12 / 37
12、対立
しおりを挟むある日学園に着いてすぐ、リフィアはルナントフに手を引かれ、人気のない所に連れて行かれた。
ルナントフはひどく怒っているようだ。
リフィアは両肩を掴まれ、背中を壁に押し付けられる。
さらに両手をバンッと壁に当て、逃げられないよう囲まれた。
「お前、先月ヴァイスと街に行ったそうだな」
リフィアは目を丸くする。
胸が早鐘を打ち、全身から嫌な汗がじわっと滲み出た。
やはり誰かに見られていたのだ。
両目を見開き問い詰めてくるルナントフに、恐怖を感じつつ素直に認める。
「た、たまたま街でお会いしたのです」
「偶然会っただけなら、まだいい。なぜ一緒に店を回る必要がある?お前たちを見かけた者は、まるで恋人のように仲睦まじい様子だったと教えてくれたよ」
リフィアは、ルナントフの脅迫するような目に耐えられず、俯いてしまった。
恐怖で足が震える。
何を言ってもこの人の怒りは収まらないだろう。
「・・・申し訳ございません」
「俺が勉強してる間に、浮気とはな」
だが、反論せずにこのまま従っているだけでは、これからも彼に支配される日々が続くだけだ。
リフィアは勇気を出して告げる。
「私に愛想を尽かされたのなら、こんな女とは結婚できないと、婚約解消してくださって構いません」
「な、なんだと!?」
婚約解消という言葉に、怒りが最高潮を迎えたルナントフは右手を振り上げ、リフィアの左頬を思いきり叩いた。
その手で顎を掴み、上を向かせる。
目が合ったリフィアの瞳にはすっすらと涙が浮かんでいるが、ルナントフを力強く見据えている。
「ふざけるな!お前は俺の婚約者だ!絶対に婚約は解消しないからな!!」
リフィアの顔に、ルナントフの怒りに満ちた顔が近付いてくる。
顔を背けたいのに、顎を掴まれていて動かせない。
あっという間に、リフィアは無理やり唇を奪われてしまった。
両手で思いきり押し離そうとしても、びくともしない。
嫌悪感がひどく、涙がこぼれる。
助けを呼びたいのに、口が塞がれていて声が出せない。
助けて!ヴァイス様!と、心の中で愛しい人の名を叫んだ。
そのとき。
「やめろ」
という、怒りに満ちた声が響き渡った。
ルナントフは唇を離し、声の主を睨みつける。
「ヴァイス・・・貴様!邪魔するな!」
「・・・ヴァイス様」
助けに来てほしいと願った相手ではあるが、ルナントフとのキスを見られたことに胸が痛む。
だがヴァイスの姿を見て、安堵で涙が止まらない。
ヴァイスはリフィアに近づき腕を掴んで引き寄せ、優しく肩を抱いた。
その優しい手とは逆に、ルナントフに向ける眼光は怒りに満ちて鋭い。
だが、発する言葉は冷静だ。
「いくら婚約者とはいえ、嫌がる相手に無体を働くとは見過ごせないな」
「貴様!リフィアを離せ!」
「君さ、さっきから大声を出すから・・・ほら、人が集まって来てるよ。婚約者に怒鳴ってる姿をこれ以上見られるのは、体裁が悪いのでは?」
「!!」
ルナントフは周りを見渡し、数人の生徒に見られていることにやっと気付いた。
「とにかく、彼女は今混乱してる。休ませる必要があるよ」
ヴァイスはそう言うと、リフィアを医務室に連れて行った。
「・・・くそっ!」
一人残ったルナントフは、拳を思いきり壁に叩きつけた。
「少し腫れてる。痛む?」
医務室のベッドに腰を下ろし、ヴァイスは濡らしたハンカチでリフィアの左頬を冷やした。
「大丈夫で、んむっ」
ヴァイスは、話し終わっていないリフィアの唇を、くそっ、と言いながら拭いた。
動かす手には怒りがこもっている。
「あんなやつにリフィアの唇を奪われるなんて、最悪だ」
そう言われたリフィアは、落ち込んだ表情を見せる。
ルナントフにキスをされたショックが大きい。
「もしかして、これまでにもあいつとキスした?」
「してません!これまで一度も!た、多分ですが・・・」
誤解されたくなくて、全力で否定した。
記憶喪失前のことはわからないが、喪失後は間違いなくしていない。
それでもヴァイスは怒りが収まらないのか、しつこいくらいに唇を拭いた。
「助けに来てくださって、ありがとうございました」
ヴァイスは、ルナントフがリフィアの腕を引っ張って行くのを目にし、嫌な予感がして後を付けていた。
「街でのこと問い詰められた?」
小さく頷いたリフィアを、ヴァイスは優しく抱きしめた。
「ごめん、僕が誘ったりしたから。こんなことになって、ごめん」
「謝らないでください。街でヴァイス様と過ごした時間は、とても楽しかったもの」
抱きしめる腕に力が入る。
自分のせいでリフィアが辛い思いをしていると理解しているが、それでも想いをぶつけずにはいられない。
「リフィア、好きだよ。僕の婚約者になってよ」
リフィアは嬉しくて、また泣きそうになる。
今までは婚約者がいるからと気持ちを抑え込んでいた。
だがもう、黙っていることは無理だ。
気持ちを伝えるときがきた。
「私もヴァイス様が好きです。あなたとずっと一緒にいたい!」
「うん、嬉しい。やっと君に好きって言ってもらえた」
ずっと欲しかったリフィアからの『好き』という言葉は、ヴァイスの胸を熱くさせた。
二人は見つめ合い、キスをする。
軽く触れるだけのキスを何度も交わし、次第にむさぼるような情熱的なキスで愛を確かめ合った。
「ルナントフとの婚約解消は、僕がなんとかするから」
2
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

私はモブ嬢
愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。
この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと!
私はなんと!モブだった!!
生徒Aという役もない存在。
可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。
ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。
遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。
ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?
夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。
しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!?
※小説家になろう様にも掲載しています
※主人公が肉食系かも?

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。


美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる