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ハザマの国・編
不信が広がる『変な味』
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僕とニアくんは村の中央から、僕が先ほど登っていた丘の上へと移動し、そこで即席の魔族討伐——二人だけだけど——隊を結成した。そして『魔族討伐隊の今後の行動』について、二人で話し合いをする。
「一度、村の村長さんの所に行って僕が話をしてみるよ」
まずは協力者を増やそう——と言う僕に、ニアくんは再び暗い顔をして俯く。
「みんな「いないいない」って言うから、誰も信じてくれないよ……」
か細い声で僕に『自身の経験』を語るニアくんは、俯いたまま僕を顔を合わせようとしない。そんな彼の様子を見て、よっぽど誰からも相手にされず信じてもらえなかったんだな——と察した僕は、彼を励ますように肩を叩き、下を向いていた顔を上げさせる。
「僕と二人でなら、もしかしたら誰か信じてくれるかもしれないよ? だから行ってみようよ」
眉尻を下げて、不安がる子供を安心させるように柔和に笑った僕は、彼を説得するように声を掛けた。
「…………分かった」
仕方なく納得したような彼に、僕は再び眉尻を下げた。そして村長宅に向かうことになった僕は、この村に住んでいるニアくんに、村長宅まで案内してもらう。案の定、凄まじい眼力を村人から向けられる僕は緊張した面持ちで冷や汗を掻きながら、ニアくんの後に続く。そして僕達は村の中で一際目立つ家屋の前に到着した。
「ここだよ」
村長宅に着いた僕は大きい両開き扉を『ゴンゴン』とノックする——しかし、僕にノックに対して家内からの反応は一切無かった。あれ? という風にニアくんの方へ振り向いた僕が「もしかして留守かな?」と問うと。僕に問い掛けられたニアくんは、まるで『何か』を疑うような表情で「そんなわけないよ」と留守の線を否定した。即否定された僕は「そ、そっか……」と呟き、最初より強めに『ドンドン』と扉をノックするのだが、帰ってくる反応は『シーン』という静寂のみであった。ニアくんは家の中に『人は居る』と自信あり気に言っているから、もしかしたら『居留守』を使われているのかもしれないな。単純に、僕が奏でる強ノックの音が聞こえていないだけなのかもしれないけど——仕方ない。協力を仰ぐために来たから、なるべく『強行策』は取りたくなかったんだけどな。
「すぅーー……あのーっ! 客ですよ村長さーんっ! 村長さん!!」
確実に迷惑になるレベルで扉を『バンバン』と強く叩きながら、僕は絶対に家内の人が聞こえるだろう声量で家の中にいると思われる村長を呼んだ。すると——
ギイィィィ——……と軋む音を鳴らしながら扉が開き、開いた扉の隙間から背の低い妙齢の女性が顔を出した。やはりと言うべきか、彼女は僕に『怯えている』様子だ。まあ、大声で居留守をしている可能性のある家主を呼んだわけだから、その家の人が僕を怖がるのは当然と言えるだろう。正直、今の僕みたいな人が自分の家の前にいたら、僕も彼女と同じ反応をすると思うし。だから『こういうこと』はしたくなかったんだけど、現状を見るに、実際に居留守を使われていた可能性が高いわけで、このやり方は正解だったのだと切に思いたいのだが。さて、どうだろう?
