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5、転入生
しおりを挟む教師に紹介され挨拶をするのは、ヴァイス・トリガーという名前の男子生徒だ。
とびきり美男子で女子たちがザワついている。
つやのある銀髪、明るい青色の瞳、筋の通った鼻に濃いめの色の唇は形がよい。
背が高く、スラリと伸びた長い足、纏う厳かな雰囲気は、女子だけでなく男子たちからも羨望の眼差しを向けられている。
だが、彼のその唇から発する声は穏やかで、聞いている人たちを魅力するかのような安らぎと癒しを与える心地よい声だ。
リフィアも彼から目が離せない。
魅了されたわけではなく、初めて会うのになぜか懐かしさを感じているからだ。
空いている席に移動するヴァイスを目で追いかけると、目が合った。
その瞬間、リフィアに驚いた表情を向けてきた。
「な、何かしら?目を見開いているわ」
リフィアはそれでもヴァイスの瞳を見つめている。
彼の目は、何かを訴えているかのように感じるからだ。
その瞳を知っているような気がする。
どこかで会ったことがあるのか、知り合いに似ているのか。
記憶がない今、自分にどんな知り合いがいるのかすらわからないが。
「リフィア」
小声だが、叱りつけるような声だ。
ルナントフにそう呼ばれて彼を見ると、頬杖をついて機嫌が悪そうな表情をしている。
「見すぎだよ」
「あ、すみません···」
どうやらルナントフは、ヴァイスの魅力には全く影響されていないようだ。
リフィアはヴァイスから目を逸らしたあとも、すっきりしない気持ちで授業を受けた。
記憶がないリフィアは、授業に全く付いていけないだろうと思っていたが杞憂に終わった。
どうやら、授業で習った内容は記憶があるようで、教師が話を進めていくと同時に過去の授業が甦ってきて、難なく終えることが出来た。
休憩時間、見目麗しい転入生は早速、クラスメイトたちに囲まれている。
ほとんどが女子生徒だ。
たくさんの質問を投げかけられ戸惑っているように見えるが、一つ一つ丁寧に答えている。
「彼、すっかり人気者だな」
そう言ったルナントフの表情はやはり不機嫌だ。
クラスメイトのほとんどがヴァイスに興味を持っているのに、彼には全くその様子がない。
「転入というのは、よくあることなのですか?」
「いや、滅多にない」
「ではみんな、転入生が珍しくて興味津々なのでしょう」
ルナントフはリフィアの手を握る。
「リフィアも気になる?あの子たちと一緒に話しかけたい?」
若干睨むような顔を向けてくるルナントフに、リフィアの体はビクッとした。
一応、思っていることを正直に話す。
「そうですね・・・クラスメイトなので仲が悪いのは気まずいですし、それなりに親しく出来ればと思います」
「親しくねぇ・・・彼にはあまり近づいたら駄目だよ。会話も最低限で」
ヴァイスを警戒するような言い方だ。
彼を目にしてから、なぜか機嫌が悪いルナントフにリフィアは少し首を傾ける。
「お二人は知り合いなのですか?その、あまり仲が良くないとか?」
「・・・・・・会うのは初めてだ」
そう言って、ヴァイスを睨んだ。
なんとなくだが、リフィアはこの二人には相容れない過去やわだかまりがあるのだろう、と感じた。
「とにかく、彼にはあまり関わらないこと。わかった?返事は?」
「はい・・・」
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