手をかざすと男に付けられた擦り傷がキレイに治っていた。

 背中の剣をゆっくりと引くぬくラクナシア。青く光る刃が陽の光に反射して輝く。

「おい、あの刃……ミスリルなんじゃないか」
「いや、まさかこんな小娘が持ってるわけないだろ」
「まぁどっちにしても奪ってやれば問題なかろう」
「あれがミスリルなら神子討伐も楽になるしな」

 三人の悪漢たちが男たちがヒソヒソと大きな声で喋っている。

「ラクナシアちゃーん、ひとりづつ倒しましょうねー、サクラちゃんはちゃんとサポートするのよー」

 ケアルナの言葉に悪漢たちは「何言ってやがる、お前たちなんかに付き合うわけねーだろ、三人で一気にぶちのめしてやるよ」

「それじゃー仕方ないわねー」

「「うわっ」」
 悪漢ふたりの潰れた声。地面から伸びたつるに巻き付かれて動きを封じられていた。
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