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16、甦る記憶①
しおりを挟む翌日、リフィアは学園を休んでしまった。
ルナントフに、ヴァイスと街でデートしたことを問い詰められ、頬を叩かれ、さらに唇を奪われたショックで発熱したのだ。
丸一日寝込んでしまったリフィアは、長い長い夢を見た。
日本で暮らす「カナ」という名前の女性の人生だ。
子供時代の出来事から、恋人の「航太」との幸せな時間を過ごす姿、ストーカーに悩んでおり、そのストーカーから逃げる途中、命を落としてしまった最期まで。
そして同じように、リフィアの子供時代から直近までの人生を見た。
そんな夢だった。
リフィアは目を開けると、横になったまましばらく天蓋を見つめる。
夢で見たことは自分の前世だと理解し、同時に、喪失したリフィアの記憶も思い出した。
両方の記憶を思い出し、頭の中にうっすらと漂っていた霧が晴れたような感覚だ。
スッキリして気持ちがいい。
しかし、すぐに恐怖が襲ってきた。
「ルナントフ様は、前世で私をストーカーしていた男だわ!」
直感なのか、本能でわかるのか、リフィアは確信した。
見た目は違えども、ルナントフとストーカー男がぴったり重なるのだ。
「なんで前世のストーカーと婚約なんてしてしまったの!?」
転生後、前世の記憶がなかったとはいえ、ストーカー男の婚約者になってしまったことに、鳥肌が立つ。
体が震え出し、身を起こして両手で自分を抱きしめた。
リフィアは落ち着くよう、自分に言い聞かせる。
「大丈夫、大丈夫・・・」
目を閉じて、愛しい人の顔を思い浮かべる。
二人の男性が頭の中に現れた。
ヴァイスと航太だ。
すると震えが止まった。
「ヴァイス様・・・あなたは航太だったのね」
前世で愛してくれた人と現世でも出会い、そしてリフィアとなった今も愛してくれている奇跡に、声を上げて泣きじゃくる。
ヴァイスは転入初日から、なぜか積極的に距離を縮めてきた。
いつもリフィアを気にかけていた。
婚約者がいると知っているはずなのに、デートに誘い、贈り物をする。
これまでのヴァイスの行動に合点がいく。
初対面で感じた懐かしさや、すぐに惹かれたことにも納得だ。
「ヴァイス様は全て知っていたのね」
いつかの図書室での会話を思い出す。
『僕たち過去に会ったことがあるのかもよ?例えば・・・前世とか』
あのときは、なんてロマンチックな人なんだろう、と思っていたが、ヴァイスはヒントを与えてくれていたのだ。
涙が止めどなく溢れてくる。
「ヴァイス様、航太、今すぐ会いたい!!」
すっかり熱が下がったリフィアは、ヴァイスに会いたい気持ちが抑えきれず、翌日から学園に行きたいと訴えた。
しかし医師や両親、使用人たち全員に反対されてしまった。
ひどい高熱だったそうだ。
肩が大きく動くほど呼吸が荒く、呼びかけても目を覚まさなかったほどに。
念のため数日はゆっくり休むよう、外出禁止令が出された。
「早くヴァイス様に会いたいのに・・・」
リフィアはぬいぐるみをギュッと抱きしめ、むくれ顔になる。
リフィアはその日のうちに、両親にルナントフとのこれまでのこと、ヴァイスと想い合っていること、現世の記憶が戻ったことを正直に打ち明けた。
「なんてことだ・・・そのような状況になっていたなんて」
リフィアの父はため息をつく。
「お前がそんなに辛い思いをしていることに、全く気付かなかった。すまない」
リフィアはてっきり、他の男に現を抜かすとは!と怒られる覚悟をしていたが、両親は娘の気持ちに理解を示した。
思えば、両親は一人前の貴族令嬢になるよう教育には手を抜かなかったが、それ以外のことはいつもリフィアの意思を尊重してくれた。
溢れる愛情と優しさをたっぷりと注いでくれていた。
「もともとは私が悪いのです。ルナントフ様がいながら、ヴァイス様を好きになってしまったから」
「ハイルトン侯爵に婚約解消を申し出てみよう。了承してもらえるかは・・・わからないが」
「お父様、お母様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
これまで黙っていた母親が口を開く。
「私たちは、あなたが幸せになってくれたらそれでいいのよ」
リフィアは娘思いの優しい両親に頭を下げる。
自室に戻ると、侍女が手紙を持ってきた。
ルナントフからだ。
それには、謝罪の言葉と一度ゆっくり話がしたい、と書かれていた。
リフィアは話をしたところで、ルナントフと一緒になる気は毛頭ない。
記憶を思い出したことで、前向きな気持ちになれる。
もうルナントフに怯えたりしない。
「私にはヴァイス様だけ。私たちの邪魔はさせないわ」
リフィアが記憶を思い出して三日目。
今日は週末なので学園は休みだ。
その日の午後。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「私に?どなたかしら?」
来客といえば、親友のアーラか、ルナントフか、それとも・・・。
「ヴァイス・トリガー様です」
「!!」
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