僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

文字の大きさ
上 下
35 / 37

 35、決着②

しおりを挟む


 ヴァイスも剣を抜き、ルナントフを見据えて構えた。 
 ヴァイスが長剣で対戦するのは、母親に扱い方を教えてもらったとき以来であり、正直緊張している。
 何度か深呼吸を繰り返し、緊張で早鐘を打つ心臓を宥めた。
 ルナントフは焦りで顔から汗が流れている。
 お互いタイミングを見計らっているのか、静止したままだ。

(稽古をよく思い出せ。落ち着いてやればできるはずだ)

 ルナントフの力量はわからないが、ヴァイスは二年以上、元シャッテンの二人に稽古をつけてもらっている。
 シャッテンには到底敵わないが、騎士入隊試験に余裕で合格する腕前はあるに違いない。

(僕はルナントフを許さない。だが殺すつもりはない···まずは軽く斬り込んでみるか?)

 そのとき、遠くで犬が「わん!」と吠えた。

 ヴァイスはその瞬間、ルナントフに向かって走り出す。
 そして掲げた剣を振り下ろした。
 ルナントフは両手で握った剣でそれを受け止める。
 何度か剣と剣がぶつかり合う音が鳴り、二人は距離をとった。

 ヴァイスは余裕の表情で言う。
「なかなかやるじゃないか」
 袖で顔の汗を拭い、はあ、はあ、と大きく呼吸をしているルナントフは答える。
「前世、近所の剣術道場に通っていたことがある。この世界で剣を初めて握ったのは、一週間ほど前だが」

(へぇ、少し見くびっていたかな)

「貴様こそ、公爵家のボンボンのくせに剣に慣れているようだが?」
「うちには戦闘のプロがいるんだ」
「···強い執事がいると、フォグが言ってたな」
「執事より母のほうが強いよ」

 二人は再び剣を構える。
 会話の時間が休憩となり呼吸が落ち着いたのか、今度はルナントフが斬りかかってきた。
 憶せず何度も振るってくる。
 ヴァイスはその度に受け止め、避け、薙ぎ払う。
 剣術の経験者だけあって筋はいいが、ジュリアやコールに比べると取るに足りない。

(さて、どうしたものか···ルナントフを殺さず、この勝負をどう終わらせる?スタミナ切れを待って降参させるか?)

 しかし、考えに一瞬気を取られていたヴァイスは不覚をとってしまう。

 ルナントフの攻撃を避けきれず、腹を斬られてしまった。
 傷は大きいが深くはなく、血はさほど出ていない。
 だが同時に態勢を崩す。
「くっ···!」

 ルナントフはその隙を逃さなかった。
 ポケットから液体の入った小瓶を取り出し、片手で蓋を開け、それをヴァイスの腹に浴びせた。
「何だ!?この液体は!」
 ヴァイスが腹に浴びたのはオレンジ色の液体で、強い匂いを放っている。

(甘い···バニラのような匂いだ)

 ヴァイスの好きな匂いではあるが、状況からしてこの液体は不利になるものに違いない。
 ルナントフは高笑いしながら言う。
「ふはははっ!この薬をどうやって使おうか悩んでいたんだが、よかったわーうまくいって」

 すると、ヴァイスの体に異変が生じる。
 傷口から体内へオレンジ色の液体が入り込み、薬の効果が表れ始めたのだ。
 ヴァイスは体に力が入らず、握っているはずの剣は手から滑り落ち、思わず片膝をついてしまった。

 ヴァイスは冷静に考える。

(僕は解毒薬を飲んでいる。でもこの薬には効かない···一体なんの薬だ?)

 ルナントフはヴァイスの心を読んだかのように説明する。
「それはな、ビュビュラノという植物から作られた睡眠薬のようなものだ。といっても、効果は弱いがな。脱力感と意識障害が表れる。毒には分類されていないから、解毒薬は効かない」
 この薬はフォグに手紙を書き、長剣と共に用意させたものだ。
 ルナントフはこの薬を使ったことはないが、もともと存在を知っており、戦いの最中に使えないかと考えていた。

(まずい、意識がぼやけ始めた!?このままではやられる!どうする!?)

 ルナントフは目を見開いて叫ぶ。
「本来の目標はお前を殺して、リフィアを手に入れて結婚することだった!だが俺は捕まるんだろう!?ならばせめて貴様は殺す!貴様にリフィアとカナさんは渡さない!!」
 そして剣を振り上げる。
「その首、斬り落としてやる!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?

夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。  しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!? ※小説家になろう様にも掲載しています ※主人公が肉食系かも?

私はモブ嬢

愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。 この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと! 私はなんと!モブだった!! 生徒Aという役もない存在。 可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。 ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。 遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。 ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

処理中です...