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第3章 同盟

ギルド作戦 前編

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  昨日の騒動で一波乱があったけれども、明朝の俺は何事もなかったかのようにジルを引き連れて街中を歩いていた。
 
「今日は何も起こすなよ」
「だぁからぁ、言ってんだろう。アタシは何もしてねぇってな。それよか、この二人まで外に出す許可をよくおろしたなぁ」

 ジルが示す背後にフードを目部下にかぶった二人組の女がいた。
 
「この後の作戦には欠かせないからな。数は何よりも大事なことになる」
「何をしようがアタシはアンタの奴隷さ。おもちゃのように扱われるだけでゾクゾクすんぜ」
「……それより、ここでいいんだな?」

 俺は街中にある大きな建物に来ていた。
 そこの建物の看板は頭上高くに掲げているが『ギルド』と書いてあるのが見えた。

「ああ、ここさ。それでアタシらはどうするってんだ?」

 建物前で待ってると頭上から箒に二人乗りした女性が降り立ってきた。
 
「おまたせしました。ギルド長に話は通し済みです。裏手には雪菜様とあなたがご用意したものを置いてあります」
「わざわざありがとうございますノエラさん。あとはコイツラと一緒に中で待っていてもらっていいでしょうか?」
「わかりました」

 ノエラさんが中に入っていく。

「さあて、今から俺とお前らは今だけ赤の他人になってもらう」
「は? どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。ルーザ、ローズ。お前らを出したのはこの作戦を決行するためだ。話をしていた通り傭兵たちに話を出回してはいるんだよな?」
「てめぇに命令された通りに牢獄にいる間にもテレシスでどうにか伝えてるさ」
「よくやった」
「なぁにがよくやっただ。てめぇの命令に逆らえぬように隷属魔法を施しやがって」
「お前らを完全に信用したわけではないんだから当たり前の処置だ」
「はん。もし、例の話はウソだったら承知しねぇぞ」
「嘘は言わない。思いのほか気分良くなれるさ」
「あの、早いところ来てください」

 ノエラさんがしびれを切らしたように声をかけてくる。
 本作戦のためにわざわざ牢屋から出した二人の傭兵をギルド内にノエラさんと共に侵入させる。
 最後に残ったのは俺とジル。

「今の話どういう意味だ? 何をするってんだ?」
「そうだな。ジルはこの街中にいる魔王と繋がりある傭兵を少なからず知っている。そうだな?」
「なんだよ突然に……。まぁ、知ってんぜ」
「そこでだ。今からある物を俺はこの場所で支給して冒険者と傭兵をそのブツで魅了させていく。その際に魔王の配下となる傭兵はその事実を伝えるために動くはずだ」
「あー、なるほど読めたぜ。その傭兵をアタシに潰せっていうのかい」
「いいや、違う。潰すんじゃない。情報をかく乱する役割をお願いしたい」
「あ?」
「その傭兵を追跡して、偽の情報を伝えるんだ。『アタシは勇者の仲間になった振りをして出てきた。今はこの未知の事業の裏の情報があると』」
「へぇー、そんな言葉だけでうまくいくのかい?」
「うまくはいかない。だから続けてこういうんだ『他の勇者も他国でこの事業を起こす計画にあるぞ』ってな。それとこれを魔王の傘下とあった時に読むんだ」
「それは良いけど、その事が今後なぁになるってんだ?」
「魔王の情報の入手と時間を稼ぐ」
「なんだぞれ?」
「まだ雪菜さんのライブ事業をするためには膨大な時間が必要なんだ!」
「そんな力説されてもアタシには何のことかさっぱりだぜ」
「とにかくだ。お前は今から中でそのブツについては何も知らなかった振る舞いをしろ」
「つまりはスパイ活動みたいなもんか」
「ああ。あと有効ならそのまま魔王の傘下の傭兵に暫く貼りつくんだ」
「んだよ。そのままアタシが音信不通になるかもしれねぇぜ」
「魔法の効果はだいぶ知っている。もしも、そうなったら容赦なく殺す」
「アハハハッ、いいぜ。ぞくぞくする」

 そう言いながら彼女は手を振ってギルド内に入っていった。

「本当にわかってんのか。とりあえずは大丈夫か」

 突然として影が差して頭上を見上げれば雪菜さんが箒に乗って降りてきていた。

「魔法扱えるようになったのか?」
「この世界の私の能力ってところなのかわからないけどそうみたい」
「やっぱりさすがとしかいえないな」
「それより、いつ始めるの? 来るの遅いけど」
「あ、今から行くところでした。すみません」
「敬語」
「すみ――すまない」

 彼女が箒に跨って後ろを示す。

「え」
「乗って。運ぶから」
「で、でも」
「関係者入り口は上からしかないの」

 ドギマギとしながら彼女を後ろから抱きしめ、俺はそのまま運んでもらった。
 これから始めようとしている作戦なんか忘れてしまいそうなほどに今はこの幸福のひと時を味わいたいと考えていた。
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