僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

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 27、解毒薬

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「どうしました!?」
 リフィアが意識を失うと同時に、一人の男性が駆け寄ってきた。
 肩まである白髪混じりの銀髪を後ろで一つに束ねている。
 五十代後半くらいの見た目だ。
 医務室のメブリード先生である。

 ヴァイスは手短に説明した。

「おそらくキブエラの葉から作られた猛毒でしょう。すぐに呼吸が弱くなってくるので、早く処置しないと!君、彼女を医務室に運べますか?」
「はい!」
 ヴァイスはリフィアを抱きかかえ、メブリードと医務室へ走った。



 リフィアを医務室のベッドに寝かせる。

 メブリードは、棚から液体の入った小瓶を取り出し蓋を開ける。
「この液体、何かわかりますよね?君はこれを飲んでいるのでしょう?」
 そう言って、ヴァイスに小瓶を渡す。
「飲ませてあげてください」
 ヴァイスはまるで死んでいるかのようなリフィアを見つめる。
 そして小瓶の液体、解毒薬を一気に口に含む。
 リフィアにキスをし、微かに開いている口を舌で広げて流し込む。

 リフィアはすぐには飲み込まなかったが、ほどなくしてゴクンと喉を鳴らしたのが聞こえた。
「リフィア···目を開けてよ···」
 ヴァイスは涙声で話しかける。
 もし目を覚まさなかったら、死んでしまったら、と悲観的な考えをしてしまう。



 すると、一分ほどでリフィアの顔は血色が良くなり、唇もピンク色に戻ってきた。
「リフィア!」
 ヴァイスは両手でリフィアの頬を撫でる。
 先程まで低く感じた体温は、いつもの温かさに戻り、しっかりと呼吸しているように見える。

「診させてくだい」
 メブリードがそう言ったので、ヴァイスはリフィアから体を離す。
 脈拍、瞳、唇、両手両足の指先を、メブリードは丁寧に調べる。

「うん、大丈夫そうですね。しっかり解毒されています。ただ、目を覚ますのは明日かもしれません」
 その言葉に、ヴァイスは涙が溢れる。
「ああ、よかった!リフィア、ごめんね。僕のせいでごめん!」
 眠っているリフィアを抱きしめ、何度もごめんと謝った。



 ヴァイスは落ち着きをとり戻し、メブリードと向かい合って座っている。
「すみません、取り乱しました」
「いいんですよ。最愛の人が助かってよかったですね」
 どうやら、ヴァイスとリフィアの関係を知っているようだ。
 二人は学園で噂になっているため、認識されていてもおかしくはない。
「あの、先生は何者ですか?」
 メブリードは少し驚いた表情を見せた。

「僕が普段からあの解毒薬を飲んでいることに気づきましたよね?状況と症状を見ただけで毒の種類を言い当て、この医務室にはなぜか、高価な解毒薬が常備してある」
 ヴァイスはまるで問い詰めるかのように、真っ直ぐメブリードを見つめる。

 「ふふ、同じものを口にしたのに君はピンピンしていた。つまり君は食事前に解毒薬を服用しているということ。毒に詳しいのは私が医者であり、毒の研究が大好きで、あの解毒薬を開発したのが私だからです。解毒薬をここに置いているのは、まぁコレクションだとでも思ってください」

 ヴァイスは一呼吸置く。
「わかりました。リフィアは指に付いたソースを舐めただけなのですが、キブエラとはそんなに強い毒なのですか?」
 大好きな毒の質問をされて、メブリードは目をキラキラと輝かせる。
 普段、毒の話をできる相手がいないせいか、興奮ぎみに話し出す。

「キブエラはね、南のティアーノウッドでしか採取できない貴重な植物なんだ。葉をそのまま食べても害はないが、特殊な工程を経て抽出したエキスは猛毒になる。キブエラ毒は飲むと瞬時に吸収される即効性の猛毒だよ」

(南のティアーノウッド···?)

 ヴァイスはつい最近その国名を耳にしたばかりだ。

「でも現在はキブエラ毒の製造は禁止されています。君に毒を盛った犯人は、どうやって入手したんでしょうね?」
 メブリードはさらに続ける。
「君はパスタを完食したのでしょう?事前に解毒薬を服用していなければ、一口食べただけで死んでますよ。私が開発したあの解毒薬は本当に素晴らしくて、事前に服用すればどんな毒でも瞬時に解毒します」
 メブリードはうっとりした顔で自画自賛した。
 解毒薬の効果を身を以て経験したヴァイスは、メブリードが誇らしげに語ることに納得する。

「何か事情があって解毒薬を服用しているのでしょうが、長期間飲み続けるのはお薦めしませんよ」

(ルナントフがフォグと接触してから、毒殺を警戒して解毒薬を飲んでいるが···)

「とは言え、服用しなければ死にますよねぇ」
「···もう少しで、必要なくなると思います」
 ヴァイスは立ち上がり、頭を下げてお礼を述べる。
「解毒薬を開発した先生は、僕とリフィアの命の恩人です。心より感謝いたします」
「ふふ、なんだか照れますね」

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