7 / 37
7、ルナントフ・ハイルトン
しおりを挟む俺はハイルトン侯爵家次男のルナントフ。
家は兄が継ぐため俺はまあまあ甘やかされて育ち、厳しく育てられた秀才の兄とは天と地の差がある。
俺ははっきり言って頭がよくない・・・それは自分でもよくわかっている。
学園の特進クラスに入れたのも、父が多額の寄付金を納め、学園長にも金を渡したからだ。
そんな俺は前世の記憶がある。
日本で生まれ育った、ごく普通の男だ。
それなりに友人もいて、それなりに恋愛を経験し、それなりに勉強とバイトに励んだ。
大学卒業後は製造業の会社で営業の仕事に就き、その取引先で出会った運命の女性、カナさんに一目惚れした。
アイドルのような可愛い見た目も好みであったが、仕事に真摯に向き合う性格、落ち着きのある柔らかい声と話し方、一瞬で空気を浄化するような笑顔。
この人の全てが好きだ。
そう思った。
それからはカナさんとの距離を縮めることに尽力した。
仕事で何度か顔を合わせ、気さくに話せるようになって、もしかしたらいい感じになれるのでは?と思っていた矢先。
「恋人にプロポーズされたんです」
頬をほんのり赤く染めて、照れくさそうに話す彼女。
「えっ・・・結婚するんですか?」
「はい!お互いの仕事の都合もあるので、式はまだまだ先になりそうですけど。あ、仕事は続けようと思っているので、これからもよろしくお願いします」
結婚?
何を言ってる?
ふざけるな!
あなたを一番愛しているのは俺なのに!
俺以外の男と結婚するなんて、許さない!!
それからの俺は、世で言うストーカーと化した。
雨足が強い夜、いつものように待ち伏せをしていると、建物から出てきた彼女と目が合った。
彼女は怯えた表情を浮かべ、走って逃げる。
追いついたときには、地面にうつ伏せになりピクリとも動かない。
息絶えているであろう彼女に想いをぶつけた。
「カ、カナさん、何でいつも俺から逃げるの?こんなにもあなたを愛しているのに!だから一人で逝かせないからね!俺も一緒に逝くよ!来世で結婚しよう!」
俺はカナさんの後を追った。
来世でカナさんに出会えることを願いながら。
そして俺は転生した。
前世を思い出したのは突然だった。
学園の二年生になり、半年が過ぎた頃。
朝、ベッドで目を覚ました瞬間、今まで経験したことのない激しい頭痛に襲われた。
その間ずっと、一人の男の人生が頭に流れ込んでくる。
痛みが消えとき、それは俺の前世だと理解した。
前世の記憶を思い出したことで、もしかしてカナさんも転生しているのでは?と期待する。
興奮を抑えつつ、いつものように身支度を整え朝食をとり、学園に向かう。
学園に着き教室に入ると、クラスメイトたちから挨拶を受けた。
「みんな、おはよう」と、笑顔を添えて返事をした。
俺はクラスで結構人気がある。
侯爵家の息子であり、整った顔立ち、愛想の良さ、それらは周囲には魅力的に映っているようだ。
前世の記憶を思い出したところで、カナさんに会えないのなら、この人生はつまらないな・・・。
そう思いながら教室を見渡すと、一人の女子生徒に目が釘付けになった。
クラスメイトと楽しそうに話をしており、笑った顔がカナさんを思い出させる。
カナさん・・・?見た目は全く違えども、あれはカナさんだ!
体の細胞全てがそう叫んでいる。
彼女はオルドリー伯爵家のリフィア嬢だ。
だが、カナさんで間違いない!
前世の記憶を思い出したばかりの俺は、早速運命の人を見つけた。
これまでそんなに話をしたことはなかったが、積極的に話しかけ交流を図る。
リフィアは少し戸惑っているが、嫌そうではない。
人見知りなのか?
前世の記憶は・・・なさそうだな。
戸惑いながらも、ちゃんと会話をしてくれるリフィアはとても愛らしく、思わず抱きしめたくなる。
彼女の唇に視線が移る。
その小さな唇にキスしたい。
だがそんな欲望は抑え込み、まずは仲良くなることから始める。
彼女は俺のものだ!
そして彼女と結婚するんだ!
その日のうちに、父にリフィアとの婚約を願い出た。
幸いにも、リフィアには婚約者がいなかった。
侯爵家からの婚約申し出を、伯爵家は断れないだろう。
俺とリフィアの婚約は難なく決まった。
前世での約束を、いや、正確には息絶えたカナさんに一方的に放ったセリフだが、これで結婚が実現する!
その日の夜は興奮で眠れなかった。
だが、彼女を手に入れたと浮かれていた俺の幸せは、半年ほどしか続かなかった。
三年生になり、学園に宿敵が現れたのだ。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

こんにちは、女嫌いの旦那様!……あれ?
夕立悠理
恋愛
リミカ・ブラウンは前世の記憶があること以外は、いたって普通の伯爵令嬢だ。そんな彼女はある日、超がつくほど女嫌いで有名なチェスター・ロペス公爵と結婚することになる。
しかし、女嫌いのはずのチェスターはリミカのことを溺愛し──!?
※小説家になろう様にも掲載しています
※主人公が肉食系かも?

私はモブ嬢
愛莉
恋愛
レイン・ラグナードは思い出した。
この世界は前世で攻略したゲーム「煌めく世界であなたと」の世界だと!
私はなんと!モブだった!!
生徒Aという役もない存在。
可愛いヒロインでも麗しい悪役令嬢でもない。。
ヒロインと悪役令嬢は今日も元気に喧嘩をしておられます。
遠目でお二人を眺める私の隣には何故貴方がいらっしゃるの?第二王子。。
ちょ!私はモブなの!巻き込まないでぇ!!!!!

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。


美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる