27 / 37
27、解毒薬
しおりを挟む「どうしました!?」
リフィアが意識を失うと同時に、一人の男性が駆け寄ってきた。
肩まである白髪混じりの銀髪を後ろで一つに束ねている。
五十代後半くらいの見た目だ。
医務室のメブリード先生である。
ヴァイスは手短に説明した。
「おそらくキブエラの葉から作られた猛毒でしょう。すぐに呼吸が弱くなってくるので、早く処置しないと!君、彼女を医務室に運べますか?」
「はい!」
ヴァイスはリフィアを抱きかかえ、メブリードと医務室へ走った。
リフィアを医務室のベッドに寝かせる。
メブリードは、棚から液体の入った小瓶を取り出し蓋を開ける。
「この液体、何かわかりますよね?君はこれを飲んでいるのでしょう?」
そう言って、ヴァイスに小瓶を渡す。
「飲ませてあげてください」
ヴァイスはまるで死んでいるかのようなリフィアを見つめる。
そして小瓶の液体、解毒薬を一気に口に含む。
リフィアにキスをし、微かに開いている口を舌で広げて流し込む。
リフィアはすぐには飲み込まなかったが、ほどなくしてゴクンと喉を鳴らしたのが聞こえた。
「リフィア···目を開けてよ···」
ヴァイスは涙声で話しかける。
もし目を覚まさなかったら、死んでしまったら、と悲観的な考えをしてしまう。
すると、一分ほどでリフィアの顔は血色が良くなり、唇もピンク色に戻ってきた。
「リフィア!」
ヴァイスは両手でリフィアの頬を撫でる。
先程まで低く感じた体温は、いつもの温かさに戻り、しっかりと呼吸しているように見える。
「診させてくだい」
メブリードがそう言ったので、ヴァイスはリフィアから体を離す。
脈拍、瞳、唇、両手両足の指先を、メブリードは丁寧に調べる。
「うん、大丈夫そうですね。しっかり解毒されています。ただ、目を覚ますのは明日かもしれません」
その言葉に、ヴァイスは涙が溢れる。
「ああ、よかった!リフィア、ごめんね。僕のせいでごめん!」
眠っているリフィアを抱きしめ、何度もごめんと謝った。
ヴァイスは落ち着きをとり戻し、メブリードと向かい合って座っている。
「すみません、取り乱しました」
「いいんですよ。最愛の人が助かってよかったですね」
どうやら、ヴァイスとリフィアの関係を知っているようだ。
二人は学園で噂になっているため、認識されていてもおかしくはない。
「あの、先生は何者ですか?」
メブリードは少し驚いた表情を見せた。
「僕が普段からあの解毒薬を飲んでいることに気づきましたよね?状況と症状を見ただけで毒の種類を言い当て、この医務室にはなぜか、高価な解毒薬が常備してある」
ヴァイスはまるで問い詰めるかのように、真っ直ぐメブリードを見つめる。
「ふふ、同じものを口にしたのに君はピンピンしていた。つまり君は食事前に解毒薬を服用しているということ。毒に詳しいのは私が医者であり、毒の研究が大好きで、あの解毒薬を開発したのが私だからです。解毒薬をここに置いているのは、まぁコレクションだとでも思ってください」
ヴァイスは一呼吸置く。
「わかりました。リフィアは指に付いたソースを舐めただけなのですが、キブエラとはそんなに強い毒なのですか?」
大好きな毒の質問をされて、メブリードは目をキラキラと輝かせる。
普段、毒の話をできる相手がいないせいか、興奮ぎみに話し出す。
「キブエラはね、南のティアーノウッドでしか採取できない貴重な植物なんだ。葉をそのまま食べても害はないが、特殊な工程を経て抽出したエキスは猛毒になる。キブエラ毒は飲むと瞬時に吸収される即効性の猛毒だよ」
(南のティアーノウッド···?)
ヴァイスはつい最近その国名を耳にしたばかりだ。
「でも現在はキブエラ毒の製造は禁止されています。君に毒を盛った犯人は、どうやって入手したんでしょうね?」
メブリードはさらに続ける。
「君はパスタを完食したのでしょう?事前に解毒薬を服用していなければ、一口食べただけで死んでますよ。私が開発したあの解毒薬は本当に素晴らしくて、事前に服用すればどんな毒でも瞬時に解毒します」
メブリードはうっとりした顔で自画自賛した。
解毒薬の効果を身を以て経験したヴァイスは、メブリードが誇らしげに語ることに納得する。
「何か事情があって解毒薬を服用しているのでしょうが、長期間飲み続けるのはお薦めしませんよ」
(ルナントフがフォグと接触してから、毒殺を警戒して解毒薬を飲んでいるが···)
「とは言え、服用しなければ死にますよねぇ」
「···もう少しで、必要なくなると思います」
ヴァイスは立ち上がり、頭を下げてお礼を述べる。
「解毒薬を開発した先生は、僕とリフィアの命の恩人です。心より感謝いたします」
「ふふ、なんだか照れますね」
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

私はモブ嬢
愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。
この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと!
私はなんと!モブだった!!
生徒Aという役もない存在。
可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。
ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。
遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。
ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?
夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。
しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!?
※小説家になろう様にも掲載しています
※主人公が肉食系かも?

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。


美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる