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2、リフィア・オルドリー
しおりを挟む「うっ・・・」
ゆっくり目を開けると、泣いている女性と目が合った。
「お嬢様!よかった!目を覚まされて本当によかった!」
そう言って、女性は更に泣く。
「すぐに医師を呼んで参ります!旦那様と奥様にもお伝えしなきゃ!」
手で目をゴシゴシと拭い、その女性はパタパタと部屋から出ていった。
お嬢様と呼ばれたその少女は、体中筋肉痛のような痛みを堪えてベッドで上半身を起こした。
白色のナイトドレスを着ている。
周りを見渡すと、薄ベージュ色の壁に、茶色の家具、可愛い小物やぬいぐるみが目に入った。
書棚には、ぎっしりと本が詰まっている。
「ここは、どこ・・・?」
目を覚ます前の記憶が一切ない。
この場所も、ここで寝ていた理由も、自分の名前も、年齢も、何もかも。
懸命に思い出そうとするが、頭の中には霧のようなものが漂っている。
その霧を越えれば記憶に辿り着けそうな気がするが、霧は壁のようになっていて先に進むことが出来ない。
この不思議な現象に戸惑っていると、頭がズキン、と痛んだ。
「いたた・・・」
頭を触ると、包帯らしきものが巻かれていた。
どうやら怪我をしているようだが、その原因も思い出せない。
喉にも違和感があり、コホコホ、と軽く咳をした。
「喉がカラカラだわ」
痛む体を動かし、ベッドを降りてドレッサーに映った自分の姿を見る。
腰まで伸びた金髪に、若葉のような明るい緑色の大きな瞳。
学生くらいの年齢に見える。
そして美少女だ。
「アニメに出てきそうな容姿・・・ん?アニメって何かしら」
よくわからない言葉が自然と口からこぼれた。
アニメとは?と考えるが、やはり霧のようなものに遮られて思い出せない。
彼女は思い出すことを諦めた。
「医師を呼んで来ると言われたから、ここで待ってればいいのよね?」
ベッドに腰を下ろして、空中をぼーっと見つめる。
ほどなくして、部屋のドアが勢いよく開いた。
四十歳くらいの女性と、さっき部屋を出て行った女性が息を切らしながら入ってくる。
「リフィア!目が覚めてよかったわ!」
四十歳くらいの女性が涙を流しながら言うと、彼女を優しく抱きしめた。
その人は、ふわっと優しい甘い香りをまとっている。
リフィアと呼ばれた少女は、初めて嗅ぐ香りなのに、その香りがなんだか懐かしい。
「あ、あの」
「なあに?私の可愛いリフィア。お母様になんでも言ってごらんなさい」
母親だという女性は、抱きしめていた腕を緩めてリフィアを見つめる。
その顔からは喜びと期待が滲んでいるが、期待を裏切る言葉しか出てこない。
「私はリフィアという名前なのですか?」
「あなたは私のお母様なのですか?」
「ここはどこですか?」
「私はなぜ怪我をしているのですか?」
「アニメとはなんですか?」
「喉がカラカラなので、お水もらえますか?」
リフィアは少し掠れる声で質問攻めをした。
目の前の二人の女性は目を点にして、固まってしまった。
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