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(1)なんだっけ? キングギドラ?
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その春の夜は、北風が建物の間を強く吹き抜け、ジャンパーの保温性能がまったく意味をなしていなかった。私を見てと公園で優雅に咲き誇っていた桜の花びらが襲撃のような風で千切れ、暗い道の奥へ奥へとどんどん吹き転がされていく。
出迎えてくれる花が枯れた寂しい夜道を、買い物袋のマイバッグをぶら下げた男が、ぶるぶると震えながらとぼとぼ帰路についていた。
名は、三戸権平。古臭さを感じさせる名前だが、まだ20代。しかし日々の疲れが積み重なり、猫背で死人のように歩くその姿は、若い活力を感じられないようなものだった。
「ふざけんなよ令和ちゃん。やっと少し暖かくなったと思ったら、急に冬を返却してくるんじゃないよ……」
権平は立ち並ぶ背の低めなアパート内の一室に住んでいて、鮮やかな春に移り変わる頃だというのに、足取りが軽くなるような幸せが日々にまったく訪れていなかった。
職場、というよりリモートワークで我が家だというのに上司から酷く怒られたり、疲れから料理を用意できず外食とコンビニ弁当ばかりでお金が貯まらなかったり、色んな負が溜まってしんどいだけの日々が続いているという有様だった。
誰かがこんな自分を助けてくれないものか。そう考えながら小さな交差点を曲がった権平は、道端のライトに照らされたやや大きな黒い毛玉を発見した。
「なんだよ~、住宅街でこれ見よがしに犬捨てるなっつーの」
近寄らなくても犬だとわかった。汚れで艶を失った黒毛はボサボサで、冷たい地面にぐったりと力なく倒れ込んでいる。耳はへたれていて、見るからに元気が無さそうだ。
ただ、発見した方向がちょうど自宅アパートの目の前なので、面倒事を避けるために迂回することはできない。どうしても倒れた犬の目の前を通ってアパートに入ることになる。
よし、さっさと部屋に入って忘れよう。そう決心して、早足で倒れた子犬近くの自宅アパートの入り口まで向かう。
「きゅぅん……」
何も起こらなければそのまま家に入ってお終いだったのに!
見なかったふりをして目の前を通り過ぎようというところで、子犬は泣き声のように助けを求めるかのように、権平に対して力を振り絞って極めて小さな声で鳴いた。
「う、ぐ、くっ……! このアパートは動物禁止なんだっ」
権平の部屋はペット禁止。ケージに入るハムスターや水槽に入る金魚でさえ禁止なのだから、相当に厳しい。
しかし、子犬は「助けて」と懇願するかのようにもう一鳴き。その声はあまりにも悲痛で苦しそうで、いずれ春の暖かさが訪れるといっても、その時期まで耐えられなさそうな音色であった。
「あー、あぁー、くっそ、くっそくっそ! 保護だ保護。部屋で暖めて、その後に保護団体に電話!」
権平はいつもの日常でしている以上の深いため息をして、倒れた子犬に近寄りしゃがみこんだ。子犬へ歩み寄るのに相当に足取りが重かったが、かといって踏み出した足は戻ることを選択できなかった。
汚れてるとか毛じらみが部屋に湧きそうとか、細かいことは助けた後の話。
まずはどうすればいいのであろうか。エアコンをガンガンつけてひたすら部屋を暖かくして、柔らかい缶詰めの食品を食べさせて、集めのお湯を沸かして洗って……。
人間不思議なもので、一度やろうと決めて行動に移すと、他の物事をなかなか考えられなくなるものである。
「あれっ? なんだこの犬、頭が三つ?」
「きゅうん」「きゃいん」「くぅ~ん」
マイバッグの取っ手を腕にぶら下げて子犬を拾い上げた権平は、ある奇妙な点に気づいた。なんと黒い毛並みの子犬は、そっくりな頭部が3つもあったのだ。
夜の闇による見間違いではない。顔をぐっと寄せて凝視しすると、3つの頭は見つめ返したり、ぷいっと逸らしたり、突然の接近にぷるぷると怖がったりする。
頭がそれぞれ別の動作をするので、目を擦る必要もなかった。どう見ても個別の意志を持った頭が3つある。
「あ~……なんていうんだっけ? キング、ギドラ?」
3つの頭を持つ犬ならば昔の神話からすればケルベロスなのだが、とりあえず現代の有名な怪獣が先に頭に浮かんだ。
次いで、ゲームとかでこういうケルベロスみたいなのいたよなと考える。ケルベロスみたいなというより、ケルベロスそのものなのだが。
面食らいつつも、キングギドラだろうとケルベロスだろうと瀕死状態を放っておいたら死ぬだろうと、3つの頭を持つ汚れた子犬を後生大事に抱えて誰にも見られぬように自室にコソコソと入っていくのだった。
「しっかし頭が3つ、3つねぇ。突然変異というか、異常な遺伝子で生まれたのか? 元気な姿を撮ったら、バズったりするかな……」
部屋に入るなりエアコンを暖房モードにして、汗をかきそうなほどひたすら部屋を暖かくした。次は乾いた清潔なタオルで、ぼさぼさに逆立った毛や足を軽くふいて目立った汚れを取る。そして自分用に買ってあったサラダチキンを細かくちぎって一度レンジでチンし、小皿に乗せて不安そうな子犬の目の前に置いてみた。
虐待だのやらせだの変に騒がれるので、世にも珍しい三頭の子犬をバズ狙いで撮影するのは後の後の後。とりあえずはこの子犬が死なないように、あらゆる手を尽くさなければならない。
「きゅぅ?」「ガツガツッ」「くん……」
3つの頭は、運ばれた部屋内や権平、そして目の前に置かれたサラダチキンを警戒していたようだが、空腹の辛さに耐えられなかったようだ。
両サイドの頭が「やめておこう」とだんまりするものの、真ん中の頭が我慢せずに温かな肉へかぶりつく。
犬用ではないにしろ、良質なたんぱく質を美味しいと感じるのは肉食共通のようで、真ん中の頭は我先に我先にと顔を埋めるがごとく貪る。
するとまき散らされる肉の香りと食べてもいいのだという安心感に誘惑された両サイドの頭も、恐る恐る食べ始めたかと思うと、目を輝かせてサラダチキンにかぶりつく。
「よっぽどハラ減ってたんだなぁ」
体は共有しているといえど、頭は3つ。小皿に乗ったサラダチキンをぺろりと綺麗に平らげ、奇妙な子犬はもっともっととおねだりするかの如く尻尾をぶんぶん振り出す。
変わった犬とはいえど、その嬉しそうな姿が昔に実家で飼っていた犬を思い出させ、権平は待ってろと残りのサラダチキンを取りに台所へ向かう。
すると、とてててと可愛い足音を鳴らしながらついてきたので、試しに手にちぎったサラダチキンを乗せて直接の餌付けを試してみる。
「ぎゃう」「ぎゃぁん!」「ぐるるっ」
「ああコラっ、ケンカするなって。他の部屋にバレたらお前ら、最悪の場合は保健所だぞ? 処分されっからな」
犬は人並みに賢いというが、この子犬は相当のお利口さんらしい。保健所で処分されるという言葉を聞いた途端に、ぴたっとケンカを止め、大人しく権平の手に乗るサラダチキンを3つの頭で食いつくす。
「めっちゃ偉くねこの子。俺より利口で気が利くかもしれん……」
きちんと食事ができたので、体力は回復したようだ。あとは寝床とトイレの確保が必要で、シャワーで体の汚れをしっかり落とさなければならない。水は皿に溜めて床に置いておけば、勝手に飲んでくれるだろう。
寝床は余った毛布をまとめて、安心できるように部屋の隅に。トイレは専用のものが無いので、いらないというのに勝手に投函されるチラシを敷いて、それらしく配置。
者を用意した後の暖かいシャワーでは、子犬は恐れるどころか、むしろ汚れを落とすことに快感を感じているのかというくらいにリラックスしているようだった。
これなら体の部分はボディソープを少量つけていいかなと洗ってドライヤーで乾かせば、部分的だが艶があらわれ、なんとなくだがふわふわした感触を取り戻したように思えた。
「頭が3つあるから、その分賢いのか? 俺より賢そうな頭が3つ……なんか俺より稼ぐ力ありそうじゃね?」
