僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

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 12、対立

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 ある日学園に着いてすぐ、リフィアはルナントフに手を引かれ、人気のない所に連れて行かれた。

 ルナントフはひどく怒っているようだ。
 リフィアは両肩を掴まれ、背中を壁に押し付けられる。
 さらに両手をバンッと壁に当て、逃げられないよう囲まれた。

「お前、先月ヴァイスと街に行ったそうだな」
 リフィアは目を丸くする。
 胸が早鐘を打ち、全身から嫌な汗がじわっと滲み出た。
 やはり誰かに見られていたのだ。

 両目を見開き問い詰めてくるルナントフに、恐怖を感じつつ素直に認める。
「た、たまたま街でお会いしたのです」
「偶然会っただけなら、まだいい。なぜ一緒に店を回る必要がある?お前たちを見かけた者は、まるで恋人のように仲睦まじい様子だったと教えてくれたよ」
 
 リフィアは、ルナントフの脅迫するような目に耐えられず、俯いてしまった。 
 恐怖で足が震える。
 何を言ってもこの人の怒りは収まらないだろう。
「・・・申し訳ございません」
「俺が勉強してる間に、浮気とはな」
 
 だが、反論せずにこのまま従っているだけでは、これからも彼に支配される日々が続くだけだ。
 リフィアは勇気を出して告げる。

「私に愛想を尽かされたのなら、こんな女とは結婚できないと、婚約解消してくださって構いません」
「な、なんだと!?」
 婚約解消という言葉に、怒りが最高潮を迎えたルナントフは右手を振り上げ、リフィアの左頬を思いきり叩いた。
 その手で顎を掴み、上を向かせる。
 目が合ったリフィアの瞳にはすっすらと涙が浮かんでいるが、ルナントフを力強く見据えている。
「ふざけるな!お前は俺の婚約者だ!絶対に婚約は解消しないからな!!」
 
 リフィアの顔に、ルナントフの怒りに満ちた顔が近付いてくる。
 顔を背けたいのに、顎を掴まれていて動かせない。
 あっという間に、リフィアは無理やり唇を奪われてしまった。
 両手で思いきり押し離そうとしても、びくともしない。
 嫌悪感がひどく、涙がこぼれる。
 助けを呼びたいのに、口が塞がれていて声が出せない。

 助けて!ヴァイス様!と、心の中で愛しい人の名を叫んだ。
 そのとき。

「やめろ」
 
 という、怒りに満ちた声が響き渡った。
 ルナントフは唇を離し、声の主を睨みつける。

「ヴァイス・・・貴様!邪魔するな!」
「・・・ヴァイス様」
 助けに来てほしいと願った相手ではあるが、ルナントフとのキスを見られたことに胸が痛む。
 だがヴァイスの姿を見て、安堵で涙が止まらない。

 ヴァイスはリフィアに近づき腕を掴んで引き寄せ、優しく肩を抱いた。
 その優しい手とは逆に、ルナントフに向ける眼光は怒りに満ちて鋭い。

 だが、発する言葉は冷静だ。
「いくら婚約者とはいえ、嫌がる相手に無体を働くとは見過ごせないな」
「貴様!リフィアを離せ!」
「君さ、さっきから大声を出すから・・・ほら、人が集まって来てるよ。婚約者に怒鳴ってる姿をこれ以上見られるのは、体裁が悪いのでは?」
「!!」
 ルナントフは周りを見渡し、数人の生徒に見られていることにやっと気付いた。
「とにかく、彼女は今混乱してる。休ませる必要があるよ」
 ヴァイスはそう言うと、リフィアを医務室に連れて行った。

「・・・くそっ!」
 一人残ったルナントフは、拳を思いきり壁に叩きつけた。



「少し腫れてる。痛む?」
 医務室のベッドに腰を下ろし、ヴァイスは濡らしたハンカチでリフィアの左頬を冷やした。
「大丈夫で、んむっ」
 ヴァイスは、話し終わっていないリフィアの唇を、くそっ、と言いながら拭いた。
 動かす手には怒りがこもっている。

「あんなやつにリフィアの唇を奪われるなんて、最悪だ」
 そう言われたリフィアは、落ち込んだ表情を見せる。
 ルナントフにキスをされたショックが大きい。
「もしかして、これまでにもあいつとキスした?」
「してません!これまで一度も!た、多分ですが・・・」

 誤解されたくなくて、全力で否定した。
 記憶喪失前のことはわからないが、喪失後は間違いなくしていない。
 それでもヴァイスは怒りが収まらないのか、しつこいくらいに唇を拭いた。

「助けに来てくださって、ありがとうございました」

 ヴァイスは、ルナントフがリフィアの腕を引っ張って行くのを目にし、嫌な予感がして後を付けていた。

「街でのこと問い詰められた?」
 小さく頷いたリフィアを、ヴァイスは優しく抱きしめた。
「ごめん、僕が誘ったりしたから。こんなことになって、ごめん」
「謝らないでください。街でヴァイス様と過ごした時間は、とても楽しかったもの」

 抱きしめる腕に力が入る。
 自分のせいでリフィアが辛い思いをしていると理解しているが、それでも想いをぶつけずにはいられない。

「リフィア、好きだよ。僕の婚約者になってよ」
 リフィアは嬉しくて、また泣きそうになる。
 今までは婚約者がいるからと気持ちを抑え込んでいた。
 だがもう、黙っていることは無理だ。
 気持ちを伝えるときがきた。

「私もヴァイス様が好きです。あなたとずっと一緒にいたい!」

「うん、嬉しい。やっと君に好きって言ってもらえた」
 ずっと欲しかったリフィアからの『好き』という言葉は、ヴァイスの胸を熱くさせた。

 二人は見つめ合い、キスをする。
 軽く触れるだけのキスを何度も交わし、次第にむさぼるような情熱的なキスで愛を確かめ合った。


「ルナントフとの婚約解消は、僕がなんとかするから」

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