34 / 37
34、決着①
しおりを挟む午後三時前、ヴァイスは七区を歩いている。
ここは貧困街で治安がよくないせいか、どこか陰鬱な空気が流れており、建物の外にはほとんど人がいなくて物寂しい。
周囲に目を向けると建物の壁には亀裂が入り、道にはゴミが捨てられている。
初めて訪れた七区はまるで別世界だ。
七区を抜けると、目の前には森が広がっている。
その森の手前には、葉をたっぷりと茂らせた大木が二本並んでおり、そこに果たし状の差出人らしき人物が腕組みをしている。
「来たか」
そう言ったルナントフはヴァイスを睨みつけた。
「呼び出したのは君だろう?もう少し歓迎するような顔をしてくれよ」
「随分余裕だな」
「どうだろうね」
ヴァイスは一呼吸おいて尋ねる。
「今日は一体なんの用?」
すると、ルナントフは目を見開いて叫ぶ。
「はっ、剣を携えておきながらよく言う!わかってるんだろう!?お前を殺して決着をつける!!」
ヴァイスもルナントフも腰に長剣を下げている。
(斬り合いで決着をつけるつもりか)
予想はしていたが、ヴァイスは一応慈悲をかける。
「あのさ、できれば話し合いで解決しない?君、どうせ捕まるんだから、罪は軽いほうがいいんじゃない?」
「俺は捕まらない。証拠は全て処分した。あとはお前を殺すだけだ」
「証拠って、フォグからの手紙?」
ルナントフの目がピクリと動いた。
「貴様、やはり気づいていたか」
「君がフォグの店に手紙を出したことも、僕を襲撃させたり毒殺しようとしたことも、フォグのアジトも知っている」
「アジトだと!?」
「フォグのアジトって、貴族街の二区にあるんだ。暗殺者集団のアジトがそんな所にあるなんて思わないよね」
ルナントフはアジトがあることはフォグから聞いていたが、場所は教えてもらえなかった。
ヴァイスがなぜそこまでフォグに詳しいのか不思議でならない。
ヴァイスはルナントフの心を読んだかのように話を続ける。
「優秀な調査員が調べてくれたんだ。そうそう、そのアジトなんだけど、昨夜摘発されてフォグは全員捕まったよ。まだ公表されてないけど」
「なんだと!?」
ルナントフは驚愕している。
フォグが裏で暗殺や盗品を売買しているという黒い噂は勿論知っており、だからこそヴァイス殺害を依頼したのだが、まさか摘発されるとは思っていなかった。
取り調べで、自分がヴァイス殺害依頼をしたことを話されてしまったら、証拠は全て処分しろと伝えたがもし証拠が残っていたら、と思うと不安と焦りが抑えられない。
しかし、ルナントフのその不安は的中する。
「君は証拠を処分したつもりかもしれないけど、フォグのアジトには残っていたよ」
「なっ···!」
「トリガー公爵家のヴァイスを殺せ、という君の手紙や、やり取りした他の手紙も。日付、依頼人の名前、依頼内容、報酬金額が書かれた帳簿とかも。もれなく君の名前も載っていたそうだ」
「くそっ!」
今朝、王宮から使いの者がトリガー公爵家にやって来て、ヴァイスはフォグのアジト摘発やハイルトン侯爵についての説明を受けていた。
ヴァイスはさらに情報を与える。
「それと、君のお父上も捕まる。いや、もしかしたらもう捕まっているかも」
「どういうことだ!?」
「君のお父上、色んな悪事を働いていたみたい。知らない?」
呆然としているルナントフの表情からして、何も知らないようだ。
(父上は今日のことを国王陛下に報告すると言っていた。でも僕は日時を教えていない。それなのに、フォグのアジト摘発とハイルトン侯爵の拘束···タイミングが良すぎる。僕が今ここにいること、バレてそうだな)
「そして君も、公爵家嫡男の殺害依頼で御用さ。個人的に、カナへのストーカーについても罰したいくらいだ!!」
ヴァイスはルナントフを睨みつけた。
前世を思い浮かべると、怒りがこみ上げてくる。
「よくもカナを···!お前のせいでカナは死んだ!僕はお前を決して許さない!!」
「カナさんが死んだのは事故だ!俺たちは愛し合っていたんだ!カナさんは何度も会社に足を運んでくれて、いつも笑顔で話をしてくれた!それなのに、貴様と結婚すると言い出した!貴様が彼女を唆したんだろう!?」
「はあ、話にならないな。カナはお前に怯え、逃げて···お前が殺したも同然だ。相手を恐怖で支配することのどこが愛なんだよ」
「違う!貴様さえいなければカナさんは俺のものだった!前世でも現世でも邪魔しやがって!」
ルナントフはそう言うと、帯刀している剣を鞘から引き抜き、ヴァイスに剣先を向けた。
(君はなぜ理解しない?君ではリフィアを幸せにできないことを。僕を殺して、リフィアが喜ぶとでも思っているのか?···愚かだな)
2
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる