89 / 126
歌の国『オルカストラ』編
柔らかい感触——耳飾りは蒼く輝く
しおりを挟む
ゆっくりとした歩幅で並んで歩く、同年代の男女。側から見れば、恋人——とまではいかないものの、長年の付き合いがある『幼馴染同士』に見えなくもない、仲睦まじそうな二人はその実、出会ってから一週間ちょっとの間柄だ。そんな初々しさを感じさせない熟年のような二人の間には、嬉々とした感情や雰囲気は一欠片も無く、まるで別れ話をしているかのような陰鬱とした、暗い影が差し込んでいた。
悲話を聞かせる言い手と、それに耳を傾ける聞き手。
隣立つラーラと比べて、頭ひとつ分背が高い僕が望んだ、ラーラの過去——彼女の姉である『前歌姫』のリヴィラさんとの『出会いと別れの話』を喋っている彼女の表情には、悲しみと寂しさの感情が見え隠れしていた。それを顔に出さないようにしているのは、今にも声を上げて泣き出しそうな彼女の『心』をひた隠すためなのか……それは隣を歩く、出会って間もない間柄の僕には分からないけれど——ラーラが語る『彼女の過去』の一部始終を聞き終えた僕は、やはり『二人は普通の別れ方』をしていなかったんだなと、ラーラの表情から察せていた『姉妹の状況』が腑に落ちた。それで悩む——僕は『何を言えばいい』のか、と。下手なことを言って、気を遣わせてしまうわけにはいかないから、ここは慎重に言葉を選んで、僕が思ったことを口に出さねばならない。聞くに、リヴィラさんは愛した『もう一つの家族』を取って国を出たというわけで——それで選ばれずに残されてしまった家族がラーラとボイラさんということ。ここで『リヴィラさんは『一番大切』な家族を見つけたんだね』という、残されたラーラ達のことを考えない発言をするわけにはいかないのだ。それだけ『デリケート』な家庭の事情……なんだか、エナのことを思い出してしまうな。
「…………ぷっ——ふふふ……」
感情を顔に出さないようにしていたラーラとは対照的に、無意識に『何を言えばいいんだろう?』と悩み尽くした表情を浮かべてしまっていた僕を見たラーラは、その顔が面白かったのか「ふふふっ——あはははは!」と笑い出した。
「な、なんで笑うのさ……! こっちは悩んでるのに」
「だ、だって……ふふっ。もう、そんなに気にしないでよ。私はもう平気だから、ソラが気にする必要ないのよ?」
「だ、だって、ラーラが…………」
「だから平気なんだって! もう、何年も前のことだし、乗り越えていかなきゃ生きてけないでしょうがっ!」
そう声を張ったラーラは『ええ?』という顔をする僕に、見舞いだ! とばかりに強烈な『チョップ』を繰り出した。しかし「あいたっ!」と、攻撃した方が痛そうなリアクションを取り、僕にチョップより強烈な『既視感』を与えた。
「…………そう、なんだ」
「そうそう。だから大丈夫。ふふっ——ありがとね、ソラ。私のために気にしてくれて」
「……いいよ。ラーラがいいなら、それで」
「……うん。さっ、話も終わったし、早く行きましょ!」
「——ラジャー!」
「あはは! よし、それじゃあ、競争ね!」
「ラジャ——って……え?」
競争ね——と、いきなり過ぎる『駆け出し宣言』を上げたラーラは、ぎこちなく見える『走り出すポーズ』を取り、急すぎない? と呆気に取られている僕を置き去りにした。
「よーいドン! ほら、早くしなきゃ置いてくわよ!」
「合図が自分本位すぎないか……?」
「ほら、早くーー!!」
「…………はあ。仕方ないな……————ふッ!!」
「——? ——ええっ!?」
悪戯好きな子供のような表情で走っている彼女の背中をポカーンとした顔で見つめていた僕は、彼女が振り向きざまに『僕を煽る』表情を見せつけてきたので仕方なく、少しだけ本気を出した。地面を軽く踏み込んだ僕が浅く畳まれていた膝を解放すると——四十メートル先を笑いながら走っていた『悪童』を瞬く間に追い越して、まるで瞬間移動をしたかのように『僕の背中』をラーラに見せつけた。そうして、あっという間に先越した僕が「さっきの合図はズルじゃ」と言い掛けながら僕の後を走っているだろうラーラの方へ振り向くと、気を抜いていた僕の目の前には、平均よりも成長していると思われる、マキネさん以上であり、明らかに大きかったアイネさん以下ほどに実った『女性の胸部』が浅く躍動しながら僕に飛び掛かってきていた。僕のがら空きだった背中に飛び掛かるために地面から足を離したのだろうラーラは、僕が振り向いたこと驚きつつも『もう避けらんないわ!!』という晴れやかな笑顔を浮かべて驚愕で固まる僕に突撃する。
