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18、焦燥
しおりを挟む「やばい、やばいやばい!」
ルナントフは自室のソファに座り、両手で頭を抱える。
確実に悪い方向へ向かっていることに、焦りを隠せない。
呼吸が荒くなり、額から汗が流れ、無意識に貧乏ゆすりをしている。
今日の学園での出来事を思い出す。
体調を崩していたリフィアが回復し、ルナントフは久しぶりに顔を合わせた。
昼間、リフィアから『放課後、話がしたい』と言われ、現在二人は中庭のベンチで横に並んで座っている。
「体調はもう大丈夫?」
「はい、すっかり」
「そっか、良かった。その、手紙にも書いたけど、この前はごめん。叩いたことも、君に強く当たったことも・・・怖がらせたよね。ヴァイスに嫉妬したんだ」
リフィアは正面を向いたまま、ルナントフを見ようともしない。
以前のような怯えた様子もない。
「気にしてません」
「俺は君を愛してる。君は俺のこと嫌いになったかもしれないけど、以前のような仲の良い関係に戻って、婚約を継続させたい。君に好いてもらえるよう努力する!」
リフィアは一呼吸おいて立ち上がり、ルナントフの正面に立つ。
やっと目が合った。
「ルナントフ様、私記憶が戻ったのです。リフィアの記憶も、前世も」
「え?・・・前世って、カ、カナさんの記憶?」
自分が前世でストーカーしていたことも知っているのか?と焦る。
そうだとすれば、前世同様、避けられるに違いない。
リフィアは、ルナントフの焦りを煽り立てる。
「はい。ルナントフ様はやはり、あの人なんですね。つまり私は、あなたとは結婚できません。私は航太と・・・ヴァイス様と結婚します!」
覚悟を決めた力強い瞳は、まるでルナントフを睨みつけているようだ。
すると、リフィアは地面に正座し、土下座する。
「ルナントフ様、申し訳ありません。記憶が戻る前から、ヴァイス様を好きになってしまいました。非は私にあります。恨んでくれて構いません。婚約解消、よろしくお願いします」
そう言って、立ち去って行った。
ルナントフは、リフィアに記憶が戻ったことや完全に振られたことに混乱して、しばらく動けなかった。
ルナントフは自室の天井を見つめ、思考停止中の頭を懸命に動かす。
「振られた・・・どうすればいいんだ?諦めるしかないのか?」
ルナントフは前世、来世でカナに会えるよう願って自ら命を絶った。
そしてこの世界で生を受け、前世の記憶を思い出し、カナが転生したリフィアを見つけ、婚約を交わし、順調に事が運んでいた。
しかし宿敵が現れたことで、自分とリフィアの未来に黄信号が点いてしまった。
ルナントフは、その宿敵の顔を思い浮かべる。
気に食わない。
前世では恋人という圧倒的有利なポジションに立ち、現世でもその地位を得ようとしている。
ヴァイスへの怒り、嫉妬、憎悪、それらの感情で心が埋め尽くされる。
「諦めるものか!カナさんもリフィアも俺のものだ!!」
だが、ヴァイスは自分より格上の公爵家だ。
婚約解消を拒否し続けても、なんらかの方法でリフィアを奪いにくるかもしれない。
すでに、リフィアが学園を休んでいた間に、オルドリー伯爵が婚約解消を申し入れてきた。
もちろん拒否したが。
怒りをぶつけるように、何度も右拳をソファに叩きつけた。
「くそっ!あいつが現れなければ、うまくいったのに!!」
リフィアが前世を思い出したのは、ヴァイスに出会ったからに違いない。
将来自分とリフィアは結婚して、子供が産まれて、幸せな生活を送る・・・そんな理想を掲げていたが、それが叶わない可能性が出てきた。
婚約解消はなんとしてでも回避しなければいけない。
部屋の中をウロウロと歩き回り、しばらく考えを巡らせ、結論にたどり着いた。
「そうか、ヴァイスを・・・消せばいいのか」
ルナントフは机の引き出しから紙を取り出し、迷いなくペンを動かす。
それを封緘し、執事に渡す。
「五区のフォグの店に届けてくれ」
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