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23、稽古
しおりを挟む「今日も稽古日和ねぇ。ふふ」
最近のジュリアは、ヴァイスへの剣の稽古が楽しくて仕方がない。
対ルナントフ、対フォグのため、時間のあるときは稽古に時間を割く。
ナタリーゼの調査で、ルナントフがフォグに出した手紙の内容が判明した。
『フォグのアジトが空になった瞬間に、忍び込んでみたの。そしたら、坊っちゃんの手紙を見つけてね。トリガー公爵家のヴァイスを殺してほしい、って書いてあったよ』
それを聞いた母は、気合いが入っている。
いや、楽しんでいる。
ヴァイスが剣術を習い始めたのは留学してからだ。
そのときは執事のコールが稽古をつけていた。
コールはヴァイスの身の回りの世話だけでなく、護衛のような役割も担っていた。
隣国での生活は危険があるかもしれない、と心配した両親の指示だ。
コールとの稽古中、気になっていることを尋ねたことがある。
『コール、お前は執事なのになんでそんなに剣の腕が立つ?』
『昔、嗜んでおりました』
『一体どんな稽古をしたら、そんなに強くなるんだ・・・』
(今思えば、コールも元シャッテンだったんだな。強いわけだ)
「さぁて、今日は木剣じゃなくてこれを使ってみましょう」
屋敷の庭で、乗馬服のような動きやすい格好のジュリアは、コールから二本の剣を受け取った。
その一本をヴァイスに渡す。
ずしりと重みがある長剣を見つめると、冷や汗が出てくる。
「母上、これ本物の剣ですか?」
「そうよ~。スパスパよく切れるから気をつけるのよ」
「僕、木剣と護身用の短剣しか扱ったことがないのですが」
ジュリアはにっこり微笑む。
「だから稽古するのよ?」
稽古はいつも木剣を使っている。
ヴァイスはジュリアに勝ったことは、これまで一度もない。
遠慮しているわけではない。
全力で、真剣に取り組んでいるのに、全く通用しないのだ。
「こんなので稽古したら、僕死ぬのでは?」
「今日はその剣に慣れることが目的だから、大丈夫よ」
そしてヴァイスはジュリアから長剣の扱いを教えてもらう。
架空の相手に何度も剣を振り、突き、手に馴染ませる。
一時間ほど経っただろうか。
「軽く対戦してみましょう」
ジュリアの提案に、ヴァイスは緊張が走る。
お互い剣を構え、向き合う。
先にヴァイスが動き出し、斬り込む。
しかし簡単に受け止められ、さらに薙ぎ払われた。
ヴァイスが構え直すと、今度はジュリアが斬りかかってくる。
なんとか受け止めたが、剣から手に伝わる衝撃が凄まじい。
「くっ・・・!」
ヴァイスは手に痛みを感じるほどだ。
(なんて強く、重いんだ!母上の細腕からどうやったらこんな力が出るんだ!?)
ジュリアはそれを察したのか、剣を降ろす。
ヴァイスの手から剣が滑り落ち、呆気なく勝負がついてしまった。
「大丈夫?手加減したんだけど」
「手加減してこれですか・・・」
ヴァイスは本物の剣の怖さと、母親の怖さが同時に襲ってくる。
「今日はここまで。明日からはまた木剣で稽古しましょう」
ジュリアは長剣をコールに渡す。
「普段は護身用の短剣で構わないけど、その長剣はあなたにあげるから、寝るときはベッド脇に置いておくこと」
「はい」
ジュリアはご機嫌な様子で屋敷に戻って行った。
母を見送ったヴァイスは剣を構える。
「部屋に戻られないのですか?」と、コールが尋ねた。
「もう少し練習する。シャッテンが護衛をしてくれているとはいえ、それに甘えてばかりでは痛い目を見るかもしれない」
(シャッテンがフォグに負かされたら、僕自身で戦わなければいけない。僕は負けるわけにはいかないんだ!)
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