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第50話 母からの手紙
しおりを挟むアンジュへ
この手紙を読む頃、あなたは何歳になっているのでしょう。もしかしたら一生読むことなく宿命に立ち向かっているのかもしれませんね。
小さいあなたに口頭で伝えても覚えられないかもと思い、手紙を書いています。まずは私の身の上話をさせてください。
私はメアソーグ王国のラプラナ公爵家の長女として生まれました。風魔法を使うことができ、子供の頃には魔法学校で勉強をして魔法士として認められたんですよ。
その後、自分の魔力に違和感を覚えました。風以外の魔力が存在していることに気付いたのです。伝手を頼りいくつもの書物を読み漁り、聞き込みをして、それが光の魔力であることがわかりました。
これが露見すれば大事になると思い、私は誰にも言わずこっそり光魔法の訓練を始めたのです。
何年かそんな生活をしていたとき、王都であなたの父・アザバンに出会ったのです。
彼はワッグラ村出身で、王都には出稼ぎに来ていました。私とアザバンはすぐに惹かれ合い、逢瀬を重ねていました。しかしそれを両親に知られてしまい、別の男性との婚約を決められてしまったのです。
ですがそのとき私のお腹にはアザバンの子、あなたが宿っていました。
私はアザバンと駆け落ちし、ワッグラ村での生活を始めたのです。村での生活はわからないことだらけでしたが、アザバンや村のみんなが温かく教えてくれました。あまりに居心地が良くて、あっという間に生活に慣れることができました。
そしてあなたが生まれました。
私はアザバンに光の魔力をもっていることを隠していたし、光魔法の話をしたこともありません。それなのに生まれたばかりのあなたを見るなり、「アンジュという名はどうだろうか?」と言ったのです。嫌な予感がしました。光魔法について調べていた頃、二百年前のアンジュ王妃のことを知ったからです。
風と光の魔法士であった彼女はワッグラ村出身で、第一王子レイフォナーに娶られました。そして、現王太子の第一子の名もレイフォナーです。偶然なのか、二百年前と何か関係があるのか・・・考えすぎかもしれないと思い、あなたをアンジュと名付けたのです。
日々すくすくと育つあなたは本当に可愛くて、この幸せな生活がずっと続くと思っていました。しかしその後、王太子に第二子が生まれたのです。その子の名がクランツと聞いて、生きた心地がしませんでした。
消えることのない不安を抱きつつ数年が経過した頃。村であなたと散歩をしていたときに男の子とすれ違いました。明らかに村の子供ではない身なりにもかかわらず、供を連れずに一人でいることを不思議に思うと同時に邪悪な魔力を感じました。振り返ると、その子の姿はありませんでした。
あの子は第二王子のクランツで、闇の魔力だと確信しました。あなたを見に来たのでしょう。またやって来るかもしれないという不安に駆られましたが、闇魔法に対抗できるのは光魔法だけです。
次にクランツが現れたとき、戦うことになると思います。それがいつになるのかわかりませんが、おそらく私は負け、命を落とすでしょう。ですがクランツを手負いにすることはできるはずです。
この手紙を手にしているということは、すでにあなたもだいたいの事情を把握していることでしょう。
アンジュ、あなたは風と光の魔力を持ち合わせています。光魔法を使いこなせるよう訓練をするのです。王都の魔法学校に入学するのが一番良いでしょう。
ただ、いざというとき光魔法だけでは闇魔法に太刀打ちできないかもしれません。メアソーグの南に隣接するバッジャキラ王国に行きなさい。
その国のロネミーチェという森に、“光剣”を管理しているマウベライド一族が住んでいます。その剣は二百年前のアンジュ王妃が闇魔法使いクランツを封印したものと言われています。強大な力をもった剣は、あなたの助けになるかもしれません。
クランツの目的は不明ですが、野放しにしてはいけない存在です。あなたの行動次第で世界の行く末は大きく変わるでしょう。光魔法と光剣で、人々と世界を救ってください。
あなたにこのようなことを頼むのは心苦しいですが、どうか・・・。
長々と綴りましたが、私の憶測や不安が杞憂であってほしいと祈るばかりです。
最後に、これだけは忘れないで。私があなたの健やかな成長と幸せを心から願っていることを・・・アンジュ、愛してるわ。
アーメイアより
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