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第3章 同盟

ジルの動向

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  赤髪のジルとして傭兵の中でアタシが名を知られるようになったのはそう時間はかからなかった。
 元のアタシはある王国の貴族でそれなりの爵位や権力を持っていた。
 だけど、当時の戦争でアタシのいた国は亡び、爵位も権威も失った。
 当時のアタシは身売りされそうになったのを使用人の手で逃してもらい、武力に長けたアタシが目指した先は傭兵だったのだ。
 傭兵として活動したアタシはとにかく金や自分の素性から離そうと最初に選んだのは幸運なことにアタシの一族を滅亡に追い込んだ王国だった。
 そのあとのアタシはその国を裏側で操って滅亡に追い込んで結果として有名な赤髪のジルとして誕生した。
 その後の重ねる仕事はすべて順風満帆にこなせていたはずだった。
 大きな仕事が舞い込んで幸運がまた来たと思った。

「へへっ、勇者なんてアタシにとっては赤子も同然だ」

 その時のアタシは部下を集めてそんな調子の良いことを言ってたが現実は甘くない。
 勇者の力量や素質を見誤ったアタシの前に立っていたアイツ。
 こともあろうにアタシは敵を前にしたら情け無用な性格だが、アイツは真逆でそれどころか情けをかけた。
 同時にまるで二度目の挑戦も受けて立つという気合も見せた。
 それにアタシは魅了されたのだ。
 単純な女だって自分でもわかってんだ。
 でも、あの男のためならなんだってしようと心に決めたのだ。
 だからこそ、今はその命令を着実にこなす。
 路地裏の陰に身を潜めなら斜め前方で川沿いの小舟に乗った男に何かを手渡す女の姿。
 男は船を動かして下っていった。その先は広大な海が広がっている。その先の大地へと向かうのであろう。

(おそかったか?)

 苦悩しながら足先を少し動かすと衣擦れの音が出てしまう。

「ソコにいるんは誰や!」

 顔をゆがませながらアタシは堂々とその身を影から出した。
 女と対面する。
 アタシに負けず劣らずの美貌。
 東の国のもんか、黒髪と『顔の模様まんだら』とか呼ばれるのを化粧した女だった。
 戦闘能力はそこそこ高そうに見える。

(1対1では分が悪いなぁ。まぁ、最初から戦う気はないが)

 アタシは慎重に言葉を選ぶ。

「すまねぇなぁ。立ち聞きするつもりはなかったんだ」
「あんさん、さっき店におった傭兵やね」
「っ!? ははっ、驚いたぜ。どうしてアタシが冒険者じゃなく傭兵ってわかったんだ? さっきのいた場所はギルドだってぇのによぉ」
「身のこなしや言葉遣いでよぉーわかるわぁ」

 即座に素性を見抜いた観察眼にこの女のスキル性の高さが出ている。

「あんさん、さっきの話を聞いてしもうたら傭兵であってもただでは帰さへんで」
「いや、待ってくれよ。アタシ実は赤髪のジルっていうんだ」
「赤髪のジル? ……まちぃ、その名前は確か聞き覚えあるで。この国につかまった傭兵で魔王の手下の……」
「そう、アタシはアンタの仲間ってわけさ」
「仲間? 捕まって裏切者になっただけやないんか?」
「違う違う! アタシにも理由があるんだ」

 相手を信じ込ませるにはまず本当の情報を見せる必要もあるといっていた勇者の言葉を信用し、自らの首周りに浮いている隷属魔法の刻印を見せた。

「なんや、やっぱ裏切り者やないか」
「違う! アタシはこの魔法に隷属して見せてるがそんなのは懲り懲りなんだ! だから、少しでも一矢を報いるために勇者の情報とこの国の情報を提供するために来たんだ!」
「なんやて?」
「話を聞く気になったか?」
「にわかには信じがたいなぁ。そもそもその情報ってなんや?」
「勇者の持つ知識と他国の勇者について」
「なんやて?」

 ここからアタシの腕の見せ所だった。
 勇者のためにアタシは彼女をだます策略を始めた。
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