王子に恋をした村娘

悠木菓子

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第29話 おやすみ

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 レイフォナーは軽い足取りで、アンジュの部屋に向かっていた。

 アンジュが王城にいると思うだけで心が躍り、できることなら執務中も一緒に過ごしたい。自分でも相当浮かれているとわかっている。

 執務代行を任せたサンラマゼルは期待通りの働きをしてくれたが、それでも次々に書類が舞い込んできて終りが見えない。王子としてはあってはならない行動だが、逃げるようにして早々に執務を切り上げたのだ。今はアンジュを優先したい。サンラマゼルには白い目で見られ、ネチネチと小言を吐かれてしまったが。



 部屋に着くと、アンジュは白いゆったりとしたナイトドレスに着替え、侍女と話をしていた。

「えっ!?レイフォナー殿下!?」
「準備は出来ているみたいだね。私の部屋に行こうか」
 そう言って、ソファに座っているアンジュに手を差し出す。

 執務で忙しいレイフォナーがやって来るとは思っていなかった。どうすればいいのかわからず侍女を見ると、いってらっしゃいませという笑顔をしているので、戸惑いながらも彼の手をとった。



 レイフォナーの部屋は数か所にランプが灯っており、アンジュが使っている部屋よりも広く豪華だ。
 レイフォナーはソファに腰を下ろすと、自分の太ももをポンポンと叩いた。

(えっ、そこに座れってこと!?)

 とてもじゃないが、恥ずかしすぎてそこには座れそうもない。だが、「おいで」という目でじーっと見つめてくる。
 悩み抜いた結果、レイフォナーの隣に腰を下ろした。

 クスクスと笑っているレイフォナーが、アンジュの顔をのぞき込んできた。
「今日は一人にさせる時間が多くてごめんね」
「いえ、みなさんとても親切でしたし、読書をしていたので退屈しませんでした」
「ふうん?寂しかった!って泣きついてくれてもいいんだよ?」
「そ、そんなこと言いません!」

 レイフォナーは、村人たちにアンジュの無事を伝えた使者からの話をした。みんな、アンジュが無事だとわかると泣いて喜んだという。

「慕われているんだね」
「村のみんなは、家族みたいなものですから」
「村が好き?」
「はい」
「私のことは?」
「えっ!?」

 突然の質問に、なんて答えていいのかわからず黙ってしまう。
 こうやって一緒に過ごせるのは今だけで、レイフォナーのことは忘れようと思っているのに、好きだと伝えてはいけない気がする。たとえ伝えたとしても自分たちの関係が変わるわけでもない。
 困った顔をしてしまったのか、レイフォナーが頭を撫でてくれた。

「ごめん。今の話は忘れて」
 ほっとしていると、またもや予想外の話題を振られた。
「私に婚約者候補がいることは知ってる?」
「・・・ユアーミラ皇女ですよね?」

 すると、レイフォナーは自身の婚約者候補について話し始めた。
 ユアーミラの他に、バッジャキラ王国のラハリル王女も候補者だということ。どちらも持ちかけられた話であり、二人とは婚約するつもりはないということ。さらに、自分は複数の妃をもつつもりはないこと。

「なぜ私にそのような話を?」
「知っててほしかったから。君に誤解されたくない」
「誤解?」
 レイフォナーはふっと微笑み、立ち上がった。
「さあ、もう寝ようか」
 そう言ってアンジュの手をとり、ベッドに向かった。

「えっ!?一緒に寝るんですか!?」
「そうだよ」

 実際、無人島からメアソーグに戻る間の宿では、毎日一緒のベッドで抱きしめられて寝ていた。別々に寝ようと提案したが、寝ている間にまた転移したら、と思うと不安で眠れないらしい。
 言いくるめられ了承していたが、ドキドキしてすぐには寝付けない。だがレイフォナーの腕は暖かく、心が安らいでいき、いつの間にか眠っているのだ。しかも朝まで熟睡できてしまう。

 二人はベッドで横になると、アンジュは恥ずかしさからレイフォナーに背を向けてしまった。
 レイフォナーは指でアンジュの髪を梳き、後ろから抱きしめて首にキスをした。
「ひゃあ!」
「ふふ、おやすみ、アンジュ」
「お、おやすみなさい・・・」

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