「——!? ぶぁぶぅうっっっ!?」
柔らかい乳房で顔面を強打された僕は『オルカストラの心臓』に当たるという『歌姫』のラーラに怪我をさせてしまわないよう『不意打ちすぎる突撃』の威力を殺すために後ろに倒れ込んだ。そんな『事の犯人』であるラーラは悪びれた表情を見せないまま、受け身を取ろうとしている僕に何故か抱き付き、後ろに倒れる僕を押し倒す形で上乗りになって、クッション役になった僕の腹部に全体重——感覚的に四十数キロ——での攻撃を繰り出したのだった……。
「————ぐえっ…………」
「あは! ソラ、ごめーーーーーーんっっっ!!」
* * *
「よくいらっしゃいました、歌姫様——と、護衛の騎士様。私は『オカリナ守護村』を総べている『オカリナ一族』に雇われた、一、メイドでございます。ささ、オカリナ一族の当主様が屋敷の中でお待ちです、靴のまま、こちらへ」
なんだかんだ——下敷きになった僕に繰り出された、推定『四十三キロ』のボディプレス攻撃——があったものの、あの程度の攻撃は痛くも痒くもないが、彼女に反省を促すために『腹部を摩って痛がっている振り』をしている僕と、ごめんごめんと言いつつ、さっきの事に対して悪びれた様子が微塵も感じられないまま「おっぱいが当たってよかったじゃん。私もちょっと恥ずかしいし、これでチャラ」と言い、心底楽しそうな笑顔を咲かせているラーラの二人は、擬似宝具である空の耳飾り——ラーラ曰く『ソラと同じ名前だから強そうじゃない?』を守護している最初の目的地、オカリナ一族が総べる『オカリナ村』の村長宅に到着した。ミファーナにある『ボイラさん邸』と比べるとやや遠慮した大きさ——それでも十分に豪邸——である屋敷の大扉を、緊張しているのか、若干強張っている表情のラーラが『ドンドン!』と、遠慮なしに強く叩くと、数瞬の間を置いて人の声が門前で待っていた僕達のもとへ届き——今に至る。出てきた『栗毛のメイド』によって屋敷の中へと招き入れられた僕とラーラが長い廊下を歩いていくと、一際大きな両大扉の前で、僕達を案内していたメイドが立ち止まった。
「ユビフキ様、歌姫様がいらっしゃいました」
オカリナ一族の当主なのであろう『ユビフキ』と名前を栗毛のメイドが呼ぶものの、全く物音がしない静けな廊下に立つ僕達のもとに、呼び声の返事が届くことはなかった。しかし、その違和感を感じるほどの沈黙が『通せ』という、ユビフキさんの意思の表れであるということが、この場に流れている厳格な空気により、難なく察することができた。鼻腔の奥が痛くなるような、冬の寒空を想起させる底冷えの空気を吸って吐くラーラの面持ちは緊張に染まっている。ここに来るまでに聞いた『昔話』の内容、女の語り口的に、ラーラは擬似宝具の守護者や国の重鎮たちに『苦手意識』を持っているのではないか——そう、確信なく思ってしまっている僕が、緊張で強張ってしまっているラーラの肩を『一人じゃない』と伝えるように、安心させてあげるように『ポン』と叩くと、ビクッと肩を震わせて振り返った彼女は、柔和に眉尻を下げている僕と目を合わせ——
「…………ふふっ。ありがと、ソラ」
一目で『リラックス』したと分かる晴れた表情を浮かべ、我慢しようとはしたが、つい咲かせてしまったという『美しい花ような笑顔』を僕に見せてくれたラーラは、助け舟を出した僕に向けて、照れ臭そうに素直な感謝を伝えた。そうして、ゆっくりと開かれていく扉を、安心しつつも警戒は怠らないという目で見つめていると、とうとう全開された扉の先にあった広間には、ボイラさんよりも歳を召しているだろう——見た目的に八十代後半ほどか——老婆が、何十にも積み重ねられているせいで『二メートル』ほどの高さになってしまっている畳の上で『正座』を取っていた。
「よくいらっしゃいました、歌姫様……ここにいるワタクシが、代々『空の耳飾り』を守護している、オカリナ家の当主——ユビフキ・クチフク・オカリナ……でありまする。以後お見知りおきをば」
