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第4章 獣に植物に聖女結衣
第40話 プレゼント
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ウッドバーレンのシモフリにある食堂でカッポンを開けることができたラクナシアは、嬉しそうに指輪をニコニコ眺めていた。
「お姉ちゃんたちはウッドバーレンは初めてなのかい?」
「はい、バスリングから来たばかりでこの国のことはあんまり……」
カッポンを教えてくれた老夫婦が神妙な顔をしながら口を開いた。
「この国に入る時、大変だっただろう」
お爺さんの言う通り入国するのは大変だった。何時間も質問攻め、結局はウォットに1泊することになってしまった。
「昔は優しくていい女王様だったのよ」
「婆さん、厳しくなってしまわれたのは2年ほど前じゃったかのぉ」
「その頃からだったわねぇ、異世界教を禁止したのは」
なんだろう……違和感がある。人が急に変わったというできごとに。
「そのお嬢ちゃんは獣人ですよねぇ」
温かい眼差しで見つめる婦人に「はい」と頷く。ラクナシアは指輪を嬉しそうに見つめていた。
「その時じゃったかのー婆さんや」
「獣人を迫害するようになったのも異世界教を禁止した辺りからだったのぉ……仲良くしてはダメだという雰囲気がいつのまにか出来てたのよ」
「昔は人間も獣人も思想も関係なく仲良くしてたんだけどのぉ」
網目のように張り巡らされている記憶のネットワーク、あちらこちらに見え隠れするぼやっとした複数の点、ある程度のピースは揃っているような気がするが、それらを組み上げる何かが欠けているように思えた。
「それじゃあ、気をつけてのぉ」
お爺さんは手を差し伸べて婦人を立ち上がらせると仲慎ましやかにお店を出ていった。
「さーて、僕たちは宿を探しに行こうか」
街道を歩けばラクナシアに冷たい視線が突き刺さり、宿に泊まろうと思えば断られていた。
いくつか断られ、畑に囲まれた街外れの宿屋で亭主に耳打ちされた。
「泊めてやるけど人の目があるからな、倍額出してもらっていいか」
「はい、ギラなら多く支払いますのでお願いします」
「よし決まりだ、演技するからな」
「俺は優しい人間だから倍額で泊めてやろう」
周りの人々に報せるように大きな声で話す。
そんな言葉に純粋なラクナシアは落ち込んでいたが、周囲の人たちは「たった倍額で泊めてあげるなんて良心的ね」とニヤニヤとしていた。
同じ心を持った生き物なのに……悲しさだけしかない。
獣人が人を襲ってた過去があると言うなら感情的になるかもしれない……理由はあるのだろうがいきなり方針を変えるからには何かしらあったのだろう。
「オッケーだぞ、2階の角部屋使ってくれ」
鍵を受け取った、ラノベ脳を興奮させる田舎のナーロッパ的な雰囲気、部屋の中まで作り込まれている。
「ラクナシア、ギルドで情報収集してくるよ。夕飯は適当に買ってくるから鍵を締めて待ってて」
ビクッとするラクナシア、首を大きく振って僕にガッシリしがみついた。彼女から手を通して細かな震えが伝わってくる。
彼女の両肩を掴むと肩が震えていた。
「分かった。ひとりが不安なのかな。今日は行くのを止めておくよ」
コクコク頷くラクナシア、僅かに目じりが下がり口角が上がった気がした。
「ご……ご主人様ごめんなさい……ひとりになるのが……怖いの」
必死に涙を堪えながら声を震わせる。
夕飯どうしようかなぁ、ジゲンフォーのバッグを使ってみるか。
出所の分からない……いつから入っているか分からない食べ物を口にするのはやっぱり怖い。
コンッコンッ──
ノックされたドア、ラクナシアは走ってベッドの下に丸まった。
「俺だー、開けてくれー」
「宿屋の亭主……はい、今行きます」
両手にトレーを持った亭主が立っていた。
「お金を倍払ってもらったからな、それとお嬢ちゃんを傷つけたお詫びだと思って食べてくれ」
亭主はテーブルにワンプレート料理を2つ置いた。
「実は俺な、獣人が好きなんだ。商売を続けるためには冷たくしなくちゃならん。すまんな」
ドアノブに右手をかけ左手で拝む仕草をしながら扉を開く。
「おっ、そうだ」、ポケットに手を入れてカッポンを取り出すと「お嬢ちゃんにやってくれ」と放った。
豪華に盛り付けられたプレートを前にラクナシアはパァーッと顔を赤らめて喜んでいる。
可愛らしく彩られたお子様プレート、一生懸命に顔に出さないようにしているので変顔状態。
「ラクナシア、喜びたい時は喜んで良いんだよ」
そんな言葉に安心したのかスプーンを握って小さく「ありがとう……ございます」と食べ始めた。
ニコニコ食べていたラクナシアの手が急に止まる。ポロポロと大粒の涙が流れ落ちた。
「どうしたの? 苦手なものでもあった?」
目線はミートボール、花見だんごのように剣形の串で3つ繋がっている。
「ご主人さまごめんなさい……パパとママ……戦士だったの……いつもみんなのためにご飯獲ってくれたのに……」
黙ってしまった。口をへの字にして必死に涙を堪えている。そんなラクナシアを守りたいと思った。
「大丈夫だよ。これから僕が家族だ……まだやることがあるけど、それが終わったら一緒にのんびり過ごせる場所を探そう」
「ご主人さま……ありがとう……ございます」
そういって涙で濡れた料理を食べた。
「しょっぱいけどとても美味しい」そんなラクナシアの言葉が愛おしかった。
「これ開けてみなよ」
カッポンを指差す。ラクナシアはカッポンを握りしめると魔法力を使って中身を取り出した。
「わぁ~」
笑顔。今までで一番だったかもしれない。中から出てきたのはネックレス、前に当たった指輪とお揃い。
「指輪とネックレスかぁ、華やかになったね」
ラクナシアは指輪とネックレスを一生懸命に見比べている。
指輪をポケットに入れると僕の前までトコトコ歩いてネックレスの鎖を両手で持つと、僕に手を伸ばした。
「くれるの?」
コクンと頷くラクナシア。僕は頭を下げると首にネックレスをかけてくれた。
「ありがとう」
小さいながらも自分の居場所を一生懸命に探しているのだろう。いつしかラクナシアが安心して生活できる場所を探してあげたい。そんな風に考えるのだった。
* * *
翌日、ウッドバーレン全土に衝撃が走った。
長老ユニの討伐命令──成功者には多大は報奨と名誉を贈る。
マルコ聖堂を守る神子であるユニを討伐すべくウッドバーレンの女王ヴィクトリアが勅令を出したのだ。
「ユニ討伐隊の総大将に聖女結衣様が任命されたそうよ」
長老の討伐というだけでも街中大騒ぎ、更に世界各地で困った人を助け歩いている聖女結衣が討伐隊に参加するとなれば、どこに行っても聞こえる程騒がれていた。
冷たい目を向けられていたラクナシアのことなんて目に入らないほどに人々は騒がしく慌ただしい。
聖女結衣は幼馴染の結衣なのかそれとも同名なだけなのか……シャンプからウッドバーレンに繋る路で見かけた結衣。あの容姿はまさしく結衣だった……。
気になりすぎて会いに行きたい思いばかりが強くなる……いや、結衣である確信の方が強いからこそだろう。
討伐隊の募集は残り1週間、向かうとすればラクナシアをどうする……もし聖女が結衣だとすればきっと助けてくれるだろう。
そんな都合の良い期待をこめてリュウコウに出発するのだった。
「お姉ちゃんたちはウッドバーレンは初めてなのかい?」
「はい、バスリングから来たばかりでこの国のことはあんまり……」
カッポンを教えてくれた老夫婦が神妙な顔をしながら口を開いた。
「この国に入る時、大変だっただろう」
お爺さんの言う通り入国するのは大変だった。何時間も質問攻め、結局はウォットに1泊することになってしまった。
「昔は優しくていい女王様だったのよ」
「婆さん、厳しくなってしまわれたのは2年ほど前じゃったかのぉ」
「その頃からだったわねぇ、異世界教を禁止したのは」
なんだろう……違和感がある。人が急に変わったというできごとに。
「そのお嬢ちゃんは獣人ですよねぇ」
温かい眼差しで見つめる婦人に「はい」と頷く。ラクナシアは指輪を嬉しそうに見つめていた。
「その時じゃったかのー婆さんや」
「獣人を迫害するようになったのも異世界教を禁止した辺りからだったのぉ……仲良くしてはダメだという雰囲気がいつのまにか出来てたのよ」
「昔は人間も獣人も思想も関係なく仲良くしてたんだけどのぉ」
網目のように張り巡らされている記憶のネットワーク、あちらこちらに見え隠れするぼやっとした複数の点、ある程度のピースは揃っているような気がするが、それらを組み上げる何かが欠けているように思えた。
「それじゃあ、気をつけてのぉ」
お爺さんは手を差し伸べて婦人を立ち上がらせると仲慎ましやかにお店を出ていった。
「さーて、僕たちは宿を探しに行こうか」
街道を歩けばラクナシアに冷たい視線が突き刺さり、宿に泊まろうと思えば断られていた。
いくつか断られ、畑に囲まれた街外れの宿屋で亭主に耳打ちされた。
「泊めてやるけど人の目があるからな、倍額出してもらっていいか」
「はい、ギラなら多く支払いますのでお願いします」
「よし決まりだ、演技するからな」
「俺は優しい人間だから倍額で泊めてやろう」
周りの人々に報せるように大きな声で話す。
そんな言葉に純粋なラクナシアは落ち込んでいたが、周囲の人たちは「たった倍額で泊めてあげるなんて良心的ね」とニヤニヤとしていた。
同じ心を持った生き物なのに……悲しさだけしかない。
