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10、デート
しおりを挟む週末、リフィアは婚約者から開放される日だ。
正直それがとても嬉しくて、毎日曇っている心に太陽が顔を出したような晴れやかな気分になる。
三年になりルナントフの放課後と週末は、家庭教師とみっちり勉強漬けとなった。
出来が良くないはずのルナントフは、特進クラスに在籍しており、苦手教科でも高成績を修めている。
それは教師陣を買収しているからだ。
しかし、実は不出来だと露見することを恐れた父親が、今さらながら家庭教師を雇った。
記憶を失ったリフィアに、たくさん思い出作ろう、デートしよう、と言っていたルナントフだが有言実行できていない。
リフィアは気分転換も兼ねて街へ買い物に行く。
家で勉強中のルナントフに、ばったり会うこともない。
何度か足を運んだ本屋で、最近読んでいる小説の続刊を探していたとき。
「リフィア?」
心地よい声に呼びかけられ、足を止める。
思わず頬が綻ぶ。
「ヴァイス様!」
「偶然だね。休日にリフィアに会えるなんて嬉しいな」
ヴァイスは満面の笑みで、さらっと相手を喜ばせることを言った。
リフィアは頬を赤く染める。
「私も・・・嬉しいです」
そう言って、恥ずかしさのあまり俯いてしまった。
「私服姿、初めて見た。すごく可愛い」
リフィアは、薄ピンク色のワンピースとブーニーハット、小さなポーチを手に、リボンが付いた茶色のショートブーツという格好だ。
「・・・ありがとうございます。ヴァイス様もとてもかっこいいです」
「ふふ、ありがと。でもリフィアに会えるとわかっていたら、もっとお洒落してくるんだったよ」
失敗したな、と指先でポリポリ頬を搔く。
ヴァイスは白の襟付きシャツで、襟のセンターでリボンを結んでいる。
そして黒色のベストと細身のトラウザーズに、革靴という姿だ。
シンプルだが、きっと高級素材が使われているに違いない。
さらに上級貴族オーラが、だだ漏れだ。
「時間ある?一緒に店を回ろうよ」
「でも・・・」
リフィアは婚約者以外の男性と街を歩くことに、躊躇いの表情を見せる。
知り合いに見られでもしたら醜聞だ。
しかし本音を言うと、ヴァイスと一緒に過ごしたい。
「リフィアとデートしたいな」
ヴァイスに甘えるように言われたリフィアは、後ろに控える侍女を見る。
行きましょう!と言わんばかりに、にっこりしている。
「私でよろしいのですか?」
「僕はリフィアが、いいんだよ」
そう言われたリフィアは、心が解放されたような気分になった。
「では・・・よろしくお願いします」
ヴァイスは満面の笑みを見せる。
「じゃあ、行こう!」
カフェに入り、二人とも紅茶とスイーツを注文した。
リフィアは、ヴァイスがプリン好きという情報を得た。
流行っているスイーツやオススメの店など、甘いものが好きな二人は話が弾む。
そのあと雑貨屋に向かった。
可愛い小物やぬいぐるみに目を輝かせるリフィアを、ヴァイスは懐かしく思う。
(カナも可愛い物が好きだったな・・・)
「行きたいところがあるんだ」
二人は馬車に乗り、ヴァイスがそう言った場所に向かっている。
途切れることなく会話を楽しんでいると、あっという間に着いた。
リフィアはヴァイスの自然なエスコートで馬車を降りる。
ここは街から西に向かった小高い丘だ。
「わあ、きれい!」
目の前にはゆっくりゆっくりと沈み始めた夕日と、オレンジ色に染まる空が広がっている。
「こんな場所があったなんて・・・」
ヴァイス自身も先週初めて来たばかりだ。
その時は昼過ぎだったが、夕方に来たらきっと美しい夕日が見れるだろうと思っていた。
夕日に照らされたヴァイスの横顔は、肖像画に残したいくらい美しい。
穏やかに微笑んでいるように見えるが、でもどこか、哀しげな表情にも見える。
「昔、君とよく一緒に見たんだよ・・・」
リフィアには聞き取れないくらいの声で呟いた。
「?」
「ううん、なんでもない。君とここに来れて嬉しいなって思って」
「私も嬉しいです。それに今日はヴァイス様と色んな所を回れて、とても楽しかったです」
「僕もだよ」
夕日を見つめていたヴァイスは体をリフィアに向け、突然真面目な表情を浮かべる。
リフィアの髪を掬い、優しく撫でる。
「なんで君は婚約しているんだろう・・・もっと早く出会っていれば、僕が君の婚約者になれたのかな」
まるで告白のようなセリフに、リフィアの胸はドキドキと高鳴る。
しかしすぐに、ズキンと嫌な音を鳴らした。
「・・・わかりません。婚約のことはもう、仕方のないことですから」
ヴァイスへの恋心を自覚したリフィアの胸は、ひどく痛む。
「ごめん、変なこと言ったね」
そう言って、ゆっくりと髪から手を離した。
「いえ、大丈夫です」
変な空気になってしまった。
それを打ち消そうと、ヴァイスが話題を変える。
「そろそろ帰ろうか。それと、君にプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれる?」
二人が乗った馬車は、伯爵家に向かって動き出す。
「さっき、こっそり買ったんだ。きっとリフィアに似合うよ」
と言って、ラッピングされた箱を差し出した。
それを受け取ったリフィアは、丁寧にラッピングをほどき蓋を開け、瞳を輝かす。
中には、白と水色のリボンの形をした髪飾りが入っていた。
リボンの真ん中には青い石がはめ込まれ、キラキラと輝いている。
「わあ、可愛い!」
「気に入ってくれた?」
「とっても!ヴァイス様の瞳と同じ色の石・・・奇麗だわ」
自分の瞳色の石をプレゼントするのは、恋人や婚約者がすることで、そう思うとリフィアは思わず顔が赤くなった。
今日は赤くなりっぱなしだ。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます。でも、私は何も用意してなくて・・・」
「いいんだよ。今日デートしてくれたお礼だから」
二人は家に着くまで、会話を楽しんだ。
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