「初めまして、オカリナ家・当主・ユビフキ老。私は今代の歌姫・ラーラ・フォルン・オルガンと申します。来客早々、誠に申し訳ありませんが、聖歌祭までの時間が差し迫ってきており、右も左もな私が後学を得るための話はできそうにありません……早急に『空の耳飾り』を受け賜りたく」
厳格な雰囲気と、仲間意識を感じさせない刺々しい口調。国の重役同士なわけだし『身内ノリ』みたいなのが通じる感じなのかなぁと、ラーラとリヴィラさんの『昔話』を聞かされるまで楽観していた僕の眼前に突きつけられる現実。包み隠さない『敵意』を視線と棘のある言葉に感じさせるラーラを後ろから見守っている僕が『やっぱり、ラーラは、国を出て、他国——行き先の詳細は知らないが、そうだと思う——に嫁ぎに行くリヴィラさんに暴言を吐いていたという、ユビフキさん達のことが嫌いなんだな』と察し、もう、自分が何かを言える感じじゃないなさそうだな……と、来て早々に口にファスナーを付けて傍観していると……ラーラの敵意と『ここに長居はしない』という意志に対して、全くと言っていいほど動揺せず、微塵も表情を崩していな熟練で熟年の老婆は数瞬の間を置いて、ゆっくりと頷いた。
「…………ええ、承りました。では——渡しなさい」
「はは」
軽く息を吐き、渋々と言った感じで了承した老婆が僕達の真横の壁際で正座をしていた凛とした長髪の女性……実力者に見えるから雇われた傭兵——いや、従者かな? に目配せすると、彼女は行く末を見守っていたラーラの側で跪き、脇に抱えていた小箱を、見つめるラーラの目の前で開けた。
「こちらが、我々が代々守護している『空の耳飾り』でございまする。貴女が『歌姫様』であられても、決してお失くしになられぬよう——細心、お気を付け下さいませ」
徹底的に釘を刺してくる——さっきの言い分的に、オカリナ一族の人? が持ち上げている小箱の中から目を細めるラーラが取り出した物は……目を見張るほどに美しい、無限に広がっている空を泳いでいる雲のような純白と、吸い込まれてしまいそうな永遠を思わせる蒼色。それに白と蒼が完璧に混じり気なく合わさったかのような水色の宝石が取り付けられた——僕達の最初の目的物『空の耳飾り』であった。
「その宝物を持って、無事、魔王を封印してくださることを、遠くながら祈っております。それでは、次なる守護者のもとへ——」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
悲話を聞かせる言い手と、それに耳を傾ける聞き手。
隣立つラーラと比べて、頭ひとつ分背が高い僕が望んだ、ラーラの過去——彼女の姉である『前歌姫』のリヴィラさんとの『出会いと別れの話』を喋っている彼女の表情には、悲しみと寂しさの感情が見え隠れしていた。それを顔に出さないようにしているのは、今にも声を上げて泣き出しそうな彼女の『心』をひた隠すためなのか……それは隣を歩く、出会って間もない間柄の僕には分からないけれど——ラーラが語る『彼女の過去』の一部始終を聞き終えた僕は、やはり『二人は普通の別れ方』をしていなかったんだなと、ラーラの表情から察せていた『姉妹の状況』が腑に落ちた。それで悩む——僕は『何を言えばいい』のか、と。下手なことを言って、気を遣わせてしまうわけにはいかないから、ここは慎重に言葉を選んで、僕が思ったことを口に出さねばならない。聞くに、リヴィラさんは愛した『もう一つの家族』を取って国を出たというわけで——それで選ばれずに残されてしまった家族がラーラとボイラさんということ。ここで『リヴィラさんは『一番大切』な家族を見つけたんだね』という、残されたラーラ達のことを考えない発言をするわけにはいかないのだ。それだけ『デリケート』な家庭の事情……なんだか、エナのことを思い出してしまうな。
「…………ぷっ——ふふふ……」
感情を顔に出さないようにしていたラーラとは対照的に、無意識に『何を言えばいいんだろう?』と悩み尽くした表情を浮かべてしまっていた僕を見たラーラは、その顔が面白かったのか「ふふふっ——あはははは!」と笑い出した。
「な、なんで笑うのさ……! こっちは悩んでるのに」
「だ、だって……ふふっ。もう、そんなに気にしないでよ。私はもう平気だから、ソラが気にする必要ないのよ?」
「だ、だって、ラーラが…………」
「だから平気なんだって! もう、何年も前のことだし、乗り越えていかなきゃ生きてけないでしょうがっ!」
そう声を張ったラーラは『ええ?』という顔をする僕に、見舞いだ! とばかりに強烈な『チョップ』を繰り出した。しかし「あいたっ!」と、攻撃した方が痛そうなリアクションを取り、僕にチョップより強烈な『既視感』を与えた。
「…………そう、なんだ」
「そうそう。だから大丈夫。ふふっ——ありがとね、ソラ。私のために気にしてくれて」
「……いいよ。ラーラがいいなら、それで」
「……うん。さっ、話も終わったし、早く行きましょ!」
「——ラジャー!」
「あはは! よし、それじゃあ、競争ね!」
「ラジャ——って……え?」
競争ね——と、いきなり過ぎる『駆け出し宣言』を上げたラーラは、ぎこちなく見える『走り出すポーズ』を取り、急すぎない? と呆気に取られている僕を置き去りにした。
「よーいドン! ほら、早くしなきゃ置いてくわよ!」
「合図が自分本位すぎないか……?」
「ほら、早くーー!!」
「…………はあ。仕方ないな……————ふッ!!」
「——? ——ええっ!?」
悪戯好きな子供のような表情で走っている彼女の背中をポカーンとした顔で見つめていた僕は、彼女が振り向きざまに『僕を煽る』表情を見せつけてきたので仕方なく、少しだけ本気を出した。地面を軽く踏み込んだ僕が浅く畳まれていた膝を解放すると——四十メートル先を笑いながら走っていた『悪童』を瞬く間に追い越して、まるで瞬間移動をしたかのように『僕の背中』をラーラに見せつけた。そうして、あっという間に先越した僕が「さっきの合図はズルじゃ」と言い掛けながら僕の後を走っているだろうラーラの方へ振り向くと、気を抜いていた僕の目の前には、平均よりも成長していると思われる、マキネさん以上であり、明らかに大きかったアイネさん以下ほどに実った『女性の胸部』が浅く躍動しながら僕に飛び掛かってきていた。僕のがら空きだった背中に飛び掛かるために地面から足を離したのだろうラーラは、僕が振り向いたこと驚きつつも『もう避けらんないわ!!』という晴れやかな笑顔を浮かべて驚愕で固まる僕に突撃する。
「——!? ぶぁぶぅうっっっ!?」
柔らかい乳房で顔面を強打された僕は『オルカストラの心臓』に当たるという『歌姫』のラーラに怪我をさせてしまわないよう『不意打ちすぎる突撃』の威力を殺すために後ろに倒れ込んだ。そんな『事の犯人』であるラーラは悪びれた表情を見せないまま、受け身を取ろうとしている僕に何故か抱き付き、後ろに倒れる僕を押し倒す形で上乗りになって、クッション役になった僕の腹部に全体重——感覚的に四十数キロ——での攻撃を繰り出したのだった……。
「————ぐえっ…………」
「あは! ソラ、ごめーーーーーーんっっっ!!」
* * *
「よくいらっしゃいました、歌姫様——と、護衛の騎士様。私は『オカリナ守護村』を総べている『オカリナ一族』に雇われた、一、メイドでございます。ささ、オカリナ一族の当主様が屋敷の中でお待ちです、靴のまま、こちらへ」
なんだかんだ——下敷きになった僕に繰り出された、推定『四十三キロ』のボディプレス攻撃——があったものの、あの程度の攻撃は痛くも痒くもないが、彼女に反省を促すために『腹部を摩って痛がっている振り』をしている僕と、ごめんごめんと言いつつ、さっきの事に対して悪びれた様子が微塵も感じられないまま「おっぱいが当たってよかったじゃん。私もちょっと恥ずかしいし、これでチャラ」と言い、心底楽しそうな笑顔を咲かせているラーラの二人は、擬似宝具である空の耳飾り——ラーラ曰く『ソラと同じ名前だから強そうじゃない?』を守護している最初の目的地、オカリナ一族が総べる『オカリナ村』の村長宅に到着した。ミファーナにある『ボイラさん邸』と比べるとやや遠慮した大きさ——それでも十分に豪邸——である屋敷の大扉を、緊張しているのか、若干強張っている表情のラーラが『ドンドン!』と、遠慮なしに強く叩くと、数瞬の間を置いて人の声が門前で待っていた僕達のもとへ届き——今に至る。出てきた『栗毛のメイド』によって屋敷の中へと招き入れられた僕とラーラが長い廊下を歩いていくと、一際大きな両大扉の前で、僕達を案内していたメイドが立ち止まった。
「ユビフキ様、歌姫様がいらっしゃいました」
オカリナ一族の当主なのであろう『ユビフキ』と名前を栗毛のメイドが呼ぶものの、全く物音がしない静けな廊下に立つ僕達のもとに、呼び声の返事が届くことはなかった。しかし、その違和感を感じるほどの沈黙が『通せ』という、ユビフキさんの意思の表れであるということが、この場に流れている厳格な空気により、難なく察することができた。鼻腔の奥が痛くなるような、冬の寒空を想起させる底冷えの空気を吸って吐くラーラの面持ちは緊張に染まっている。ここに来るまでに聞いた『昔話』の内容、女の語り口的に、ラーラは擬似宝具の守護者や国の重鎮たちに『苦手意識』を持っているのではないか——そう、確信なく思ってしまっている僕が、緊張で強張ってしまっているラーラの肩を『一人じゃない』と伝えるように、安心させてあげるように『ポン』と叩くと、ビクッと肩を震わせて振り返った彼女は、柔和に眉尻を下げている僕と目を合わせ——
「…………ふふっ。ありがと、ソラ」
一目で『リラックス』したと分かる晴れた表情を浮かべ、我慢しようとはしたが、つい咲かせてしまったという『美しい花ような笑顔』を僕に見せてくれたラーラは、助け舟を出した僕に向けて、照れ臭そうに素直な感謝を伝えた。そうして、ゆっくりと開かれていく扉を、安心しつつも警戒は怠らないという目で見つめていると、とうとう全開された扉の先にあった広間には、ボイラさんよりも歳を召しているだろう——見た目的に八十代後半ほどか——老婆が、何十にも積み重ねられているせいで『二メートル』ほどの高さになってしまっている畳の上で『正座』を取っていた。
「よくいらっしゃいました、歌姫様……ここにいるワタクシが、代々『空の耳飾り』を守護している、オカリナ家の当主——ユビフキ・クチフク・オカリナ……でありまする。以後お見知りおきをば」
「初めまして、オカリナ家・当主・ユビフキ老。私は今代の歌姫・ラーラ・フォルン・オルガンと申します。来客早々、誠に申し訳ありませんが、聖歌祭までの時間が差し迫ってきており、右も左もな私が後学を得るための話はできそうにありません……早急に『空の耳飾り』を受け賜りたく」
厳格な雰囲気と、仲間意識を感じさせない刺々しい口調。国の重役同士なわけだし『身内ノリ』みたいなのが通じる感じなのかなぁと、ラーラとリヴィラさんの『昔話』を聞かされるまで楽観していた僕の眼前に突きつけられる現実。包み隠さない『敵意』を視線と棘のある言葉に感じさせるラーラを後ろから見守っている僕が『やっぱり、ラーラは、国を出て、他国——行き先の詳細は知らないが、そうだと思う——に嫁ぎに行くリヴィラさんに暴言を吐いていたという、ユビフキさん達のことが嫌いなんだな』と察し、もう、自分が何かを言える感じじゃないなさそうだな……と、来て早々に口にファスナーを付けて傍観していると……ラーラの敵意と『ここに長居はしない』という意志に対して、全くと言っていいほど動揺せず、微塵も表情を崩していな熟練で熟年の老婆は数瞬の間を置いて、ゆっくりと頷いた。
「…………ええ、承りました。では——渡しなさい」
「はは」
軽く息を吐き、渋々と言った感じで了承した老婆が僕達の真横の壁際で正座をしていた凛とした長髪の女性……実力者に見えるから雇われた傭兵——いや、従者かな? に目配せすると、彼女は行く末を見守っていたラーラの側で跪き、脇に抱えていた小箱を、見つめるラーラの目の前で開けた。
「こちらが、我々が代々守護している『空の耳飾り』でございまする。貴女が『歌姫様』であられても、決してお失くしになられぬよう——細心、お気を付け下さいませ」
徹底的に釘を刺してくる——さっきの言い分的に、オカリナ一族の人? が持ち上げている小箱の中から目を細めるラーラが取り出した物は……目を見張るほどに美しい、無限に広がっている空を泳いでいる雲のような純白と、吸い込まれてしまいそうな永遠を思わせる蒼色。それに白と蒼が完璧に混じり気なく合わさったかのような水色の宝石が取り付けられた——僕達の最初の目的物『空の耳飾り』であった。
「その宝物を持って、無事、魔王を封印してくださることを、遠くながら祈っております。それでは、次なる守護者のもとへ——」
「「「「いってらっしゃいませ」」」」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる