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妹メスガキ系からかいサキュバスに負けない!

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「おはよう……」

 パジャマから赤の刺繍ししゅうがあしらわれたタイトなシャツに着替えたレックスは、気だるげに食堂のドアを開けた。

 ドアを開けると見える大きなテーブルの奥側に座っていたのは、40代にしては若々しく見える男性。その隣にはカップに入ったティーをゆっくりと飲む、黒い堕天使のような翼を生やした貴婦人。

 自分という息子がいながらも人間の母親がいないことから、やっぱり少々複雑な家庭環境だなとレックスは自嘲した。

「おはようレックス! いい夢は見れたかな? いや、その様子だと搾り取られたみたいだな! むしろサキュバスを満足させてやるくらいじゃないと、成長した時に領主の仕事で体力が持たんぞ! マーガレットのようなサキュバスクイーンを満足させるくらいなら安泰あんたいだ!」

「うるさいよクソ親父。というか親父の体力が異常すぎるんだよ。ていうかなんだよサキュバスクイーン種を満足させる体力って。人間越えてる化け物じゃん」

「いやぁそれほどでもない!」

「褒めてねぇから」

 がはは、とレックスが見るにクソ親父は大口を開けて笑う。無精ひげを生やしたその男は、レックスの不満などお構いなしだ。
 そしてその隣に座る妖美な魅力を持つ女性が、ティーが入ったカップを小皿に置いてレックスに微笑んだ。

「ふふっ、マスターは昨晩もわらわがイキ死ぬくらい愛してくれたぞ? レックスもきちんと我が娘を愛するようにできなければなぁ?」

「クソ親父との情事のことなんて報告しなくていいよ母さん。ていうか義理の母親とはいえ、娘と愛し合わせるのおかしいだろっ」

 棘のある言い方をするレックス。そうすると黒の貴婦人はしゅんとしおらしくなり、家族マスターに助けを求めだした。

「うぇぇん、マスタぁ、レックスが冷たいぃ。反抗期が来たぁ」

「おおマーガレット。レックスはもう12歳だから思春期真っ盛りだな。ここは温かい目で見守っていてあげよう」

 どうしよう、父母のいちゃラブって見ていてこんなにもイラつくものなのだろうか。そう考えたレックスは腰の後ろに震える握りこぶしを隠し、さっさと自分の席につく。

 朝食が運ばれてくるまでこの二人のムカつくラブラブ具合を見ていなきゃならないのかと彼は辟易へきえきした。

 いや、無心になる。レックスは心を殺して死んだ目になり、二人が繰り返すバードキスの様子を無心で見る。そうしている内に食堂のドアが開かれて、小型の銀色ワゴンを押す空色の髪をした小悪魔が入ってきた。

 アイヴィよりは背が低く、背丈が低めなレックスと同じくらいの身長だ。ふりふりとしたレース模様がふんだんなメイド服で着飾る姿は、とても可愛らしい。

「お~はようございま~っす! 朝食をお持ち致しましたぁ」

 白いパンと鶏肉が主食、そして健康を保つためにたっぷりと盛られたサラダ。朝食の内容はいつもと変わらない。いわゆる貴族階級の普通の食事である。

 だが、普通の食卓に小柄な小悪魔、いや、サキュバスなんていないのだ。髪と同じ色の透き通るように綺麗な水色をした翼と細い尻尾を持つサキュバスが、朝の食卓にいてたまるだろうか? いやいない。

「サフィア、朝から元気だな……」

「にひひっ、お兄ちゃんは元気ないね? まさかアイヴィお姉ちゃんに朝からしっぽりと? いけないんだぁ」

 朝食が乗った皿を慣れた手つきでレックスの前に並べながら、サフィアという名の小悪魔サキュバスはクスクスとからかうように笑う。
 四面楚歌。朝食の時間ですら自分を助けてくれる者はいないのかとレックスは顔をしかめた。

「味方が、味方がいない……」

「まぁまぁ、まずは水でも飲んで落ち着こ? 今日はたっぷりとお休みできる日なんだから、朝ご飯が終わったらあとは自由だよ?」

「あぁ、すまない」

 水の入ったコップを手渡して微笑むサフィア。その直後に右目が水色で、左目が赤色というオッドアイが面白いものを見る目つきとなる。

 これは水に何か仕込んでいるのでは? とレックスは警戒するが、まさか朝食に仕込んでくるなんてことは無いだろうと水を少し口に含む。
 味に問題はなし、舌にも痺れるような変化はなし。これはただの水だなと判断してゆっくりと飲み込む。

 だがその瞬間に合わせて、サフィアは突然かがんでぴらっとメイド服を引き下ろして胸元を見せた。ぎょっとしてつい、レックスは彼女の胸を凝視してしまう。
 彼にはメイド服と柔肌の間から、一瞬桜色のアレが見えたわけで……。

「んん゛!? ごふっ、ごふっ!」

「にひひ~、お兄ちゃんいやらしいんだ~。こんなレベルのいたずらに引っかかっちゃうなんてさぁ~。びっくりした感情ごちそうさまぁ」

 くすくすと小馬鹿にするように笑うサフィア。しばらく咳き込んだレックスを見て、マーガレットはサフィアに注意する。

「これこれサフィア。食事前にいたずらするのはやめよ」

「は~い、お母様」

 マーガレットに注意されはしたが、サフィアの尻尾はゆらゆらと楽しそうに揺れる。また、いさめたはずのマーガレットもにんまりと愉悦の笑みを浮かべていた。

「じゃあまた後でね、お兄ちゃん。……ちゅっ。にひひっ、後でいっぱい相手をしてあ・げ・る」

 突然のついばむような一瞬のキス。サフィアは口を離した後、頬を少し赤く染めながらにこりと笑い、指でレックスの鼻をつんとつつく。そしてそのまま食堂の外へルンルンと弾むように歩いていってしまった。

「……ふぁ?」

 急にキスされたものなので硬直するレックス。次いで、キスされたということを確かめるように自分の唇を指でなぞる。あの頬の赤らめ方は何なのか? 後で一体何をされるのか?
 自分は完全にロックオンされていると考えた瞬間、レックスはボッと顔を赤くした。

「一本取られたな、レックス」

 父親がまたがははと笑い、隣に座るマーガレットもクククっと声を漏らす。

「取られてないが? 予想の範疇はんちゅうだったが? まったく驚いていないが?」

 可愛らしいメスガキにからかわれるようにキスされたことで硬直などしていないと、レックスの体の中でマグマがぐつぐつと煮えたぎる。
「は? 愛しい妹系サキュバスに驚かされたりなんかしていないが?」「むしろこっちからキスするつもりだったが?」「後で相手をしてもらうんじゃない、こっちがしてあげるんだが?」と憤りを覚えつつ、絶対にサキュバスの思う通りになんかなってやらないと朝食をかき込むのだった。
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