20 / 69
第20話 追跡②
しおりを挟むレイフォナーは三人に、以前アンジュの家の屋根に火魔法で作られた蛇がいたことを話した。蛇を放った人物と、今回アンジュに接触した人物は同一、もしくは関係者だと予想している。
異変に気付いていたのに、放置してしまった。あのとき手を打っていれば、このような事態は避けられたかもしれない。やはりチェザライにアンジュを護衛をさせるべきだったのだ。とめどなく後悔が押し寄せる。
「蛇に監視させていたのだろう」
「火魔法士ってどのくらいいるんだ?」
「えーっと、国内には三十人くらいかな。でも他国の火魔法士の人数は、わかんない」
「世界中の火魔法士を聴取するおつもりですか?蛇を作れる火魔法使いだっているかもしれませんよ」
犯人が判明しなければそうせざるを得ないだろうが、とりあえず犯人捜しは魔法学校の魔法士たちに任せる。自分はアンジュを見つけることに専念したい。連れ去られたにせよ、転移魔法を使われたにせよ、まずはアンジュの魔力を捜して居場所を突き止めることが最優先だ。
「いや、私はこれからアンジュを捜しに行く」
「お前、何言ってんだ!」「ダメだよ!」「許可できません!」
三人は同時に叫んだ。
サンラマゼルが説得するような目をレイフォナーに向ける。
「魔力追跡中に危険が伴う可能性だってあるんですよ?あなたは次期国王となるお方です。危険なことはさせられません」
「アンジュちゃんが心配なのはわかるけど、お前はここで待機だ」
「そうそう。だから、アレで捜そうよ」
「だがーーー」
そう言いかけたが、三人からの絶対に行かせないという圧に楯突くのをやめた。口だけでなく、物理的に負けるのが目に見えているからだ。無理やり捜しに行こうものなら、剣術に優れたショールに一本負けし、体術に優れたサンラマゼルに一発で気絶させられ、最終的に上級魔法士のチェザライに魔法で拘束されるに決まっている。
レイフォナーはしぶしぶ、机の引き出しから銀細工の箱を取り出した。中には以前、アンジュにもらったハンカチが入っている。
「お前たちにも付き合ってもらうからな」
「そうなるよなー」
「でも僕はレイくんやショーくんとは魔力属性が違うから、いても役に立たないよ?」
「それ以前に、私には魔力がありません」
「ショールは私と共に追跡を。チェザライは魔法学校の魔法士たちとの連絡係。サンラマゼルには執務代行を任せる」
「了解」
「はーい」
「仕方ありませんね」
チェザライは魔法学校へ、サンラマゼルは執務室に向かった。
レイフォナーは、先程チェザライが言った“アレ”の準備を始める。
手のひらから水を出し、カラスほどの大きさの鳥を作った。
その鳥に、アンジュからもらったハンカチを見せる。
「これをくれた人物を捜すんだ。このハンカチにはもう彼女の魔力は残っていないが、できそうか?」
そう言われた鳥はハンカチをじーっと見つめ、首を左右に振った。
どうやら、魔力が残っていないハンカチでは難しいようだ。
レイフォナーは手のひらから水を出して球体を作った。その中にハンカチを沈めて、アンジュの魔力をイメージする。他にも彼女の魔法を見たときのこと、ハンカチをもらったときのこと、容姿や思い出も思い浮かべて、それらを球体の水に流し込んでいく。
ほどなくして、ハンカチは球体の水を全て吸収した。
それを鳥に見せる。
「どうだ?」
鳥はコクンと頷いて、口をパクパクと動かしてハンカチを飲み込んでいく。
ほんのりと青い水で出来た透き通った体の中に、ハンカチがフヨフヨと浮いている。
「頼んだぞ」
レイフォナーに頭を撫でてもらっている鳥は、目を細めて気持ちよさそうにしている。
ショールが窓を開けると、鳥は飛び立っていった。
「魔力、どのくらい持ちそう?」
「さあな。早く見つかればいいが・・・魔力が切れそうになったら、お前の魔力分けてもらうからな」
「うへえぇ」
ショールはドカッとソファに座り、レイフォナーは鳥が飛んでいった空を見つめている。
「アンジュ・・・どうか無事でいてくれ」
11
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。


【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢
横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。
このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。
その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。
その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる