僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

文字の大きさ
上 下
33 / 37

 33、果たし状

しおりを挟む


 リフィアが毒を口にした日から、十日ほど経った。
 クワオラに処方してもらった薬を飲み、数日で完治したリフィアはすでに学校に復帰していた。

 ヴァイスはその日のリフィアとの会話を思い出しながら、快い気分で学園から自宅に戻ると、執事のコールが手紙を持ってきた。
 真っ白の封筒は、蝋封されているが印は捺されていない。

(差出人はだいたい予想できるけど)

 封を開けると、一枚の紙が入っていた。
 それには日時と場所の他に、“一人で来い”と、書かれている。
 何をするかは書かれていないが、果たし状と見ていいだろう。

 ヴァイスはコールに尋ねる。
「この手紙は誰が届けに来たんだ?」
「平民の男です。私は見覚えのない者でした。怪しく思い尋ねたところ、旅人風のマントを纏った男に、トリガー公爵家の嫡男に届けるよう脅されたそうです」

(フォグだな···だが手紙を書いたのはルナントフ本人だろうな)

「手紙にはなんと?」
 コールは芳しくない内容だと気づいているようだが、ヴァイスは詳細を伏せる。
「···決着をつける日が来たようだ」



 ヴァイスは帰宅したタリダルに尋ねる。
「父上、シャッテンの調査は終了しそうですか?」
「大詰めと聞いているが···どうした?」
「差出人は不明ですが、果たし状が届きました」
「はあ?」
 タリダルは眉間に皺を寄せている。
 ヴァイスはジャックの言葉を思い出す。

『二人を同時に捕まえたい』

(襲撃も毒殺も失敗し後がないルナントフは、おそらく自分で決着をつける気だ。僕は勝って、ルナントフを捕らえる。そうなると、父親のほうも捕らえる準備ができていないと···)

 ヴァイスは真剣な眼差しでタリダルを見つめる。
「数日後、決着をつけます」
「···わかったよ。陛下に伝えておこう」
 タリダルは、果たし状の差出人がルナントフなのだろうと察し、息子の覚悟を感じとったのか、止めることもなく手紙の詳細も尋ねなかった。
「必ず勝て。決して死ぬな」
「はい!」



 ヴァイスは自室に戻った。
 ベッドに寝転がり、これまでのフォグの手口やルナントフの思考を頭に思い浮かべ、当日の決着のつけ方を何通りも考える。

(ルナントフはどんな手を使ってくるかわからない。ましてや、一人で来るとも限らない。リフィアには伝えるべきか?でも心配するだろうな···)







 数日後の放課後、ヴァイスは図書室でリフィアに告げる。
「明日、ルナントフと決着をつけるよ」
「えっ?」
 ヴァイスは、突然の話に首を傾げているリフィアを抱きしめる。
「ルナントフに勝って、必ず戻ってくるから」
「···それって、危険なことをするの?」
 できれば話し合いで方をつけたいが、それで解決するような相手ではない。
 これまでのことを思い出すと、危険は避けられないだろう。
「大丈夫。僕、けっこう強いんだよ」

 リフィアの瞳には涙が浮かんでいる。
 もしヴァイスが怪我をしてしまったら、死んでしまったら、と不安が募る。
 それだけでなく、ルナントフの前世のストーカー行為や現世での束縛や暴力、そしてヴァイスの命を狙っていることは到底許せないが、ヴァイスには人を殺めてほしくないと思っている。

「ルナントフ様を···こ、殺すの?」
「いや、彼には生きて罪を償ってもらう」
「···うん。無事に帰ってきてね!私、待ってるから!」
「リフィアが待っていてくれると思うだけで、力が湧いてくるよ。必ずルナントフに勝って、前世の無念を晴らす。そして、前世で奪われた僕たちの幸せな未来を、この世界で実現しよう」

 リフィアはヴァイスの頰に手を伸ばし、キスをした。
 何度も唇を重ね、ヴァイスの無事と勝利を祈った。







 そして翌日、決着の日を迎えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?

夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。  しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!? ※小説家になろう様にも掲載しています ※主人公が肉食系かも?

私はモブ嬢

愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。 この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと! 私はなんと!モブだった!! 生徒Aという役もない存在。 可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。 ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。 遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。 ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

処理中です...