王子に恋をした村娘

悠木菓子

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第21話 ここはどこ!?

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 四日前。

「うー・・・ん」
 目を覚ましたアンジュは、地面に横たわっている。
「ここは・・・・?」

 体を起こそうとしてみたが、体中に筋肉痛のような痛みが走る。痛みを堪えつつ、なんとか上半身を起こして辺りを見渡した。森の中のようだが見慣れない草木が生い茂っており、ワッグラ村の森とは匂いも違っている。

(どこの森なのかな・・・確かユアーミラ皇女に会って、足元に現れた影の中に吸い込まれたんだっけ。あれは一体なんだったの?)

 肌寒い上に、辺りは薄暗い。昼間でもこんなに薄暗いのか、それとももう夜になるのだろうか。
 ここがどこなのか確認したいが、影に全力で抵抗したため魔力を使い切ってしまった。空を飛んで上から見渡すことは不可能だ。

(今日はここで野宿決定ね)

 イルと王都に行くとき何度も野宿を経験しているため、この状況にあまり焦りを感じていない。だが、知らない場所で一人でいることには心細さを感じている。幸い自分の横にはバスケットが転がっており、中にはワッグラ森で摘んだ薬草や木の実、ナイフが入っている。

 凶暴な野生動物が現れないよう願いながら、休めそうな場所を探す。月が出ていないのか、月明かりが森の中までは届かないのか、すぐに真っ暗になって身動きがとれなくなってしまった。
 その場で腰を下ろし、バスケットから木の実を取り出して食べた。

「こういうとき、火魔法が使えたらなぁ」
 火を出せれば、暗さと肌寒さを解消できる。
 火魔法を羨ましく思っていると、木で火を起こせるという話を思い出した。

 暗闇に目が慣れてきたため、近くにあった木の枝二本を使って火起こしを試すことにした。詳しいやり方は知らないが、見様見真似でやってみる。
 一本を地面に置いて両足で抑え、もう一本を両手のひらに挟んで地面に置いた枝に垂直に当てる。そして両手を擦るようにして、枝を勢いよく動かしていく。

 根気よくやっているが、火がでる気配はない。
 
 そろそろやめようとしたとき、焦げたような匂いと煙が漂ってきた。諦めずに手を動かしているとついに、削りカスに小さな火がついた。そこに小枝や落ち葉を追加すると火は大きくなり、一気に周囲が明るくなった。

「ついたー!」
 急いで周辺の枝や落ち葉を拾い集め、焚き火を作った。

 
 焚き火を見ていると不思議な気持ちになる。自分が不安に思っていることを忘れさせてくれるようだ。無心でずっと眺めていられる。炎の色、パチパチと木が放つ音は心地よい。よすぎてついウトウトするが、火が消えないよう注意しながら枝を追加していく。







 ゆっくりと周囲が明るくなってきた。

 夜が明け、アンジュは立ち上がって体を思い切り伸ばす。筋肉痛のような痛みはほとんど治っていない。
「いたた・・・」
 それに全然眠れていないせいか、魔力が少ししか回復していない。

 ここがどこなのか確認するため、風を体に纏わせて空中に向かった。空から森を見下ろしてみると、近くに街や村は見当たらないどころか、どうやらここは島のようだ。
 できるだけ魔力の消費を抑えたいので、すぐに地面に降りた。

「どういうこと?ワッグラ村の森にいたのに、なんで島にいるの?」
 
 ワッグラ村があるメアソーグは大陸の内陸部にあるため、周囲には海がない。だがここは島だ。
 何が起こったのか理解できなかったが、とにかく魔力を全回復させるしかないという考えに至った。だが、見知らぬ森の中ではゆっくり休むことができない。

 もしかしたら、森の中に集落があるかもしれない。それを願って歩き始めた。

 途中で、川のせせらぎのような音が聞こえた。気のせいかもしれないが、聞こえたほうに向かうと見事に川があった。水は透明で、川底がはっきりと見える美しさだ。

 アンジュは両手で水を掬ってゴクゴクと飲んだ。
「美味しい!」

 無色透明、無味無臭の水は体に染み渡り、そのことに幸せを感じるほど喉が乾いていたことに気付いた。何度か水を飲んで体を存分に潤し、せせらぎに耳を傾けて一休みすることにした。
 だが、心地よい音はやはり眠気を誘う。このままでは眠ってしまいそうで、集落探しを再開することにした。
 下流に向かって歩いていると、小屋らしき建物を見つけた。


 小屋のドアをノックしてみるが反応はない。
 ドアノブに手を伸ばすと鍵はかかっておらず、中を見渡すと物がほとんどない。壁に備え付けられた棚に、布が何枚か置かれており、その横に二本の槍が目に入った。壁にはいくつか蜘蛛の巣が張っていて、どうやら今は使われていないようだ。

「どなたの小屋かわかりませんが、少し休ませていただきます」
 そう言って棚から布を取り出した。
 眠気に抗えないアンジュはそれを枕にして小屋の床に寝そべると、一瞬で眠りに就いた。

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