獣人が人を襲ってた過去があると言うなら感情的になるかもしれない……理由はあるのだろうがいきなり方針を変えるからには何かしらあったのだろう。
「オッケーだぞ、2階の角部屋使ってくれ」
鍵を受け取った、ラノベ脳を興奮させる田舎のナーロッパ的な雰囲気、部屋の中まで作り込まれている。
「ラクナシア、ギルドで情報収集してくるよ。夕飯は適当に買ってくるから鍵を締めて待ってて」
ビクッとするラクナシア、首を大きく振って僕にガッシリしがみついた。彼女から手を通して細かな震えが伝わってくる。
彼女の両肩を掴むと肩が震えていた。
「分かった。ひとりが不安なのかな。今日は行くのを止めておくよ」
コクコク頷くラクナシア、僅かに目じりが下がり口角が上がった気がした。
「ご……ご主人様ごめんなさい……ひとりになるのが……怖いの」
必死に涙を堪えながら声を震わせる。
夕飯どうしようかなぁ、ジゲンフォーのバッグを使ってみるか。
出所の分からない……いつから入っているか分からない食べ物を口にするのはやっぱり怖い。
コンッコンッ──
ノックされたドア、ラクナシアは走ってベッドの下に丸まった。
「俺だー、開けてくれー」
「宿屋の亭主……はい、今行きます」
両手にトレーを持った亭主が立っていた。
「お金を倍払ってもらったからな、それとお嬢ちゃんを傷つけたお詫びだと思って食べてくれ」
亭主はテーブルにワンプレート料理を2つ置いた。
「実は俺な、獣人が好きなんだ。商売を続けるためには冷たくしなくちゃならん。すまんな」
ドアノブに右手をかけ左手で拝む仕草をしながら扉を開く。
「おっ、そうだ」、ポケットに手を入れてカッポンを取り出すと「お嬢ちゃんにやってくれ」と放った。
豪華に盛り付けられたプレートを前にラクナシアはパァーッと顔を赤らめて喜んでいる。
可愛らしく彩られたお子様プレート、一生懸命に顔に出さないようにしているので変顔状態。
「ラクナシア、喜びたい時は喜んで良いんだよ」
そんな言葉に安心したのかスプーンを握って小さく「ありがとう……ございます」と食べ始めた。
ニコニコ食べていたラクナシアの手が急に止まる。ポロポロと大粒の涙が流れ落ちた。
「どうしたの? 苦手なものでもあった?」
目線はミートボール、花見だんごのように剣形の串で3つ繋がっている。
「ご主人さまごめんなさい……パパとママ……戦士だったの……いつもみんなのためにご飯獲ってくれたのに……」
黙ってしまった。口をへの字にして必死に涙を堪えている。そんなラクナシアを守りたいと思った。
「大丈夫だよ。これから僕が家族だ……まだやることがあるけど、それが終わったら一緒にのんびり過ごせる場所を探そう」
「ご主人さま……ありがとう……ございます」
そういって涙で濡れた料理を食べた。
「しょっぱいけどとても美味しい」そんなラクナシアの言葉が愛おしかった。
「これ開けてみなよ」
カッポンを指差す。ラクナシアはカッポンを握りしめると魔法力を使って中身を取り出した。
「わぁ~」
笑顔。今までで一番だったかもしれない。中から出てきたのはネックレス、前に当たった指輪とお揃い。
「指輪とネックレスかぁ、華やかになったね」
ラクナシアは指輪とネックレスを一生懸命に見比べている。
指輪をポケットに入れると僕の前までトコトコ歩いてネックレスの鎖を両手で持つと、僕に手を伸ばした。
「くれるの?」
コクンと頷くラクナシア。僕は頭を下げると首にネックレスをかけてくれた。
「ありがとう」
小さいながらも自分の居場所を一生懸命に探しているのだろう。いつしかラクナシアが安心して生活できる場所を探してあげたい。そんな風に考えるのだった。
* * *
翌日、ウッドバーレン全土に衝撃が走った。
長老ユニの討伐命令──成功者には多大は報奨と名誉を贈る。
マルコ聖堂を守る神子であるユニを討伐すべくウッドバーレンの女王ヴィクトリアが勅令を出したのだ。
「ユニ討伐隊の総大将に聖女結衣様が任命されたそうよ」
長老の討伐というだけでも街中大騒ぎ、更に世界各地で困った人を助け歩いている聖女結衣が討伐隊に参加するとなれば、どこに行っても聞こえる程騒がれていた。
冷たい目を向けられていたラクナシアのことなんて目に入らないほどに人々は騒がしく慌ただしい。
聖女結衣は幼馴染の結衣なのかそれとも同名なだけなのか……シャンプからウッドバーレンに繋る路で見かけた結衣。あの容姿はまさしく結衣だった……。
気になりすぎて会いに行きたい思いばかりが強くなる……いや、結衣である確信の方が強いからこそだろう。
討伐隊の募集は残り1週間、向かうとすればラクナシアをどうする……もし聖女が結衣だとすればきっと助けてくれるだろう。
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