「…………何の御用でしょうか……?」
恐る恐る顔を出した女性は『絶望したような目』を僕に向けて、細々とした声でそう言った。そんな彼女に対し、僕は毅然とした態度で「村長さんと合わせてください」と伝えた。もしも村長が本当に『留守』だった場合、僕はこの場で土下座をする。間違いなくする。絶対にする。
「…………少々お待ちください……」
「——! はい!」
そう言った彼女は扉を閉めて、家の中へと戻っていった。「村長は家に居ない」と彼女が言わなかったあたり、村長が家に居るのは間違いないのだろう。村長達が居留守をしていたのには何か事情があるのだろうけど、こちらとしては「村の近くに魔族がいる」と言う情報を聞いて「ああ、そうなんだ。じゃあね」と言って帰ることなんてできないのだ。ニアくんの言うことを疑っているわけではないけど、ニアくんの言っていたことが正しかったにも関わらず、僕が彼を無視して見捨ててしまった結果、ニアくんのみならず他複数人が『死ぬ』という可能性が出てきてしまうだろう。そんな間違いを僕が目標とする『トウキ君』が犯すとはてんで思えない。さっきは『扉をバンバン叩いて大声で呼ぶ』という大分乱暴なやり方を取ってしまったのは申し訳ないのだが、我々魔族討伐隊は『人命最優先』だ。最悪の結果『人死』を出してしまう可能性を残すというのは、我々にとって『論外』なのである。だから多少の迷惑はかけてしまうと思うけど、そこはニアくんの愛嬌で許してもらいたい。
そんなことを考えながら時間を潰すこと約十分。ニアくんと二人で流石に時間が掛かり過ぎじゃないか? という話をした後、僕がもう一度扉を叩こうとした——その時。ギイィィィ——……と再び軋む音を鳴らしながら、最初の時よりも大きく扉が開く。両扉を開けた戸口から、先程の低身長で妙齢の女性——恐らくこの家で雇われているメイド——が出てきた。
僕は『やっとか』と思いつつ、目の前のメイドに「いきなり来て申し訳ありません。欠かせない用がありまして」と言って頭を下げた。そんな僕を見た彼女が『どういう表情』をしたかは頭を下げているせいで分からないが、あまり歓迎されていないだろうことが、場に醸される雰囲気で察することができた。
「…………どうぞ、中へ……」
とうとう家の中に通された僕は、不安そうに猫耳を畳むニアくんと手を繋ぎ、メイドの後に続いていく。メイドの背から『ピリピリ』とした緊張が伝わってくる。この反応は一体、何なんだ? と眉尻を上げて怪訝に思いながら、一直線になっている横と縦に広い廊下を黙って進んでいき、玄関から真正面に見えていた、戸口ほどではないにしても大きい、居間へと続いているのだろう両開き扉にメイドが手を掛けた。
そして——ゆっくりと開く。
居間への扉が開いた先には『玉座のような椅子』に座っている、初老の男性がいた。その初老の男性は、清潔感のない『ボサボサ』した赤黒い無精髭を生やしており、髪も髭と同じで『血』に染まったかのような赤黒色。彼の右脇には側仕えの若い男性がおり、僕達を案内してくれたメイドが彼の左脇につく。両脇をがっしりと従者で固めた『村長』と思われる男性は別段『病気』という感じもなく、パッと見は健康そう。居留守を使っていたのは、この家の主人である彼の身に何かあったからではないか? と若干心配していたのだが、それは要らぬ心配だったようで、僕の視界に広がっている状況から察するに『そういうわけ』ではなかったようだ。
「…………」
理由は分からないが、僕は目の前にいる彼——この村の村長を心の底から『警戒』している。若干の緊張感をお互いが帯びわせながら、場に無言の時が流れていく。そんな凍りついてしまったかのような止まった時を破ったのは僕だ。一歩前に出た僕の挙動を警戒した村長と従者二人が『キュッ』と目を細める。そんな彼等を視界に収めながら、僕は世間話などはせず、早速『本題』を切り出した——のだが。やはり言うべきか、彼らの反応は『ニアくん』の予想通りのものであった。
「はっはっは! そんな『童話』に出てくる魔族が、この世にいるわけがない!」
という感じで僕達の話を全く聞き入れてもらえず、僕は顔を引き攣らせながら(ダメだこりゃ)と苦笑し、ニアくんは黙って俯いてしまった。彼等との会話を諦めた僕達は早々に村長宅を出て、先程の丘の上に向かい、そこで『魔族討伐隊』の会議を行う。
「ね? ダメだったでしょ……?」
「う、うん……」
再び影を纏ってしまったニアくんに僕は何も言えず、討伐隊の二人は黙り込み、ただただ無言の時間が過ぎていく。無言の空気で息が詰まっていた僕が、ふと空を見上げると、空が茜色に染まっており、夕日が目に焼き付いてきた。どうやら、時刻は夕方になってしまったようだ。僕がこの村に着いたのが正午ごろだったのだけど、もうこんな時間なんだな。知らず知らずの内に過ぎていってしまった時間に、何とも言えない感情を心に広げさせながら、僕は正面へと向き直り、無言のまま俯いているニアくんに声を掛けようとした——その時。
「夕食ができていますよ」
突然の声掛けを受けて、気を抜いてしまっていた僕とニアくんは「「——っ!?」」と肩を跳ねさせる。バッと声がした方を向くと、そこには『宿屋の娘』さんがいた。
何で僕達がここにいるってわかったんだ? と僕達が呆気に取られていると、彼女はもう一度「夕食ができていますよ」と不気味なくらいの『無表情』で言った。そんな彼女に冷や汗を流した僕は、何とか「わかりました……今から帰ります」と返す。
すると彼女は「お早めに」と僕に言い、宿のある方へと歩いて帰っていく。
「な、何でも見つかったの……?」と——冷や汗を掻く僕が目の前にいるニアくんに問いかけると、彼は「わ、分かんないよ……」と驚愕した様子で返事をした。
よく分からないけど、僕達がここに行くところを誰かが見ていて、その見た人に聞いたとかだろう——と結論づけた僕は地面に手をついて立ち上がり、地べたに座り込むニアくんに手を貸した。そして僕の手を取って立ち上がったニアくんに、僕は明日の話をする。
「明日さ、その『イカ魔族』を見たって場所に連れて行ってくれない?」
僕の言葉に、ニアくんは了承する様に『コクっ』と頷く。そんな彼に「ありがとう」と礼を言った僕は、丘から彼を抱えて滑り降り、彼に「また明日ね」と別れを言う。
すると——
「あ、そ、ソラ兄ちゃん……」
「ん? どうしたの?」
「…………いや、何でもない。また明日ね!」
「——? そっか……うん。また明日」
お互いに別れの挨拶を済ませ、僕は宿泊する宿に戻った。日が落ちた頃に宿に戻ると、フロントにある食卓には夕食であろう『シチュー』が一皿だけ用意されていた。
もしかして皆んな食べ終わっちゃったのかな? と周りを確認すると、厨房らしき場所から『ガチャガチャ』という食器を洗う音が聞こえてきたので、僕は(やってしまった)と思い、急いで借りていた部屋に戻り、コートを脱ぐ。僕が部屋の隣の部屋から「ゴオォォォォ」という大きすぎる御者の鼾が聞こえてくるので、今日は熟睡できなそうだなぁ——と堪らず苦笑する。そんなこんなで『変な隠し味』のするシチューを平らげた僕は、御者が放つ『鼾対策』で毛布で顔を覆い、ベットに丸まりながら就寝した。
「一度、村の村長さんの所に行って僕が話をしてみるよ」
まずは協力者を増やそう——と言う僕に、ニアくんは再び暗い顔をして俯く。
「みんな「いないいない」って言うから、誰も信じてくれないよ……」
か細い声で僕に『自身の経験』を語るニアくんは、俯いたまま僕を顔を合わせようとしない。そんな彼の様子を見て、よっぽど誰からも相手にされず信じてもらえなかったんだな——と察した僕は、彼を励ますように肩を叩き、下を向いていた顔を上げさせる。
「僕と二人でなら、もしかしたら誰か信じてくれるかもしれないよ? だから行ってみようよ」
眉尻を下げて、不安がる子供を安心させるように柔和に笑った僕は、彼を説得するように声を掛けた。
「…………分かった」
仕方なく納得したような彼に、僕は再び眉尻を下げた。そして村長宅に向かうことになった僕は、この村に住んでいるニアくんに、村長宅まで案内してもらう。案の定、凄まじい眼力を村人から向けられる僕は緊張した面持ちで冷や汗を掻きながら、ニアくんの後に続く。そして僕達は村の中で一際目立つ家屋の前に到着した。
「ここだよ」
村長宅に着いた僕は大きい両開き扉を『ゴンゴン』とノックする——しかし、僕にノックに対して家内からの反応は一切無かった。あれ? という風にニアくんの方へ振り向いた僕が「もしかして留守かな?」と問うと。僕に問い掛けられたニアくんは、まるで『何か』を疑うような表情で「そんなわけないよ」と留守の線を否定した。即否定された僕は「そ、そっか……」と呟き、最初より強めに『ドンドン』と扉をノックするのだが、帰ってくる反応は『シーン』という静寂のみであった。ニアくんは家の中に『人は居る』と自信あり気に言っているから、もしかしたら『居留守』を使われているのかもしれないな。単純に、僕が奏でる強ノックの音が聞こえていないだけなのかもしれないけど——仕方ない。協力を仰ぐために来たから、なるべく『強行策』は取りたくなかったんだけどな。
「すぅーー……あのーっ! 客ですよ村長さーんっ! 村長さん!!」
確実に迷惑になるレベルで扉を『バンバン』と強く叩きながら、僕は絶対に家内の人が聞こえるだろう声量で家の中にいると思われる村長を呼んだ。すると——
ギイィィィ——……と軋む音を鳴らしながら扉が開き、開いた扉の隙間から背の低い妙齢の女性が顔を出した。やはりと言うべきか、彼女は僕に『怯えている』様子だ。まあ、大声で居留守をしている可能性のある家主を呼んだわけだから、その家の人が僕を怖がるのは当然と言えるだろう。正直、今の僕みたいな人が自分の家の前にいたら、僕も彼女と同じ反応をすると思うし。だから『こういうこと』はしたくなかったんだけど、現状を見るに、実際に居留守を使われていた可能性が高いわけで、このやり方は正解だったのだと切に思いたいのだが。さて、どうだろう?
