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サフィアの一日に負けない!⑥
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「なぜですの。どうして夢が壊れたんですの、目覚めたんですの!? ま、まさか、私が自分から壊して!?」
ただの人間にサキュバスロードの夢の世界をその中から砕けるだけの力はない。すると、夢を壊したのはサフィア自身か、外部の者による力となる。
しかし、この部屋にいるのはレックスとサフィア、そして昏倒したヴァネッサだけ。強力な力を持つマーガレットは未だに昏睡している。すると、必然的に夢の世界を壊したのはサフィア自身ということになる。
「な、ならもう一度眠らせてやりますの! もう一度堕としてしまえば――」
「なぁ。未来と入れ替わったって、嘘なんだろ? ここにいるのは紛れもない今のサフィアだ。それに、母さんが実験をやっていたというのも嘘だろ?」
サフィアの言葉を遮り、レックスが自分の考えを言う。本当はサフィアは未来の自分と入れ替わったのではなく、ただ薬品で異常な急成長を遂げただけなのだと。
「何を、いきなり。何を証拠にそんなことを」
「だって、さっきサフィアは『先日アイヴィお姉さまから受けた折檻の内容を話す』と言ったんだ」
「それがなんですの?」
「おかしいだろ。未来の、それも十数年後のサフィアが『先日』なんて言い方をするか?」
「うっ」
痛いとこを突かれたとサフィアは言い淀む。上手く反論を述べることができず、ただ押し黙る。その様子が彼女は紛れもなく今のサフィアなのだと証明していた。
「それに、やっぱりなんやかんやでなんて理論は無理があるよ。あと昔の自分と入れ替わったのなら、もう少し動揺したり感動したりすると思うんだけど」
「う、うぅ」
完全に嘘だと見抜かれた。サフィアはぺたりと地面に座り込み、膝の上で両手をぎゅっと握る。
「なんで未来と入れ替わったなんていう嘘をついてまで、ボクとエッチしようと思ったんだ?」
「……だって、だって」
他人のために泣く子。だがしかし、兄と姉を手にかけようとした彼女の心は限界であった。いわば逆切れの形で、涙を流しながら彼女は酷い具合でわめく。
「お兄ちゃんはアタシのこと愛してくれないもん!」
「サフィ、ア」
「いつも媚薬とか痺れ薬とか使わないとアタシとエッチしてくれなくて、誘惑も効かないんだもん! アタシのこと幸せにするって言っておきながら、どうしてアタシと自分からエッチなことしてくれないの!? どうしてよ!!」
まさかそんなことを考えていたのか。自分が攻めないことでサフィアのプライドを傷つけ、さらに寂しい思いをさせてきたのかとレックスは後悔した。確かに、サフィアに襲われないと性行為はしていなかった。
互いの間に少しばかりの沈黙が流れる。だがその沈黙を破り、レックスが謝罪と共に考えていたことを述べた。
「その、ゴメン。サフィアはボクと同じくらいの体格だろ? サキュバス相手にこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、まだ幼いサフィアを襲ったりしたら、その、傷ついちゃうんじゃないかなってずっと思ってた」
「そう、なの?」
「サフィアが僕より年上なのは知ってる。この家にボクが先にいたから、ボクのことをお兄ちゃんって呼ぶのも知ってる。でも、やっぱりそうなると、ボクはお前が、大事な妹に思えてくるんだ。妹に……乱暴なことや無理矢理だなんてしたくない」
しゃくり上げながらもサフィアはレックスの言葉を受け止めた。彼女を自制して襲わなかったのは、兄なりの優しさだったのだ。
自分は兄のことを完全には理解できていなかったのだという羞恥と共に、自分が姉達より劣っているわけではなく、兄もまた自分のことを思っていたのだとサフィアは安堵した。
が、安堵したのも束の間。ボフンッ、と一瞬の間に大量の煙を体から吹き出すサフィア。あっという間に煙は晴れ、そこにはぶかぶかの服をまとったいつものサフィアがへたり込んでいた。
「あっ、戻っちゃった……」
せっかく兄が好きそうな体だったのにとサフィアは落ち込み、かくりと首を垂れる。
だが、そんなサフィアへ歩み寄り、レックスはかがんでその肩に手を置く。
「大丈夫、サフィアはサフィアだから。どんなサフィアでもボクは好きだ」
「お兄ちゃん……」
「それと、ヴァネッサをきちんとベッドで寝かせて、アイヴィに事情を説明した後に……その、ボクの部屋へ行こうか」
「えっ? それって」
「えっと、収まりがつかないんだ。夢の中であんなすごいことされたらさ」
サフィアがレックスの股間に視線を落とす。確かにズボンを内側から破ろうとするばかりに大きくなっている。
それを見て、サフィアは涙をぬぐっていつもの悪戯染みた笑みを浮かべた。
「にひひっ。搾り取っちゃうんだから。覚悟してよね? お兄ちゃん」
「まったく調子いいんだからさぁ」
アイヴィに説明をしてきっちりとサフィアが怒られた後、レックスの部屋で2人の甘い情交が続いたという。
そして後日。レックスが部屋の中で勉強をしている最中で。
部屋のドアがノックされる。誰かが休憩のためにお茶と菓子でも持ってきたのかなとレックスは考え、部屋の中にそのまま入ることを許可した。
「はーい。いいよ、そのまま入ってきて」
「うふふっ。お邪魔しまぁす、お・に・い・さ・ま」
部屋へ入ってきたのは予想外の人物だった。恐らく、もう見ることは当分の間無いだろうと思っていた人物。
黒色でゆったりとした服に、その上からでもわかるほどの妖美なボディ。さらりと流れるような水色の長い髪に、ぱっちりとした目と長いまつ毛。大人サフィア、再度の襲撃だった。もちろん遊びに来たようで、その手に菓子などが乗ったトレイなどない。
「げっ!? サフィア!? な、なんでまたその姿に……」
「どうやら、自由に大人の格好になることができるようになったみたいですの~。大人の体になると掃除とか色々と便利ですのよ? あっ、口調は好みですの? 私、この口調が気に入っているんですの」
「う、うん、イイトオモウヨ」
「むっ、その反応はどうなんですの? ちょっと面倒なことになったぞというのは手に取るようにわかりましたの」
腰に手を当て、むっとするサフィア。たじろぐレックスはさっさとお帰り願おうと、視線を彼女から背けて机に向き直る。
「あのっ、ボク勉強中なんだけど」
「後でもそれはできますの。と、いうわけで~。どんなサフィアでも愛する、サフィア好きだ~等の言質もとったので、これからい~っぱい愛し合いましょうね? お兄様大好きですの~」
「ハ、ハハ……」
レックスは考えた、「これは、ボク、持たないかもしれない」と。そして、「サキュバスメイドになら負けないが、未来のお嫁さんには勝てないかもしれない」とも。
もうどうにでもなってくれ。そう考えてレックスはだらりと背もたれに身を預けた。
「ふふっ、だ・い・す・き・ですの」
かがんでの抱擁と共に、耳に吹きかけられる息。レックスはびくりと震えあがった後、気恥ずかしそうに大人のサフィアを抱き返した。
サフィアは幸せそうに、より強く幸せそうに抱き返すのだった。
「あっ、お兄様はお尻で遊ばれるのは好きですの? とっても気持ちよさそうにしてましたの~」
「そそそっ、そんなわけないだろっ!! いきなり何言い出すんだよ!」
「にひひっ、じゃあとびっきり気持ちよいのを考えておきますの。前立腺マッサージとか……くすっ。あと、夢の中で何度も好きと言っていましたが、私は別にお兄様に言わせてませんの。あんなに搾られて喜ぶなんて、ドMの才があると見てよろしいですの?」
「やめろ~! そういうのは嫌だあああああ!」
やれやれ。空いたドアの隙間から中を見つめるアイヴィとヴァネッサは、2人して同じように首を振るのだった。
