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ー試練ー
DAY 2-8
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日が沈み、夕食の時間が来た。何となく、あの広場に行きたくなかった。紀香と顔を合わせるのが気まずい。夕食時に広場に集まるのは絶対遵守のルールでは無いので、守る必要はない。
野崎とポーカーをした後も、野崎との会話がぼんやりと頭に残っていた。信じられるのは己のみ。果たして、本当にそうなのだろうか。自分自身、いまだに答えが見つけられなかった。
「…行こう」
やはりもう一度謝りにいこう。せっかく、こんな俺にも優しくしてくれた人だ。このまましっかりと仲直り出来ないのは辛い。勇気を出して、行こう。
広場では既に、各々が夕食を食べながら雑談をしていた。匂いや皿を見る限りでは…今夜は、シチューのようだ。
ひとまず皿にシチューを盛ってもらい、紀香を探す。が、彼女の姿はない。来ていないのだろうか…
「斎藤さんをお探しですか?」
右肩から首がニュッと伸びてきた。思わず変な声を上げてしまう。首の正体は、志賀だった。周りの注目を浴び、くすくすと笑い声が聞こえた。赤面しつつ、志賀に尋ねる。
「そうです…」
「彼女なら、三田さんとあちらの方へ向かいましたがね」
ニヤリとしながら暗闇を指差す。頭を軽く下げ、早足で向かう。一刻も早くこの場を去りたかった。しかし、よりによって三田と一緒にいるとは、どういう事だ?
暫く歩くと、暗闇にベンチが照らされていた。そこに、猫背の三田と語り合う紀香の姿があった。ちょうど、三田が立ち上がり、去ろうとしている場面だった。
三田は軽く手を振り、紀香は会釈する。彼はこちらへ向かってきた。
「お、君か。いい夜だね」
振り向きざまに肩を叩き、ウィンクをかます。こんなアニメにしかいないような奴が現実にいるとは。少しだけ寒気がした。
すぐに紀香の方へ視線を移す。目が合った。思わず、互いに目を逸らしてしまう。
ゴクリと息を飲み、勇気を出して話しかける。
「あ、あの。昼間は本当にすみませんでした。何か、変なテンションになってて…ほんとに、すみません」
頭を深く下げる。紀香は少し驚いたような表情をし、微笑んだ。
「顔を上げて。もういいの。私も、少し大きな声を出しすぎたなって反省してたの。私の方こそ、ごめんなさい。」
顔を上げると、今度は紀香が頭を下げていた。どうしたらいいのかわからず、たじろぐ。
「ふふ、真面目なんだね。幸太郎って。」
紀香は笑う。つられて、俺も口角が上がる。どうやら、無事に仲直りはできたようだ。心底ホッとした。
「三田さんとは、何を話してたんですか?」
「ん、別に大した事は話してないよ。今後どうしよう、みたいな話かな。」
「そうなんですね」
何となく、自分の話し相手は紀香だけだとばかり思っていた。でも彼女にとってはそうではないようだ。確かに、俺は彼女にとってあくまで協力関係であり、それ以上でも以下でもない。何とも、複雑な感情が渦を巻く…
「あっ、幸太郎、まだシチュー食べてなかったんだ。美味しかったよ。冷めないうちに早く食べなよ。」
すっかり忘れていた。
「あ、ああ、そうですね。いただくとします」
「て、いうかさ、」
「そろそろ敬語、やめない?疲れるでしょ。協力関係だしタメなんだから、気楽にいこうよ。」
「え?あー…は、うん。そうです、だね。そうする、…かな」
「なにそれ、凄いぎこちないじゃん。」
紀香は思わず吹き出して口元を抑える。あー、敬語じゃないと急に恥ずかしい。
野崎とポーカーをした後も、野崎との会話がぼんやりと頭に残っていた。信じられるのは己のみ。果たして、本当にそうなのだろうか。自分自身、いまだに答えが見つけられなかった。
「…行こう」
やはりもう一度謝りにいこう。せっかく、こんな俺にも優しくしてくれた人だ。このまましっかりと仲直り出来ないのは辛い。勇気を出して、行こう。
広場では既に、各々が夕食を食べながら雑談をしていた。匂いや皿を見る限りでは…今夜は、シチューのようだ。
ひとまず皿にシチューを盛ってもらい、紀香を探す。が、彼女の姿はない。来ていないのだろうか…
「斎藤さんをお探しですか?」
右肩から首がニュッと伸びてきた。思わず変な声を上げてしまう。首の正体は、志賀だった。周りの注目を浴び、くすくすと笑い声が聞こえた。赤面しつつ、志賀に尋ねる。
「そうです…」
「彼女なら、三田さんとあちらの方へ向かいましたがね」
ニヤリとしながら暗闇を指差す。頭を軽く下げ、早足で向かう。一刻も早くこの場を去りたかった。しかし、よりによって三田と一緒にいるとは、どういう事だ?
暫く歩くと、暗闇にベンチが照らされていた。そこに、猫背の三田と語り合う紀香の姿があった。ちょうど、三田が立ち上がり、去ろうとしている場面だった。
三田は軽く手を振り、紀香は会釈する。彼はこちらへ向かってきた。
「お、君か。いい夜だね」
振り向きざまに肩を叩き、ウィンクをかます。こんなアニメにしかいないような奴が現実にいるとは。少しだけ寒気がした。
すぐに紀香の方へ視線を移す。目が合った。思わず、互いに目を逸らしてしまう。
ゴクリと息を飲み、勇気を出して話しかける。
「あ、あの。昼間は本当にすみませんでした。何か、変なテンションになってて…ほんとに、すみません」
頭を深く下げる。紀香は少し驚いたような表情をし、微笑んだ。
「顔を上げて。もういいの。私も、少し大きな声を出しすぎたなって反省してたの。私の方こそ、ごめんなさい。」
顔を上げると、今度は紀香が頭を下げていた。どうしたらいいのかわからず、たじろぐ。
「ふふ、真面目なんだね。幸太郎って。」
紀香は笑う。つられて、俺も口角が上がる。どうやら、無事に仲直りはできたようだ。心底ホッとした。
「三田さんとは、何を話してたんですか?」
「ん、別に大した事は話してないよ。今後どうしよう、みたいな話かな。」
「そうなんですね」
何となく、自分の話し相手は紀香だけだとばかり思っていた。でも彼女にとってはそうではないようだ。確かに、俺は彼女にとってあくまで協力関係であり、それ以上でも以下でもない。何とも、複雑な感情が渦を巻く…
「あっ、幸太郎、まだシチュー食べてなかったんだ。美味しかったよ。冷めないうちに早く食べなよ。」
すっかり忘れていた。
「あ、ああ、そうですね。いただくとします」
「て、いうかさ、」
「そろそろ敬語、やめない?疲れるでしょ。協力関係だしタメなんだから、気楽にいこうよ。」
「え?あー…は、うん。そうです、だね。そうする、…かな」
「なにそれ、凄いぎこちないじゃん。」
紀香は思わず吹き出して口元を抑える。あー、敬語じゃないと急に恥ずかしい。
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お心遣いありがとうございます!書く作業が楽しいので、どんどん書いちゃってます笑
もう少し、いい所まで行って落ち着いて来るまでは頑張ります💪
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ありがとうございます!おじさんさんが読んで頂けてるので頑張れます😊
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沢山の方に読んで頂きたいので、出来るだけ毎日投稿頑張ります!💪
とても面白いです!
文章も全てが理解しやすくて引き込まれるので、一気に読み進めてしまいました!
今後も楽しみにしています(*^^*)♪
ありがとうございます!
こんなに早く読んで頂けてとても嬉しいです😊
小説を書くのは初めてなので、これから試行錯誤しながら頑張っていきます!
応援の程、宜しくお願い致します😌