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 34、決着①

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 午後三時前、ヴァイスは七区を歩いている。
 ここは貧困街で治安がよくないせいか、どこか陰鬱な空気が流れており、建物の外にはほとんど人がいなくて物寂しい。
 周囲に目を向けると建物の壁には亀裂が入り、道にはゴミが捨てられている。
 初めて訪れた七区はまるで別世界だ。

 七区を抜けると、目の前には森が広がっている。
 その森の手前には、葉をたっぷりと茂らせた大木が二本並んでおり、そこに果たし状の差出人らしき人物が腕組みをしている。



「来たか」
 そう言ったルナントフはヴァイスを睨みつけた。
「呼び出したのは君だろう?もう少し歓迎するような顔をしてくれよ」
「随分余裕だな」
「どうだろうね」

 ヴァイスは一呼吸おいて尋ねる。
「今日は一体なんの用?」
 すると、ルナントフは目を見開いて叫ぶ。
「はっ、剣を携えておきながらよく言う!わかってるんだろう!?お前を殺して決着をつける!!」
 ヴァイスもルナントフも腰に長剣を下げている。

(斬り合いで決着をつけるつもりか)

 予想はしていたが、ヴァイスは一応慈悲をかける。
「あのさ、できれば話し合いで解決しない?君、どうせ捕まるんだから、罪は軽いほうがいいんじゃない?」
「俺は捕まらない。証拠は全て処分した。あとはお前を殺すだけだ」
「証拠って、フォグからの手紙?」
 ルナントフの目がピクリと動いた。
「貴様、やはり気づいていたか」
「君がフォグの店に手紙を出したことも、僕を襲撃させたり毒殺しようとしたことも、フォグのアジトも知っている」
「アジトだと!?」
「フォグのアジトって、貴族街の二区にあるんだ。暗殺者集団のアジトがそんな所にあるなんて思わないよね」

 ルナントフはアジトがあることはフォグから聞いていたが、場所は教えてもらえなかった。
 ヴァイスがなぜそこまでフォグに詳しいのか不思議でならない。

 ヴァイスはルナントフの心を読んだかのように話を続ける。
「優秀な調査員が調べてくれたんだ。そうそう、そのアジトなんだけど、昨夜摘発されてフォグは全員捕まったよ。まだ公表されてないけど」
「なんだと!?」

 ルナントフは驚愕している。
 フォグが裏で暗殺や盗品を売買しているという黒い噂は勿論知っており、だからこそヴァイス殺害を依頼したのだが、まさか摘発されるとは思っていなかった。
 取り調べで、自分がヴァイス殺害依頼をしたことを話されてしまったら、証拠は全て処分しろと伝えたがもし証拠が残っていたら、と思うと不安と焦りが抑えられない。
 しかし、ルナントフのその不安は的中する。

「君は証拠を処分したつもりかもしれないけど、フォグのアジトには残っていたよ」
「なっ···!」
「トリガー公爵家のヴァイスを殺せ、という君の手紙や、やり取りした他の手紙も。日付、依頼人の名前、依頼内容、報酬金額が書かれた帳簿とかも。もれなく君の名前も載っていたそうだ」
「くそっ!」

 今朝、王宮から使いの者がトリガー公爵家にやって来て、ヴァイスはフォグのアジト摘発やハイルトン侯爵についての説明を受けていた。

 ヴァイスはさらに情報を与える。
「それと、君のお父上も捕まる。いや、もしかしたらもう捕まっているかも」
「どういうことだ!?」
「君のお父上、色んな悪事を働いていたみたい。知らない?」
 呆然としているルナントフの表情からして、何も知らないようだ。

(父上は今日のことを国王陛下に報告すると言っていた。でも僕は日時を教えていない。それなのに、フォグのアジト摘発とハイルトン侯爵の拘束···タイミングが良すぎる。僕が今ここにいること、バレてそうだな)

「そして君も、公爵家嫡男の殺害依頼で御用さ。個人的に、カナへのストーカーについても罰したいくらいだ!!」
 ヴァイスはルナントフを睨みつけた。
 前世を思い浮かべると、怒りがこみ上げてくる。

「よくもカナを···!お前のせいでカナは死んだ!僕はお前を決して許さない!!」
「カナさんが死んだのは事故だ!俺たちは愛し合っていたんだ!カナさんは何度も会社に足を運んでくれて、いつも笑顔で話をしてくれた!それなのに、貴様と結婚すると言い出した!貴様が彼女を唆したんだろう!?」

「はあ、話にならないな。カナはお前に怯え、逃げて···お前が殺したも同然だ。相手を恐怖で支配することのどこが愛なんだよ」
「違う!貴様さえいなければカナさんは俺のものだった!前世でも現世でも邪魔しやがって!」

 ルナントフはそう言うと、帯刀している剣を鞘から引き抜き、ヴァイスに剣先を向けた。

(君はなぜ理解しない?君ではリフィアを幸せにできないことを。僕を殺して、リフィアが喜ぶとでも思っているのか?···愚かだな)

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