しかし、彼女達からはレックスとサフィアがとても幸せそうに見えたという。
そして……。
「うっ……?」
「お兄様?」
異変が、始まった。
ただの人間にサキュバスロードの夢の世界をその中から砕けるだけの力はない。すると、夢を壊したのはサフィア自身か、外部の者による力となる。
しかし、この部屋にいるのはレックスとサフィア、そして昏倒したヴァネッサだけ。強力な力を持つマーガレットは未だに昏睡している。すると、必然的に夢の世界を壊したのはサフィア自身ということになる。
「な、ならもう一度眠らせてやりますの! もう一度堕としてしまえば――」
「なぁ。未来と入れ替わったって、嘘なんだろ? ここにいるのは紛れもない今のサフィアだ。それに、母さんが実験をやっていたというのも嘘だろ?」
サフィアの言葉を遮り、レックスが自分の考えを言う。本当はサフィアは未来の自分と入れ替わったのではなく、ただ薬品で異常な急成長を遂げただけなのだと。
「何を、いきなり。何を証拠にそんなことを」
「だって、さっきサフィアは『先日アイヴィお姉さまから受けた折檻の内容を話す』と言ったんだ」
「それがなんですの?」
「おかしいだろ。未来の、それも十数年後のサフィアが『先日』なんて言い方をするか?」
「うっ」
痛いとこを突かれたとサフィアは言い淀む。上手く反論を述べることができず、ただ押し黙る。その様子が彼女は紛れもなく今のサフィアなのだと証明していた。
「それに、やっぱりなんやかんやでなんて理論は無理があるよ。あと昔の自分と入れ替わったのなら、もう少し動揺したり感動したりすると思うんだけど」
「う、うぅ」
完全に嘘だと見抜かれた。サフィアはぺたりと地面に座り込み、膝の上で両手をぎゅっと握る。
「なんで未来と入れ替わったなんていう嘘をついてまで、ボクとエッチしようと思ったんだ?」
「……だって、だって」
他人のために泣く子。だがしかし、兄と姉を手にかけようとした彼女の心は限界であった。いわば逆切れの形で、涙を流しながら彼女は酷い具合でわめく。
「お兄ちゃんはアタシのこと愛してくれないもん!」
「サフィ、ア」
「いつも媚薬とか痺れ薬とか使わないとアタシとエッチしてくれなくて、誘惑も効かないんだもん! アタシのこと幸せにするって言っておきながら、どうしてアタシと自分からエッチなことしてくれないの!? どうしてよ!!」
まさかそんなことを考えていたのか。自分が攻めないことでサフィアのプライドを傷つけ、さらに寂しい思いをさせてきたのかとレックスは後悔した。確かに、サフィアに襲われないと性行為はしていなかった。
互いの間に少しばかりの沈黙が流れる。だがその沈黙を破り、レックスが謝罪と共に考えていたことを述べた。
「その、ゴメン。サフィアはボクと同じくらいの体格だろ? サキュバス相手にこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、まだ幼いサフィアを襲ったりしたら、その、傷ついちゃうんじゃないかなってずっと思ってた」
「そう、なの?」
「サフィアが僕より年上なのは知ってる。この家にボクが先にいたから、ボクのことをお兄ちゃんって呼ぶのも知ってる。でも、やっぱりそうなると、ボクはお前が、大事な妹に思えてくるんだ。妹に……乱暴なことや無理矢理だなんてしたくない」
しゃくり上げながらもサフィアはレックスの言葉を受け止めた。彼女を自制して襲わなかったのは、兄なりの優しさだったのだ。
自分は兄のことを完全には理解できていなかったのだという羞恥と共に、自分が姉達より劣っているわけではなく、兄もまた自分のことを思っていたのだとサフィアは安堵した。
が、安堵したのも束の間。ボフンッ、と一瞬の間に大量の煙を体から吹き出すサフィア。あっという間に煙は晴れ、そこにはぶかぶかの服をまとったいつものサフィアがへたり込んでいた。
「あっ、戻っちゃった……」
せっかく兄が好きそうな体だったのにとサフィアは落ち込み、かくりと首を垂れる。
だが、そんなサフィアへ歩み寄り、レックスはかがんでその肩に手を置く。
「大丈夫、サフィアはサフィアだから。どんなサフィアでもボクは好きだ」
「お兄ちゃん……」
「それと、ヴァネッサをきちんとベッドで寝かせて、アイヴィに事情を説明した後に……その、ボクの部屋へ行こうか」
「えっ? それって」
「えっと、収まりがつかないんだ。夢の中であんなすごいことされたらさ」
サフィアがレックスの股間に視線を落とす。確かにズボンを内側から破ろうとするばかりに大きくなっている。
それを見て、サフィアは涙をぬぐっていつもの悪戯染みた笑みを浮かべた。
「にひひっ。搾り取っちゃうんだから。覚悟してよね? お兄ちゃん」
「まったく調子いいんだからさぁ」
アイヴィに説明をしてきっちりとサフィアが怒られた後、レックスの部屋で2人の甘い情交が続いたという。
そして後日。レックスが部屋の中で勉強をしている最中で。
部屋のドアがノックされる。誰かが休憩のためにお茶と菓子でも持ってきたのかなとレックスは考え、部屋の中にそのまま入ることを許可した。
「はーい。いいよ、そのまま入ってきて」
「うふふっ。お邪魔しまぁす、お・に・い・さ・ま」
部屋へ入ってきたのは予想外の人物だった。恐らく、もう見ることは当分の間無いだろうと思っていた人物。
黒色でゆったりとした服に、その上からでもわかるほどの妖美なボディ。さらりと流れるような水色の長い髪に、ぱっちりとした目と長いまつ毛。大人サフィア、再度の襲撃だった。もちろん遊びに来たようで、その手に菓子などが乗ったトレイなどない。
「げっ!? サフィア!? な、なんでまたその姿に……」
「どうやら、自由に大人の格好になることができるようになったみたいですの~。大人の体になると掃除とか色々と便利ですのよ? あっ、口調は好みですの? 私、この口調が気に入っているんですの」
「う、うん、イイトオモウヨ」
「むっ、その反応はどうなんですの? ちょっと面倒なことになったぞというのは手に取るようにわかりましたの」
腰に手を当て、むっとするサフィア。たじろぐレックスはさっさとお帰り願おうと、視線を彼女から背けて机に向き直る。
「あのっ、ボク勉強中なんだけど」
「後でもそれはできますの。と、いうわけで~。どんなサフィアでも愛する、サフィア好きだ~等の言質もとったので、これからい~っぱい愛し合いましょうね? お兄様大好きですの~」
「ハ、ハハ……」
レックスは考えた、「これは、ボク、持たないかもしれない」と。そして、「サキュバスメイドになら負けないが、未来のお嫁さんには勝てないかもしれない」とも。
もうどうにでもなってくれ。そう考えてレックスはだらりと背もたれに身を預けた。
「ふふっ、だ・い・す・き・ですの」
かがんでの抱擁と共に、耳に吹きかけられる息。レックスはびくりと震えあがった後、気恥ずかしそうに大人のサフィアを抱き返した。
サフィアは幸せそうに、より強く幸せそうに抱き返すのだった。
「あっ、お兄様はお尻で遊ばれるのは好きですの? とっても気持ちよさそうにしてましたの~」
「そそそっ、そんなわけないだろっ!! いきなり何言い出すんだよ!」
「にひひっ、じゃあとびっきり気持ちよいのを考えておきますの。前立腺マッサージとか……くすっ。あと、夢の中で何度も好きと言っていましたが、私は別にお兄様に言わせてませんの。あんなに搾られて喜ぶなんて、ドMの才があると見てよろしいですの?」
「やめろ~! そういうのは嫌だあああああ!」
やれやれ。空いたドアの隙間から中を見つめるアイヴィとヴァネッサは、2人して同じように首を振るのだった。
しかし、彼女達からはレックスとサフィアがとても幸せそうに見えたという。
そして……。
「うっ……?」
「お兄様?」
異変が、始まった。
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