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第41話 手詰まり
しおりを挟む小高い丘に、小さな建物がある。元々は真っ白であったろうそれは、長年風雨に曝されくすんでおり、壁にはヒビが入り、蔦が這い、何十年も放置されたような異景をしている。周囲は草が生え放題で、誰からも忘れられた場所だ。
その建物の上で黒いマントを纏ったクランツが、王城や魔法学校のある方角を眺めながら腕組みをして立っている。
「また失敗しちゃったな・・・まあ、イルにはもともと期待してなかったけど」
ユアーミラの転移魔法もイルを操ったことも失敗し、王城の自室の結界も破られた。だがクランツの表情は暗くない。
「一度、アンジュに会っておくか」
アンジュはレイフォナーたちとイルの様子を見に来ていた。
変わらず穏やかに眠っているイルは、四日前から一度も目を覚ましていない。毎日見舞いに来ては、早く目が覚めるよう光魔法を使っているつもりなのだが、手のひらはキラリとも光らない。
「全然だめだわ・・・」
村で光魔法を発動できたのは、まぐれだったのだ。自分が光魔法を使いこなせていればイルを救えるのに、と思うと悔しくて仕方がない。レイフォナーに精進すると約束したばかりだが、すでにめげそうになっていることも情けない。
「イルは精神的ショックに陥っておるんじゃろう」
「イルくんや僕たちも生まれ変わりだったりするのかな?」
「あり得るかもなー。てかさ、そもそも封印って何?封印が解けるとどうなるんだ?ついでに言うと、クランツ殿下は本当にお前の弟なの?」
ショールは疑問に思っていることを一気に吐き出した。
「お前は生まれ変わりで、クランツ殿下は封印が解けたとして・・・でもお前もクランツ殿下も王妃殿下から産まれてる。違いがわかんねえよ」
「ショーくん、どうしたの!?この複雑で不可解な事象を客観的に捉えてるなんて!」
「うるせー」
ショールの疑問は誰もが抱えており、誰も答えを出せないでいる。世界最高峰魔法士のバラックでも、封印については知識がない。
長い歴史の中で封印したのもされたのも、アンジュとクランツ以外にはいないと考えられており、例がなさすぎて詳しいことは何もわからないのだ。それでも何か手がかりはないものかと、王城の文官や司書たちが国中の書物を血眼になって調べている。
冷静に考えて、封印とは中に閉じ込めるという意味だ。それが解けたのなら、二百年前の姿のまま中から現れそうなものだ。人の子として生まれたことが腑に落ちない。
だが自分とクランツは確かに血の繋がった兄弟だ。王妃がクランツを宿していた大きな腹や、生まれたばかりのクランツに対面したときの喜びははっきりと覚えている。
「封印されてた場所もわかっていないしな」
「クランツ殿下に聞ければ手っ取り早いがのう」
「いや、それ一番無理っしょ」
「見つかんないもんねぇ」
バラックは、まだイルの治療を試みているアンジュに視線を移した。
「お前さんは、二百年前の記憶が残っておらんのか?」
「何も覚えてません・・・」
生まれ変わりはあくまで仮説なのに、それが確定しているかのような質問をされてしまった。そんなことを聞いてしまうほど、バラックも情報不足に頭を悩ませているのだ。
「手がかりが見つかればいいが」
そう言ったレイフォナーはため息をついた。
「まあ今は、できることをやるだけじゃ」
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