風ノ旅人

東 村長

文字の大きさ
上 下
25 / 133
ハザマの国・編

金工の町ゴルゴーン

しおりを挟む
 翌朝。僕達は村を出て、ゴルゴーンを目指す。
 まだ泣き言を言うドッカリに、マイマイちゃんは引いていた。
 ははは、と苦笑しつつ、僕はシクシクする彼を励ましてあげた。

「そんなんだから、恋人ができないんだよ」
「え?」
「もっとしっかりした男じゃなきゃダメ。私は強い人の方が好き」
「……うん」

 おぉ・、マイマイちゃんが励ましてる!

「でも、ドッカリが強くても、ドッカリは嫌い」
「ブフッ!」

 マイマイちゃんの時間差口撃に堪らず吹き出すトウキ君。
 僕も肩を震わせながら、何とか笑いを堪える。

 笑っちゃダメ! 笑っちゃダメだってっ!
 あははははははははははははははっ!

「ソラさんまで俺を笑うのかっ⁉︎ もういい、死ぬっ‼︎」

 あ、顔に出てたか⁉︎ でも、これはフォローできないよなぁ。だって——

「でもさ、ドッカリがマイマイちゃんに嫌われるのは仕方ないんじゃない?」

 僕の発言を、マイマイちゃんは、うんうんと肯定する。
 それを見てバツが悪そうな顔をするドッカリはいじけてしまい、膝を抱えて動かなくなった。彼女に嫌われたのは、ドッカリの自業自得だ。こればっかりは仕方ない。
 
 僕はポンポンと肩を叩き、元気出してと伝えた。
 
 馬車を走らせること、数時間。
 
「皆さん! あれを見てください!」
「ん?」

 全員が荷台から顔を出し、マルさんが指差す方を見る。
 指の先には、大きな山が見えた。
 かなりの距離があるにも関わらず、くっきりと目に映る灰色の山が、途轍もないほど巨大だと見て取れた。
 その威容に、僕とマイマイちゃんは口を開けたまま放心し、ドッカリはゴクリと固唾を飲む。  
 トウキ君は不敵な笑みをし、マルさんはヤル気に満ち溢れた表情で馬に鞭を打ち、さらに加速する。

 徐々に見えてくるのは巨大な防壁。もしかしなくとも、あれが——

「あれが金工の町ゴルゴーンですヨォ!」
「やっと、着くのかぁ」

 僕は背伸びをし、町を眺める。

「着いたら美味しいご飯が食べたい。ドッカリの奢りで」
「え?」
「あ、それ良いね!」
「俺も賛成」
「えっ⁉︎」
 
 マイマイちゃんの発言を、僕とトウキ君は賛成する。
 町に着いたら、ドッカリの奢りで豪勢な食事を摂ろう。
 財布の心配をする彼を置き去りにして、何食べる? と盛り上がる三人。
 
「僕は肉を食べたいなぁ」
「私はケーキと、ジュースと、あとは……」
「俺は米が食いたい」
「お、俺はぁ安いのが良いなっ! なっ? なっ⁉︎」
「「「……」」」
「おいっ!」

 焦るドッカリを見て、僕達は笑みを溢す。
 何故か彼も笑い出し、全員がそれに釣られて声を上げて笑った。
 
 約五日間の移動。 
 長き道程を経て、僕達はとうとうゴルゴーンに到着した。

         * * *

「ようこそ、ゴルゴーンへ」

 僕達は検問所を通り、町に入る。
 視界に広がる町は話に聞いていた通りの金ピカだった。
 建物の外壁や支えになっている柱も金色。
 流石にこれ全部が金って訳じゃないよな?

 建ち並ぶ店はガラス張りで、店内が丸見えになっている。
 目に映る店の殆どが金のアクセサリーショップだ。
 買い物をしていると思われる、お婆さんは一眼で分かるお金持ち。
 大きな宝石が付いた指輪を全ての指に嵌めているし、ネックレス、デカすぎないか? 首疲れないのかな? あっ! 歯も金色だ。すげー……。

 それにしても、陽の光が反射して目がチカチカする。
 僕は目を窄めながら町を見渡した。
 治安が悪いと言われていたが、皆んな笑顔で町を彷徨いている。
 見せ掛けだけは良いって話だし、あんまり気を抜かないようにしておかないと。

 僕達は町の北側へ進み、少し大きな宿に入った。
 マルさんは受付に向かい、僕達は出入り口前で待機。

「大部屋を一室と、一人部屋を一室、お願いします」
「はーい。こちらが鍵でーす」

 もしかしなくとも、今日が最後の休息だ。気を引き締めよう。

 撮った部屋に入り、荷物を置く。全員が目配せをして、意思疎通をする。
 四人はテーブルを囲むように座り、最後の作戦を考える。

「どうします?」
 
 最初に発言したのは僕だ。緊張した面持ちで、面々を見回す。
 
「どうってなぁ。まずは金山を知らなきゃならねえ」

 僕の問いに答えたのはトウキ君。
 彼は胡座を組みながら、真剣な顔で考えを巡らせていた。

「誰か、金山について知っていることを話してください」

 情報を求めたのはマルさんだ。
 掛けている眼鏡をクイっと上げて、ドッカリを見た。

「俺が知ってるのは、この町にゴルゴンの屋敷があるってことぐらいだ。金山については何も知らねぇ。この町は何度か来たことあるから、大通りくらいは案内できるぜ」
「他に知ってる人は……いないか」

 僕の問いかけに、答える人はいない。うーん。
 ゴルゴン金山の情報が全く出ないな。これじゃあ、何も考えようがないぞ。
 全員が目を瞑り、腕を組みながら押し黙った。
 
 静寂が、部屋を支配する……。それを破ったのは部屋に入ってきた、彼女だった。
 ドシドシと部屋に来たマイマイちゃんを、僕達は見つめる。
 彼女は僕達を見回し、ブスッとした表情で言う。

「……お腹空いた」 
 
 四人は目を合わして苦笑した。

「そうだな、米食いに行こうぜ」
「ドッカリ、財布出して!」
「ドドッカリの奢りですかぁ」
「え? マジで言ってたの?」

 ゾロゾロと部屋を出て、食事を摂りに町に出る。
 自然と、僕の顔から緊張が消えていた。
 息詰まる皆んなを助けてくれたのかな? とマイマイちゃんを見て思った。

「マイマイちゃん、何食べる?」
「……ケーキ」 
「ドドッカリ! ケーキ屋を探しなさい!」
「え、いや、俺の奢りになるじゃん!」
「あ? だからどうしたんだよ」
「ええ~?」

 奢られる気満々のマルさんとトウキ君。
 それに困惑するドッカリを見て、僕とマイマイちゃんは笑った。

「ドッカリありがとう」
「ブフッ!」

 彼女のまさかのお礼に、僕は笑いを堪えられなかった。

「し、仕方ねぇなぁ! でも高いのは無しな? 高いのは無しだぞ? 分かったか?」
「「「「……」」」」
「おいっ!」

 僕達はケーキ屋に到着し、ドッカリの奢りで腹を満たした。

「美味しい」

 嬉しそうにケーキを食べるマイマイちゃんを見て、ドッカリは満更でもない顔をする。

「仕方ねぇなぁ。もっと味わって食えよ?」
「うん」

 ニコニコな二人を見て、僕は安心した。
 どうやら和解できたようだ。
 
「あっ! トウキさん、もっと味わって食えって!」
「あゆあぶあああわふ」
「あはははははははははははは!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...