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20、家族会議再び
しおりを挟むヴァイスが襲撃される数週間前、再び家族会議が開かれた。
ナタリーゼが、ルナントフの調査報告をする。
「あの坊っちゃん、フォグの店に手紙を出したんだよ」
タリダルは目を見開く。
「フォグだと!?」
ヴァイスも聞き覚えのある名だ。
「フォグは五区にある薬屋ですよね?」
ヴァイスたちが暮らすアマルロードという国の王都は、一から七まで区分けされている。
王宮周辺の一区と二区は貴族たちの屋敷や高級店、三区から六区は平民たちの生活の場、王宮から一番離れた七区は貧困層が暮らしている。
フォグは薬の販売だけでなく、遺失物探しや旅の護衛なんかも引き受ける、なんでも屋のような商売をしている。
「表向きはね。ただ裏では毒薬や盗品を販売したり、暗殺業もやってるって噂よ」
(今までよくそんな組織を放置してたな・・・)
「手紙でヴァイスの暗殺でも頼んだのか?」
暗殺という言葉に、ヴァイスの体はビクッと震え、その可能性にじわっと汗が広がる。
単なる遺失物探しの依頼であることを願う。
「そこまではわからなかったよ。それでね、フォグの店ってすごく小さいの。建物内にはいつも店主一人の気配しかない」
店番をしながら旅の護衛は不可能だ。
表裏どちらの仕事をこなすにも、それなりの人数が必要となる。
「つまり?」
「どこかにアジトがあるはず。そこに色んな証拠が残ってるかも」
さらにルナントフは今日、フォグ店を訪れていた。
支払いをしていたようだが、何かを受け取っていた様子はなかった。
タリダルは怪訝な表情を浮かべる。
「お前、閉店後に店主を尾行しなかったのか?アジトに向かうかもしれないじゃないか」
ばつが悪そうな顔のナタリーゼは、指でぽりぽりと頬を搔く。
実は何度も尾行を試みていたが、途中で必ず見失ってしまう。
「あの店主、相当できるよ」
「あなたはまだまだ未熟ねぇ」
母親にそう言われて、頬をぷくっと膨らませている姿は、まるで子供のようだ。
「私のほうは、陛下に事情を伝えてある。すでに、ハイルトンの調査にシャッテンを動かしてくれているそうだ」
自分の恋愛事情をありのまま国王陛下に知られたヴァイスは、気恥ずかしさで思わず下を向く。
それと同時に、自分のために国王陛下と最強部隊が動いてくれたことに申し訳ない気持ちになる。
(僕一人では何もできないから、たくさんの人が動いてくれている。リフィアを守ると誓ったくせに、僕はなんて無力なんだろう・・・情けないな)
気落ちしているヴァイスに、タリダルは気合を入れる。
「ヴァイス、気を抜くなよ。ルナントフが何を考えているのかわからんが、フォグと接触した以上、最悪お前の暗殺の可能性もある」
「はい。僕に何かできることはありますか?」
ジュリアがにっこり笑う。
「やるべきことは一つ、剣術の稽古よ。自分の身は、自分で守らなきゃね。これまで以上に厳しく指導してあげる。ふふ、楽しくなるわぁ」
息子が暗殺される可能性があるのに陽気だ。
ヴァイスはそんな母に、若干顔を引くつかせる。
タリダルは、シャッテンにヴァイスの護衛を頼めないか打診してくれるようだ。
「もしヴァイスを殺しに来たら、そいつらの後をつけて・・・フォグのアジトがわかるかも!」
ナタリーゼも母と同様、楽しそうだ。
ヴァイスは、自分が今やらなければいけないことが明確になり、やる気が湧く。
リフィアとの未来のために。
その数週間後、ヴァイスは実際に街で殺されかけたのだった。
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