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第16話 闇の力
しおりを挟むその日の夜。
城の自室のベッドに入り、仰向けになったユアーミラは目を閉じる。
そのとき、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。無視していると、もう一度コンコンと鳴った。気になって窓に近付き外を見ると、月明かりに照らされた一羽のカラスの姿があった。そのカラスは、体から黒い湯気のようなものを放っており、その不気味な見た目に思わず声を上げそうになってしまった。
「開けろ」とカラスが言った。
ユアーミラは、普通のカラスでないことは当然わかっている。窓を開ければ、危険なことが起こるかもしれない。だが興味を引かれるというか、このカラスと話をしなければいけないような気持ちに駆られた。
戸惑いながらも窓を開けると、カラスが部屋の中に入ってきた。
「なっ!?」
カラスは部屋を一周して、テーブルの上に止まった。
カラスは何をしに来たのか。ユアーミラは、なかなか話し出さないカラスの瞳を微動だにせず見つめると、カラスも無言のまま見つめ返す。
すると、ユアーミラの紫の瞳が漆黒に変化した。
ようやくカラスが口を開く。
「お前、あの娘に忠告しただけで満足か?娘が言うことを聞いたとしても、レイフォナーはどうか?また娘に会いに行くだろうよ」
ユアーミラの目は虚ろで、生気を失ったような雰囲気だ。
「・・・レイ、フォナー、様は・・・わたくしの、もの・・・あの、女・・・邪魔・・・」
「ならば、何をすべきかわかるな?」
「・・・アン、ジュ、を、始末する・・・」
翼を広げたカラスはユアーミラに向かって羽ばたいた。
肩に止まり、耳元で話す。
「そうだ。アンジュに嫉妬し、恨み、負の感情で心を埋め尽くせ。そうすれば、お前に闇の力を貸してやろう。その力でアンジュを始末しろ」
「・・・しっ、と・・・闇・・・」
「くくく、楽しみにしているぞ」
そう言ったカラスは、窓から飛び立って行った。
ユアーミラがアンジュのもとを訪れてから、一か月が経った。
その間、レイフォナーは一度も会いに来ないし、王都に行っても遭遇しない。ユアーミラに、レイフォナーとは会わないと宣言したこともあって、都合がよいと言えばそうなのだが。
イルとはこれまで通り接している。告白の返事をまだしていないため、会うのは気まずいと思っていたが、イルの態度は至って普通だ。『急いで返事をしなくていい』と言ってくれた。
レイフォナーのことは忘れて、これからはイルのことを前向きに考えようと決めたのに、どうしてか涙が溢れてくる。胸が締め付けられるように痛み、苦しくて辛くてそれ以上考えられなくなってしまう。この感情をポイッとゴミ箱に捨ててしまえたらどんなに楽だろう。
そんなことを考えながらダラダラ庭仕事をしていると、声をかけられた。
「アンジュちゃーん!」
そう呼んだのは、イルの弟・ハルだった。
イルと手を繋いで歩いてくる。
「ハル!イル!おはよう」
「おはよー!」
「チビがお前と遊びたいってさ」
二歳のハルは赤毛に赤い瞳で、小さい頃のイルにそっくりだ。いつも元気いっぱいで、アンジュによく懐いている。
屈託のないハルの笑顔を見たおかげで、少し元気が出たような気がした。
「泣いてたのか?」
イルは、目が赤いアンジュの顔を覗き込んで言った。
「えっと、土が目に入っちゃって」
「・・・ふーん」
(泣いてた理由、誤魔化せたかな・・・?)
アンジュはそれ以上何も聞かれたくなくて、急いで手を洗いに行き、顔も洗った。
最近考え込んでばかりで、気分が滅入っている。ハルと思い切り遊んで、気分転換をすることにした。
「お待たせ!ハル、何して遊ぶ?」
「あのね、かわ!いきたいの!」
「じゃあ、川で遊ぼう!おやつ持っていこうか」
「うん!」
アンジュは家の中に入り、バスケットにクッキーや飲み物、コップ、タオルを手早く詰めた。
ハルは、アンジュとイルに手を繋いでもらって川に向かった。
その光景はまるで家族のように見えたのだろう。途中ですれ違った村人に、「お前ら、もう結婚しちゃえよ~」とからかわれてしまったが、イルは「うるせー」とキレ気味に反論した。
イルと結婚して、子供が生まれたらこんな感じなのだろうか。だが結婚生活を想像しようとすると、霧のようなものに遮られてしまい、その先のイルとの未来を思い浮かべることが出来なかった。
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