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26、油断
しおりを挟む学園の昼休憩時間。
ヴァイスとリフィアは食堂に来ている。
天気のいい日はお弁当を持って、中庭で食べることもある。
「今日はどれにしようかしら」
リフィアはメニューとにらめっこしている。
種類が多く、一流の料理人が調理しているためどれも美味しい。
「僕はパスタとサラダにする」
「じゃあ、私はサンドイッチとスープ」
この世界には、前世と同じ料理や食材がたくさんある。
カレー、ハンバーガー、米もあるが、残念ながら和食は存在しない。
「久しぶりにリフィア・・・というか、カナの手料理が食べたいな」
ヴァイス、いや航太はカナの手料理が大好きだった。
料理上手なカナは、リクエストすると大抵のものは作れた。
「そういえば、この世界でお料理したことないわ」
「何か作ってよ」
ヴァイスは得意のおねだり顔をした。
リフィアは慌てて答える。
「ええ!?うーん、まずは練習してからね。何が食べたい?」
「僕の好物、覚えてる?」
「もちろん!豚の生姜焼き、肉じゃが、ラーメン、あとプリン」
ヴァイスは覚えてくれていたことが嬉しくて、笑顔がこぼれる。
「正解!」
「覚えてるに決まってるでしょ」
リフィアの顔は自慢げだ。
しかし手を顎に当て、考え込む。
「この世界に和風調味料ってあるのかしら・・・なかったら作るのは難しいかな。でも他の調味料で試してみる?そもそも、ラーメンは麺もスープも作ったことないし・・・」
和食が存在しないのだから、調味料もないはずだ。
ヴァイスは仕方ないと肩を落とす。
「まずはプリンを練習するわ!この世界にある材料で作れるし、前世で何度も作ったから多分大丈夫!」
必要な材料を、指を折りながら口にしている。
やる気を見せるリフィアに、ヴァイスは自然と笑顔がこぼれる。
「ふふ、楽しみにしてるよ」
そんな話をしつつ、注文をして、料理を受け取った。
空いている席に座り合掌し、二人は声を揃える。
「いただきます」
この世界では、食べる前にそのような作法はない。
前世の記憶がある二人ならではで、時々近くの生徒に『何をしているんだ?』という目で見られることがある。
だが二人は気にしない。
「パスタ美味しそうね。私も今度それにしよう」
ヴァイスが注文したのはカルボナーラだ。
フォークでパスタをクルクルと巻き、それをリフィアに向ける。
「食べる?あーんしようか」
「えっ!?それはちょっと・・・周りに人がいるし・・・」
(リフィアならそう言うと思った。もし食べると言っても、あげることは出来ないけど)
リフィアは頬を赤くしている。
決して嫌なのではなく、恥ずかしいのだ。
「じゃあ、二人きりのとき、あーんさせてね」
「それなら・・・構わないけど」
そう言って、照れながらサンドイッチを食べ始める。
少し俯いてもぐもぐする姿は愛らしい。
二人は、他愛もない話をしているこの時間がなんとも心地よい。
ルナントフのことなどすっかり忘れてしまいそうになる。
その気の緩みがいけなかった。
二人とも食べ終え、席を立とうとしたとき。
「口の横にソースが付いてるわ」
そう言って、リフィアはヴァイスの口元に手を伸ばす。
指でソースをとり、なんとそのソースをペロッと舐めたのだ。
ヴァイスの顔から血の気が引く。
「しまった!!」
焦るヴァイスとは逆に、リフィアは笑みを浮かべている。
「うん、美味しいわ」
しかしその笑みはすぐに、苦痛の表情に変わる。
「あっ・・・なに?喉が・・・いた、い・・・」
リフィアは手で喉を抑え、ゴホゴホと咳をしながらテーブルに突っ伏した。
「リフィア!!」
ヴァイスはリフィアの肩を支える。
「喉が痛いのか!?他に変なところは!?」
リフィアは咳きが止まらず、話すことが出来ない。
そしてみるみると顔が青白くなり、唇は紫色へと変化していく。
周りの生徒たちがざわつき始める。
リフィアはその場で意識を失ってしまった。
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