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歌の国『オルカストラ』編
開戦前夜
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聖騎士達との顔合わせを終えて、魔王が復活するまでの三日間の準備期間を与えられた、魔王戦の際に最前線に立ち、魔王を封印するための『聖歌』を壇上で歌わなければならない歌姫のラーラを死守する役目を任されている僕は、自分の身体能力に過信せず、さらに身体能力を向上させるために『過酷なトレーニング』を考案し、即座に実施した。そうして、オルカストラの軍事施設に足を運んだ僕は、軍馬を飼育している軍事馬舎にいる——僕達を各地へと運んでくれた『ニューギルス』の世話をしている操縦兵のパリオットさんに頼み込み、数頭の馬達に鉄縄を引いてもらう、人間の僕『対』最強馬のニューギルスでの『綱引き』対決を行わせてもらった。そんなこんなで、やや発想がおかしい気がする——その考えを聞かされて、実際に綱引きを始めた僕を見たパリオットさんは『頭がおかしい』と顔を引き攣らせていた——筋トレを馬達に手伝ってもらった僕は、脚力が多少鍛えられた実感を得て、魔王との戦いに備えた。そして、聖歌祭では外せない絶対の主役・現歌姫であるラーラは、聖歌祭——延いては『魔王復活・封印』の経験が山のように豊富である、前歌姫のボイラさんからの『厳しすぎるレッスン』を受けさせられて、再度、封印の際に歌われる『封印ノ聖歌』を身体と心に叩き込まれ続け……
「はあああああぁぁ……もう疲れたぁ。本番は明日なのに、今日までミッ……チリとか練習とかおかしくない?」
「まあ、絶対に『ミス』できないからじゃない?」
「そうそう! お婆ちゃん、私が本番に弱いって勘違いしてるのよ! 昔、コンサートで噛んだせいだと思うわ!」
「噛んだんじゃん」
「それは昔のこと! そのコンサートの件は六年も昔のことなのよ? 今更だと思わない? ね? ねえ!」
「あ、ああ……そう……かな?」
「そうよ。私だって、リヴィラお姉ちゃんと同じ歌姫になったんだから、もっと信頼してくれてもいいわよね!」
「まあ、そう……だね?」
「そうそう——って、さっきから疑問形すぎ!」
「はは……ごめんごめん」
僕が借りている屋敷の一室——その部屋にある唯一のベッドを「ぶばぁ」と言いながら占領しているラーラに僕は苦笑しながら、その努力を労うように言葉を交わす。
「あ、ラーラ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「え? なになに? もしかして薔薇騎士の——」
「違う。魔王のことなんだけど」
危なかった……。少し隙を見せたらアレ(薔薇・以下略)の話をしようとするんだから、気を抜けたものじゃないぞ。
「ちぇっ。で、魔王がどうしたの?」
「……あのさ、魔王『封印』って、どういうことなんだろうって思って。なんで倒さないで封印? もしかして倒してから封印するってこと? まさか倒せないとか?」
「ああー……そういうこと。よっこいしょっと。ふふふっ、オルカストラの歴史に詳しいラーラ“先生”が教えてあげる。えっとね、聖歌祭で魔王を『封印』するっていうのは、魔王が強くて倒せる人が上澄みの聖騎士くらいしかいないっていう理由もあるにはあるんだけど、それとは別に、この国には『魔王を倒せない事情』っつうものがあるのよ」
僕が使っているベット上で胡坐をかくラーラは、優美高妙であるべき歌姫あるまじき格好——気を抜いているのか、寝巻きのワンピースから下着を覗かせてしまっている——で、オルカストラ、延いては世界の歴史に対して無知である僕に『私が先生なのである!』と声高に吠えて、いつもボイラさんにいびられる側だった自分が『いびる側』に回った優越感が隠れもしない『自慢気』な顔で講釈を垂れた。
「えっとね——」
曰く——魔王を討伐せず『封印』にこだわっているのは、オルカストラの長き歴史に起因しているらしい。なんでも、約千年前の人魔大戦歴——所謂『古代』と呼ばれている過酷な時代の中で、オルカストラは『魔王に救われた』経験があるらしいのだ。魔王を封印する以前に、オルカストラを襲っていた最悪の大災害——それが『雷暴ノ竜』と歴史書に記されている、あまりにも強大すぎる力を持った『一頭の竜種』によるものだったという。歴史書に記されている情報的に、その暴竜は体から『暴雷』を降らし、オルカストラの国土の約二割を焼き払ってしまっていたのだとか。
そんな、焦土と化して、物言わぬ灰となった限りある生命と命を育む大地から上がる死煙の中、その暴竜は自身の強大な力を声高に吠え叫びながら、失われた数多の『生命』を侮辱するようにオルカストラを飛び回っていた——そして、そんな最悪の中、突然姿を現した魔人——後の『魔王』が発した、国全土に轟くほどの『大砲声』によって、国を飛び回っていた『暴竜』退けたのだとか。それで、この国には、魔王に救われた歴史——たしかに存在する『恩』があるため『魔王を討伐——殺害をするな』という思想を持った国民が少なからずいるらしい……。ラッパリオ家当主の老婆も魔王討伐『反対派』に属しているようで、このことから国の貴族にも『魔王反殺思想』が根強くあったりして、今の今まで魔王討伐ということができていないようだった。
封印か、討伐かは——至極どっちでもいいという無派にも、少なからず魔王には恩があると思っている人がいるそうで、実質的に『討伐不可能』な状況に国は置かれているらしい。だから、封印。魔王——害である魔族を討伐できない現実。
「………………」
それがひどく、僕の胸を軋ませた。魔族絶殺——それが、僕が得た思想で、考えで、行動の指針。僕の心身を動かす、瞋恚の炎を燃やす糧。それを、真っ向から否定されてしまった気がして……いや、別の考えを——答えを見せられて、魔族が『人を救う』という、有り得ない真実を告げられて、僕は燃え上がろうとする殺意と、それを鎮めようとする氷水のように冷たい不殺の理性。それら両方を表情に表して、僕は苦渋しているように、悩むように、大きく顔を引き攣らせた。
「あのさ」
殺意チラつく眼光を見つめていたラーラが、顔をグチャグチャにしかけていた僕に声を掛け、僕はそれに反応する。
「…………? どうしたの?」
「ソラはさ、お母さんを探してるんだったわよね」
「え……? う、うん。そうだよ」
「もう一度、ソラのお母さんのこと、教えてくれない?」
「い、いいけど…………えっと——」
あまりにも唐突に、なんの脈略もなしに聞かれた、失踪した母のことを『急すぎない?』と困惑しながら語る僕は、黙って耳を傾けるラーラを見ながら母のことを話し終えた。そして組んでいた腕を解き、下を向いていた顔を上げて僕を見たラーラが言った『まさかの発言』に僕は目を剥いた。
「私、ソラのお母さんに会ったことあるかも」
「…………え? ええっ!? ど、どこで会ったの!?」
「あ、えっと……私があの人と会ったのは……私を助けてくれた人と会ったのは、今から七年も前のことで、だから、ソラのお母さんが居なくなった三、四年前は分からないの。ごめんね……。でも、ソラのお母さんが、あの時の女の人なんじゃないかって、今の話を聞いて、そう思えた。最初に聞いた時は『まさか』って思ってたんだけど、やっぱり、そうなんじゃないかって思った……。ほら、私の髪、長いでしょ? これさ、あの人を真似して伸ばしてるの。あの、綺麗な薄緑の髪と目——すごく綺麗だった、あの人の真似。私の憧れの人……あの人と、ソラはすごくソックリよ。特に目とか雰囲気が……羨ましいくらい似てるよ。だからさ、あの人は『ソラのお母さん』なんだと思う」
「ら、ラーラはその人と、どこで会ったの……?」
その僕の問い掛けに、数瞬の間、悩むように目を伏せていたラーラは、意を決したように顔を上げて、切なさを孕む目と、永劫降り止まぬ雨を思わせる悲しげな表情を僕に向けて——彼女の過去を、経験した『悲劇』を語り出した。
『ハープポア』という山村で生まれたラーラが六歳になる前に経験した悲劇——それは突如として村に現れた、通常の魔獣と比較して、突出した力強さと大きな体躯を持つ『大魔獣』と呼ばれる一頭のケダモノによって、ハープポアの無辜な村人や、その村に住んでいた、ラーラの家族が『皆殺し』にされてしまったというもので……。
『ラーラ、あなただけは生きるの! ここに隠れていてっっっ!!』
大魔獣が村を営む人々を喰らい尽くしている間、ラーラは自宅にある村で唯一の地下室に閉じ込められていたそうで、子供を殺させないという高潔な意志を持った家族と村人達の決死の肉壁によって、ラーラは大魔獣に気付かれることなく——
『——っ!! お父さっ、お母さ——」
『…………ごめんなさい……私は、あなたの家族ではないの……』
強大な大魔獣を屠ったのだろう、白銀の三又の槍を手にする、薄緑の長髪と同じ色の瞳を持った女性が現れて、恐怖と非情な現実で震える、幼いラーラを抱きしめた。
『遅くなって、助けられなくて、ごめんね…………っ!』
「…………っ! ——ぅっ、ぅぅ…………っっ! う、うわあああああああああああああああああ——っっっ!!』
『ごめんね…………ごめんね…………っ』
「それが、あの人との最初で最後の出会いだった……。ソラのお母さんの話を聞いて、もしかしてって、そう思った。私はソラや、あの人と違って弱過ぎるから。魔族のことを恨んで生きるってことができなかったの。できるほど、私は強くなかったからさ……っ! わたっ、私は……っ!」
僕のせいで記憶の奥深くに封じ込めていた記憶を、悲劇を思い出して、それを語ることになったラーラは、恐怖に怯える幼い子供のように身体を抱き、瞳から雨を降らせる。彼女の弱さを見た僕は、罪悪感に苛まれているような顔で震えなく彼女の横に腰掛けて、そっと頭を撫でた。泣き噦る彼女は僕の胸に顔を当て、その溢れ出る涙で服を濡らす。そうして、魔王復活の開戦前夜であるその日は、泣き疲れ、眠りに落ちたラーラの横に置かれた椅子に座り、落ち着いた寝息を奏でる彼女の頭を梳きながら終えるのだった……。
「絶対、魔王なんかに負けないからさ。絶対に僕は死なないからさ……。必ず、封印が終わったら君に声を掛けるよ。だから安心して、今日はゆっくり眠っていて……」
僕の独白を聞く者はいない。ただ、夜闇に浮かぶ月球だけが、窓の外を見る、覚悟を決めた僕の顔を見つめていた。
「はあああああぁぁ……もう疲れたぁ。本番は明日なのに、今日までミッ……チリとか練習とかおかしくない?」
「まあ、絶対に『ミス』できないからじゃない?」
「そうそう! お婆ちゃん、私が本番に弱いって勘違いしてるのよ! 昔、コンサートで噛んだせいだと思うわ!」
「噛んだんじゃん」
「それは昔のこと! そのコンサートの件は六年も昔のことなのよ? 今更だと思わない? ね? ねえ!」
「あ、ああ……そう……かな?」
「そうよ。私だって、リヴィラお姉ちゃんと同じ歌姫になったんだから、もっと信頼してくれてもいいわよね!」
「まあ、そう……だね?」
「そうそう——って、さっきから疑問形すぎ!」
「はは……ごめんごめん」
僕が借りている屋敷の一室——その部屋にある唯一のベッドを「ぶばぁ」と言いながら占領しているラーラに僕は苦笑しながら、その努力を労うように言葉を交わす。
「あ、ラーラ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「え? なになに? もしかして薔薇騎士の——」
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「……あのさ、魔王『封印』って、どういうことなんだろうって思って。なんで倒さないで封印? もしかして倒してから封印するってこと? まさか倒せないとか?」
「ああー……そういうこと。よっこいしょっと。ふふふっ、オルカストラの歴史に詳しいラーラ“先生”が教えてあげる。えっとね、聖歌祭で魔王を『封印』するっていうのは、魔王が強くて倒せる人が上澄みの聖騎士くらいしかいないっていう理由もあるにはあるんだけど、それとは別に、この国には『魔王を倒せない事情』っつうものがあるのよ」
僕が使っているベット上で胡坐をかくラーラは、優美高妙であるべき歌姫あるまじき格好——気を抜いているのか、寝巻きのワンピースから下着を覗かせてしまっている——で、オルカストラ、延いては世界の歴史に対して無知である僕に『私が先生なのである!』と声高に吠えて、いつもボイラさんにいびられる側だった自分が『いびる側』に回った優越感が隠れもしない『自慢気』な顔で講釈を垂れた。
「えっとね——」
曰く——魔王を討伐せず『封印』にこだわっているのは、オルカストラの長き歴史に起因しているらしい。なんでも、約千年前の人魔大戦歴——所謂『古代』と呼ばれている過酷な時代の中で、オルカストラは『魔王に救われた』経験があるらしいのだ。魔王を封印する以前に、オルカストラを襲っていた最悪の大災害——それが『雷暴ノ竜』と歴史書に記されている、あまりにも強大すぎる力を持った『一頭の竜種』によるものだったという。歴史書に記されている情報的に、その暴竜は体から『暴雷』を降らし、オルカストラの国土の約二割を焼き払ってしまっていたのだとか。
そんな、焦土と化して、物言わぬ灰となった限りある生命と命を育む大地から上がる死煙の中、その暴竜は自身の強大な力を声高に吠え叫びながら、失われた数多の『生命』を侮辱するようにオルカストラを飛び回っていた——そして、そんな最悪の中、突然姿を現した魔人——後の『魔王』が発した、国全土に轟くほどの『大砲声』によって、国を飛び回っていた『暴竜』退けたのだとか。それで、この国には、魔王に救われた歴史——たしかに存在する『恩』があるため『魔王を討伐——殺害をするな』という思想を持った国民が少なからずいるらしい……。ラッパリオ家当主の老婆も魔王討伐『反対派』に属しているようで、このことから国の貴族にも『魔王反殺思想』が根強くあったりして、今の今まで魔王討伐ということができていないようだった。
封印か、討伐かは——至極どっちでもいいという無派にも、少なからず魔王には恩があると思っている人がいるそうで、実質的に『討伐不可能』な状況に国は置かれているらしい。だから、封印。魔王——害である魔族を討伐できない現実。
「………………」
それがひどく、僕の胸を軋ませた。魔族絶殺——それが、僕が得た思想で、考えで、行動の指針。僕の心身を動かす、瞋恚の炎を燃やす糧。それを、真っ向から否定されてしまった気がして……いや、別の考えを——答えを見せられて、魔族が『人を救う』という、有り得ない真実を告げられて、僕は燃え上がろうとする殺意と、それを鎮めようとする氷水のように冷たい不殺の理性。それら両方を表情に表して、僕は苦渋しているように、悩むように、大きく顔を引き攣らせた。
「あのさ」
殺意チラつく眼光を見つめていたラーラが、顔をグチャグチャにしかけていた僕に声を掛け、僕はそれに反応する。
「…………? どうしたの?」
「ソラはさ、お母さんを探してるんだったわよね」
「え……? う、うん。そうだよ」
「もう一度、ソラのお母さんのこと、教えてくれない?」
「い、いいけど…………えっと——」
あまりにも唐突に、なんの脈略もなしに聞かれた、失踪した母のことを『急すぎない?』と困惑しながら語る僕は、黙って耳を傾けるラーラを見ながら母のことを話し終えた。そして組んでいた腕を解き、下を向いていた顔を上げて僕を見たラーラが言った『まさかの発言』に僕は目を剥いた。
「私、ソラのお母さんに会ったことあるかも」
「…………え? ええっ!? ど、どこで会ったの!?」
「あ、えっと……私があの人と会ったのは……私を助けてくれた人と会ったのは、今から七年も前のことで、だから、ソラのお母さんが居なくなった三、四年前は分からないの。ごめんね……。でも、ソラのお母さんが、あの時の女の人なんじゃないかって、今の話を聞いて、そう思えた。最初に聞いた時は『まさか』って思ってたんだけど、やっぱり、そうなんじゃないかって思った……。ほら、私の髪、長いでしょ? これさ、あの人を真似して伸ばしてるの。あの、綺麗な薄緑の髪と目——すごく綺麗だった、あの人の真似。私の憧れの人……あの人と、ソラはすごくソックリよ。特に目とか雰囲気が……羨ましいくらい似てるよ。だからさ、あの人は『ソラのお母さん』なんだと思う」
「ら、ラーラはその人と、どこで会ったの……?」
その僕の問い掛けに、数瞬の間、悩むように目を伏せていたラーラは、意を決したように顔を上げて、切なさを孕む目と、永劫降り止まぬ雨を思わせる悲しげな表情を僕に向けて——彼女の過去を、経験した『悲劇』を語り出した。
『ハープポア』という山村で生まれたラーラが六歳になる前に経験した悲劇——それは突如として村に現れた、通常の魔獣と比較して、突出した力強さと大きな体躯を持つ『大魔獣』と呼ばれる一頭のケダモノによって、ハープポアの無辜な村人や、その村に住んでいた、ラーラの家族が『皆殺し』にされてしまったというもので……。
『ラーラ、あなただけは生きるの! ここに隠れていてっっっ!!』
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『——っ!! お父さっ、お母さ——」
『…………ごめんなさい……私は、あなたの家族ではないの……』
強大な大魔獣を屠ったのだろう、白銀の三又の槍を手にする、薄緑の長髪と同じ色の瞳を持った女性が現れて、恐怖と非情な現実で震える、幼いラーラを抱きしめた。
『遅くなって、助けられなくて、ごめんね…………っ!』
「…………っ! ——ぅっ、ぅぅ…………っっ! う、うわあああああああああああああああああ——っっっ!!』
『ごめんね…………ごめんね…………っ』
「それが、あの人との最初で最後の出会いだった……。ソラのお母さんの話を聞いて、もしかしてって、そう思った。私はソラや、あの人と違って弱過ぎるから。魔族のことを恨んで生きるってことができなかったの。できるほど、私は強くなかったからさ……っ! わたっ、私は……っ!」
僕のせいで記憶の奥深くに封じ込めていた記憶を、悲劇を思い出して、それを語ることになったラーラは、恐怖に怯える幼い子供のように身体を抱き、瞳から雨を降らせる。彼女の弱さを見た僕は、罪悪感に苛まれているような顔で震えなく彼女の横に腰掛けて、そっと頭を撫でた。泣き噦る彼女は僕の胸に顔を当て、その溢れ出る涙で服を濡らす。そうして、魔王復活の開戦前夜であるその日は、泣き疲れ、眠りに落ちたラーラの横に置かれた椅子に座り、落ち着いた寝息を奏でる彼女の頭を梳きながら終えるのだった……。
「絶対、魔王なんかに負けないからさ。絶対に僕は死なないからさ……。必ず、封印が終わったら君に声を掛けるよ。だから安心して、今日はゆっくり眠っていて……」
僕の独白を聞く者はいない。ただ、夜闇に浮かぶ月球だけが、窓の外を見る、覚悟を決めた僕の顔を見つめていた。
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