三頭という世にも珍しい性質を持つので、生きているだけで偉い。さらに言うことをよく聞き賢いというのだから、権平と子犬を天秤にかけると、音を立てて子犬を乗せた皿が地面に落ちるほどの勢いで傾くだろう。
いやいや俺だってバズる動画を後で撮るんだしと自分を励ましても、権平はただ動画を隣で撮影するだけなので、結局は子犬のポテンシャルが高いことには変わりがない。
「って、色んなの準備してたらもうこんな時間かぁ」
お風呂に入れたり寝床など色んなものを即席で作り、子犬が不安に思わないようにじゃれるように遊んでいたら、時計の針はもう仲良く重なって12時を指そうとしていた。
見違えるように子犬は元気になったので、暑いとまで感じるエアコンは少々下げていいだろう。権平は子犬をそっと抱き上げて、先程に毛布をくるめて作った寝床代わりの場所へゆっくりと置く。
「きゅう?」「きゃう?」「くーん」
「あーだめだめっ、これ以上は遊ばないんだからな。まだ体力的に安心しきれるとは思ってないから、ゆっくり休んでくれた方が助かるし」
子犬に背を向けて枕元の小さなライトを点け、部屋全体を暗くする。そのまま、自分がくるくると包まれることができるような冬用の大きな布団にもぐり込んだ。
春直前とはいえ、冬のような寒さを思い出させる厳しい夜には、指先まで包んでくれる毛布があまりにも優しい。
と、安心したのも束の間。部屋の隅からかさかさと何かを探るような音がしたと思えば、隣に何か小さなものが布団をぐいぐい押しのけて潜りこんできた。
「ぁぁぁ、はぁ~あ……。今日だけだ、いいか今日だけだぞ。まだ予防注射とかそういうの打ってないんだろお前?」
寒い夜道にて空腹でさ迷うのは、犬といえど相当寂しい思いをしただろう。権平も飲み会の帰り道で電車を乗り間違え、まったくわからない町をさ迷い歩いたこともあるのでよくわかった。
左腕を横に開くようにすると、その空いたわき腹のスペースへと子犬はすっぽりと収まった。
日々の業務の疲れと今回の子犬のお世話の疲れ。枕もとの小さなライトを消した権平は、目を閉じて数分もしない内に、気絶するかのように一気に眠りへと落ちてしまった。
そして、体にまとわりつく新たな奇妙な重量感にすら気づかず、朝までぐったりと死人のように眠り続けるのだった……。
出迎えてくれる花が枯れた寂しい夜道を、買い物袋のマイバッグをぶら下げた男が、ぶるぶると震えながらとぼとぼ帰路についていた。
名は、三戸権平。古臭さを感じさせる名前だが、まだ20代。しかし日々の疲れが積み重なり、猫背で死人のように歩くその姿は、若い活力を感じられないようなものだった。
「ふざけんなよ令和ちゃん。やっと少し暖かくなったと思ったら、急に冬を返却してくるんじゃないよ……」
権平は立ち並ぶ背の低めなアパート内の一室に住んでいて、鮮やかな春に移り変わる頃だというのに、足取りが軽くなるような幸せが日々にまったく訪れていなかった。
職場、というよりリモートワークで我が家だというのに上司から酷く怒られたり、疲れから料理を用意できず外食とコンビニ弁当ばかりでお金が貯まらなかったり、色んな負が溜まってしんどいだけの日々が続いているという有様だった。
誰かがこんな自分を助けてくれないものか。そう考えながら小さな交差点を曲がった権平は、道端のライトに照らされたやや大きな黒い毛玉を発見した。
「なんだよ~、住宅街でこれ見よがしに犬捨てるなっつーの」
近寄らなくても犬だとわかった。汚れで艶を失った黒毛はボサボサで、冷たい地面にぐったりと力なく倒れ込んでいる。耳はへたれていて、見るからに元気が無さそうだ。
ただ、発見した方向がちょうど自宅アパートの目の前なので、面倒事を避けるために迂回することはできない。どうしても倒れた犬の目の前を通ってアパートに入ることになる。
よし、さっさと部屋に入って忘れよう。そう決心して、早足で倒れた子犬近くの自宅アパートの入り口まで向かう。
「きゅぅん……」
何も起こらなければそのまま家に入ってお終いだったのに!
見なかったふりをして目の前を通り過ぎようというところで、子犬は泣き声のように助けを求めるかのように、権平に対して力を振り絞って極めて小さな声で鳴いた。
「う、ぐ、くっ……! このアパートは動物禁止なんだっ」
権平の部屋はペット禁止。ケージに入るハムスターや水槽に入る金魚でさえ禁止なのだから、相当に厳しい。
しかし、子犬は「助けて」と懇願するかのようにもう一鳴き。その声はあまりにも悲痛で苦しそうで、いずれ春の暖かさが訪れるといっても、その時期まで耐えられなさそうな音色であった。
「あー、あぁー、くっそ、くっそくっそ! 保護だ保護。部屋で暖めて、その後に保護団体に電話!」
権平はいつもの日常でしている以上の深いため息をして、倒れた子犬に近寄りしゃがみこんだ。子犬へ歩み寄るのに相当に足取りが重かったが、かといって踏み出した足は戻ることを選択できなかった。
汚れてるとか毛じらみが部屋に湧きそうとか、細かいことは助けた後の話。
まずはどうすればいいのであろうか。エアコンをガンガンつけてひたすら部屋を暖かくして、柔らかい缶詰めの食品を食べさせて、集めのお湯を沸かして洗って……。
人間不思議なもので、一度やろうと決めて行動に移すと、他の物事をなかなか考えられなくなるものである。
「あれっ? なんだこの犬、頭が三つ?」
「きゅうん」「きゃいん」「くぅ~ん」
マイバッグの取っ手を腕にぶら下げて子犬を拾い上げた権平は、ある奇妙な点に気づいた。なんと黒い毛並みの子犬は、そっくりな頭部が3つもあったのだ。
夜の闇による見間違いではない。顔をぐっと寄せて凝視しすると、3つの頭は見つめ返したり、ぷいっと逸らしたり、突然の接近にぷるぷると怖がったりする。
頭がそれぞれ別の動作をするので、目を擦る必要もなかった。どう見ても個別の意志を持った頭が3つある。
「あ~……なんていうんだっけ? キング、ギドラ?」
3つの頭を持つ犬ならば昔の神話からすればケルベロスなのだが、とりあえず現代の有名な怪獣が先に頭に浮かんだ。
次いで、ゲームとかでこういうケルベロスみたいなのいたよなと考える。ケルベロスみたいなというより、ケルベロスそのものなのだが。
面食らいつつも、キングギドラだろうとケルベロスだろうと瀕死状態を放っておいたら死ぬだろうと、3つの頭を持つ汚れた子犬を後生大事に抱えて誰にも見られぬように自室にコソコソと入っていくのだった。
「しっかし頭が3つ、3つねぇ。突然変異というか、異常な遺伝子で生まれたのか? 元気な姿を撮ったら、バズったりするかな……」
部屋に入るなりエアコンを暖房モードにして、汗をかきそうなほどひたすら部屋を暖かくした。次は乾いた清潔なタオルで、ぼさぼさに逆立った毛や足を軽くふいて目立った汚れを取る。そして自分用に買ってあったサラダチキンを細かくちぎって一度レンジでチンし、小皿に乗せて不安そうな子犬の目の前に置いてみた。
虐待だのやらせだの変に騒がれるので、世にも珍しい三頭の子犬をバズ狙いで撮影するのは後の後の後。とりあえずはこの子犬が死なないように、あらゆる手を尽くさなければならない。
「きゅぅ?」「ガツガツッ」「くん……」
3つの頭は、運ばれた部屋内や権平、そして目の前に置かれたサラダチキンを警戒していたようだが、空腹の辛さに耐えられなかったようだ。
両サイドの頭が「やめておこう」とだんまりするものの、真ん中の頭が我慢せずに温かな肉へかぶりつく。
犬用ではないにしろ、良質なたんぱく質を美味しいと感じるのは肉食共通のようで、真ん中の頭は我先に我先にと顔を埋めるがごとく貪る。
するとまき散らされる肉の香りと食べてもいいのだという安心感に誘惑された両サイドの頭も、恐る恐る食べ始めたかと思うと、目を輝かせてサラダチキンにかぶりつく。
「よっぽどハラ減ってたんだなぁ」
体は共有しているといえど、頭は3つ。小皿に乗ったサラダチキンをぺろりと綺麗に平らげ、奇妙な子犬はもっともっととおねだりするかの如く尻尾をぶんぶん振り出す。
変わった犬とはいえど、その嬉しそうな姿が昔に実家で飼っていた犬を思い出させ、権平は待ってろと残りのサラダチキンを取りに台所へ向かう。
すると、とてててと可愛い足音を鳴らしながらついてきたので、試しに手にちぎったサラダチキンを乗せて直接の餌付けを試してみる。
「ぎゃう」「ぎゃぁん!」「ぐるるっ」
「ああコラっ、ケンカするなって。他の部屋にバレたらお前ら、最悪の場合は保健所だぞ? 処分されっからな」
犬は人並みに賢いというが、この子犬は相当のお利口さんらしい。保健所で処分されるという言葉を聞いた途端に、ぴたっとケンカを止め、大人しく権平の手に乗るサラダチキンを3つの頭で食いつくす。
「めっちゃ偉くねこの子。俺より利口で気が利くかもしれん……」
きちんと食事ができたので、体力は回復したようだ。あとは寝床とトイレの確保が必要で、シャワーで体の汚れをしっかり落とさなければならない。水は皿に溜めて床に置いておけば、勝手に飲んでくれるだろう。
寝床は余った毛布をまとめて、安心できるように部屋の隅に。トイレは専用のものが無いので、いらないというのに勝手に投函されるチラシを敷いて、それらしく配置。
者を用意した後の暖かいシャワーでは、子犬は恐れるどころか、むしろ汚れを落とすことに快感を感じているのかというくらいにリラックスしているようだった。
これなら体の部分はボディソープを少量つけていいかなと洗ってドライヤーで乾かせば、部分的だが艶があらわれ、なんとなくだがふわふわした感触を取り戻したように思えた。
「頭が3つあるから、その分賢いのか? 俺より賢そうな頭が3つ……なんか俺より稼ぐ力ありそうじゃね?」
三頭という世にも珍しい性質を持つので、生きているだけで偉い。さらに言うことをよく聞き賢いというのだから、権平と子犬を天秤にかけると、音を立てて子犬を乗せた皿が地面に落ちるほどの勢いで傾くだろう。
いやいや俺だってバズる動画を後で撮るんだしと自分を励ましても、権平はただ動画を隣で撮影するだけなので、結局は子犬のポテンシャルが高いことには変わりがない。
「って、色んなの準備してたらもうこんな時間かぁ」
お風呂に入れたり寝床など色んなものを即席で作り、子犬が不安に思わないようにじゃれるように遊んでいたら、時計の針はもう仲良く重なって12時を指そうとしていた。
見違えるように子犬は元気になったので、暑いとまで感じるエアコンは少々下げていいだろう。権平は子犬をそっと抱き上げて、先程に毛布をくるめて作った寝床代わりの場所へゆっくりと置く。
「きゅう?」「きゃう?」「くーん」
「あーだめだめっ、これ以上は遊ばないんだからな。まだ体力的に安心しきれるとは思ってないから、ゆっくり休んでくれた方が助かるし」
子犬に背を向けて枕元の小さなライトを点け、部屋全体を暗くする。そのまま、自分がくるくると包まれることができるような冬用の大きな布団にもぐり込んだ。
春直前とはいえ、冬のような寒さを思い出させる厳しい夜には、指先まで包んでくれる毛布があまりにも優しい。
と、安心したのも束の間。部屋の隅からかさかさと何かを探るような音がしたと思えば、隣に何か小さなものが布団をぐいぐい押しのけて潜りこんできた。
「ぁぁぁ、はぁ~あ……。今日だけだ、いいか今日だけだぞ。まだ予防注射とかそういうの打ってないんだろお前?」
寒い夜道にて空腹でさ迷うのは、犬といえど相当寂しい思いをしただろう。権平も飲み会の帰り道で電車を乗り間違え、まったくわからない町をさ迷い歩いたこともあるのでよくわかった。
左腕を横に開くようにすると、その空いたわき腹のスペースへと子犬はすっぽりと収まった。
日々の業務の疲れと今回の子犬のお世話の疲れ。枕もとの小さなライトを消した権平は、目を閉じて数分もしない内に、気絶するかのように一気に眠りへと落ちてしまった。
そして、体にまとわりつく新たな奇妙な重量感にすら気づかず、朝までぐったりと死人のように眠り続けるのだった……。
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