「…………何の御用でしょうか……?」
恐る恐る顔を出した女性は『絶望したような目』を僕に向けて、細々とした声でそう言った。そんな彼女に対し、僕は毅然とした態度で「村長さんと合わせてください」と伝えた。もしも村長が本当に『留守』だった場合、僕はこの場で土下座をする。間違いなくする。絶対にする。
「…………少々お待ちください……」
「——! はい!」
そう言った彼女は扉を閉めて、家の中へと戻っていった。「村長は家に居ない」と彼女が言わなかったあたり、村長が家に居るのは間違いないのだろう。村長達が居留守をしていたのには何か事情があるのだろうけど、こちらとしては「村の近くに魔族がいる」と言う情報を聞いて「ああ、そうなんだ。じゃあね」と言って帰ることなんてできないのだ。ニアくんの言うことを疑っているわけではないけど、ニアくんの言っていたことが正しかったにも関わらず、僕が彼を無視して見捨ててしまった結果、ニアくんのみならず他複数人が『死ぬ』という可能性が出てきてしまうだろう。そんな間違いを僕が目標とする『トウキ君』が犯すとはてんで思えない。さっきは『扉をバンバン叩いて大声で呼ぶ』という大分乱暴なやり方を取ってしまったのは申し訳ないのだが、我々魔族討伐隊は『人命最優先』だ。最悪の結果『人死』を出してしまう可能性を残すというのは、我々にとって『論外』なのである。だから多少の迷惑はかけてしまうと思うけど、そこはニアくんの愛嬌で許してもらいたい。
そんなことを考えながら時間を潰すこと約十分。ニアくんと二人で流石に時間が掛かり過ぎじゃないか? という話をした後、僕がもう一度扉を叩こうとした——その時。ギイィィィ——……と再び軋む音を鳴らしながら、最初の時よりも大きく扉が開く。両扉を開けた戸口から、先程の低身長で妙齢の女性——恐らくこの家で雇われているメイド——が出てきた。
僕は『やっとか』と思いつつ、目の前のメイドに「いきなり来て申し訳ありません。欠かせない用がありまして」と言って頭を下げた。そんな僕を見た彼女が『どういう表情』をしたかは頭を下げているせいで分からないが、あまり歓迎されていないだろうことが、場に醸される雰囲気で察することができた。
「…………どうぞ、中へ……」
とうとう家の中に通された僕は、不安そうに猫耳を畳むニアくんと手を繋ぎ、メイドの後に続いていく。メイドの背から『ピリピリ』とした緊張が伝わってくる。この反応は一体、何なんだ? と眉尻を上げて怪訝に思いながら、一直線になっている横と縦に広い廊下を黙って進んでいき、玄関から真正面に見えていた、戸口ほどではないにしても大きい、居間へと続いているのだろう両開き扉にメイドが手を掛けた。
そして——ゆっくりと開く。
居間への扉が開いた先には『玉座のような椅子』に座っている、初老の男性がいた。その初老の男性は、清潔感のない『ボサボサ』した赤黒い無精髭を生やしており、髪も髭と同じで『血』に染まったかのような赤黒色。彼の右脇には側仕えの若い男性がおり、僕達を案内してくれたメイドが彼の左脇につく。両脇をがっしりと従者で固めた『村長』と思われる男性は別段『病気』という感じもなく、パッと見は健康そう。居留守を使っていたのは、この家の主人である彼の身に何かあったからではないか? と若干心配していたのだが、それは要らぬ心配だったようで、僕の視界に広がっている状況から察するに『そういうわけ』ではなかったようだ。
「…………」
理由は分からないが、僕は目の前にいる彼——この村の村長を心の底から『警戒』している。若干の緊張感をお互いが帯びわせながら、場に無言の時が流れていく。そんな凍りついてしまったかのような止まった時を破ったのは僕だ。一歩前に出た僕の挙動を警戒した村長と従者二人が『キュッ』と目を細める。そんな彼等を視界に収めながら、僕は世間話などはせず、早速『本題』を切り出した——のだが。やはり言うべきか、彼らの反応は『ニアくん』の予想通りのものであった。
「はっはっは! そんな『童話』に出てくる魔族が、この世にいるわけがない!」
という感じで僕達の話を全く聞き入れてもらえず、僕は顔を引き攣らせながら(ダメだこりゃ)と苦笑し、ニアくんは黙って俯いてしまった。彼等との会話を諦めた僕達は早々に村長宅を出て、先程の丘の上に向かい、そこで『魔族討伐隊』の会議を行う。
「ね? ダメだったでしょ……?」
「う、うん……」
再び影を纏ってしまったニアくんに僕は何も言えず、討伐隊の二人は黙り込み、ただただ無言の時間が過ぎていく。無言の空気で息が詰まっていた僕が、ふと空を見上げると、空が茜色に染まっており、夕日が目に焼き付いてきた。どうやら、時刻は夕方になってしまったようだ。僕がこの村に着いたのが正午ごろだったのだけど、もうこんな時間なんだな。知らず知らずの内に過ぎていってしまった時間に、何とも言えない感情を心に広げさせながら、僕は正面へと向き直り、無言のまま俯いているニアくんに声を掛けようとした——その時。
「夕食ができていますよ」
突然の声掛けを受けて、気を抜いてしまっていた僕とニアくんは「「——っ!?」」と肩を跳ねさせる。バッと声がした方を向くと、そこには『宿屋の娘』さんがいた。
何で僕達がここにいるってわかったんだ? と僕達が呆気に取られていると、彼女はもう一度「夕食ができていますよ」と不気味なくらいの『無表情』で言った。そんな彼女に冷や汗を流した僕は、何とか「わかりました……今から帰ります」と返す。
すると彼女は「お早めに」と僕に言い、宿のある方へと歩いて帰っていく。
「な、何でも見つかったの……?」と——冷や汗を掻く僕が目の前にいるニアくんに問いかけると、彼は「わ、分かんないよ……」と驚愕した様子で返事をした。
よく分からないけど、僕達がここに行くところを誰かが見ていて、その見た人に聞いたとかだろう——と結論づけた僕は地面に手をついて立ち上がり、地べたに座り込むニアくんに手を貸した。そして僕の手を取って立ち上がったニアくんに、僕は明日の話をする。
「明日さ、その『イカ魔族』を見たって場所に連れて行ってくれない?」
僕の言葉に、ニアくんは了承する様に『コクっ』と頷く。そんな彼に「ありがとう」と礼を言った僕は、丘から彼を抱えて滑り降り、彼に「また明日ね」と別れを言う。
すると——
「あ、そ、ソラ兄ちゃん……」
「ん? どうしたの?」
「…………いや、何でもない。また明日ね!」
「——? そっか……うん。また明日」
お互いに別れの挨拶を済ませ、僕は宿泊する宿に戻った。日が落ちた頃に宿に戻ると、フロントにある食卓には夕食であろう『シチュー』が一皿だけ用意されていた。
もしかして皆んな食べ終わっちゃったのかな? と周りを確認すると、厨房らしき場所から『ガチャガチャ』という食器を洗う音が聞こえてきたので、僕は(やってしまった)と思い、急いで借りていた部屋に戻り、コートを脱ぐ。僕が部屋の隣の部屋から「ゴオォォォォ」という大きすぎる御者の鼾が聞こえてくるので、今日は熟睡できなそうだなぁ——と堪らず苦笑する。そんなこんなで『変な隠し味』のするシチューを平らげた僕は、御者が放つ『鼾対策』で毛布で顔を覆い、ベットに丸まりながら就寝した。
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