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第3章 同盟
鍛冶屋の職人への願い事
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闇ギルド跡地であの災害の一件から変わらずに行われてる夜の配給作業。
今日は騎士たちだけで配給は行われ、雪菜さんが野外の夜間公演を行い、会場に笑顔を届けていた。
俺はその光景を遠目から窺っていた。
「ここからなら、会場を一望できそうだな」
「あ、あの……勇者様?」
「ああ、すみません。急に押し掛けるような形になってしまって」
「いえ、それはかまわないのですが一体全体これは何に使う予定でしょうか?」
俺がいるのはジルとの戦いの時に雪菜さんが訪問して、歌を歌う場所に利用した鍛冶屋だった。
そこには多くの鉄を用いた道具が作られてる。
その中に俺は『ある道具に近い道具』があるのじゃないかと考えて訪問していた。
その目的のブツは見つけたが店主は困惑した眼差しでジッと俺を見ている。
「歌を彼女が歌うための演出に使うんだよ」
「えんしゅつ? なんですかソレ?」
「まぁ、それは今日のライブでわかるんだけど、その前に店主に色々とお願い事をしてもいいだろうか?」
「勇者様の頼みであれば全然引き受けますがなんでしょうか?」
「まずはコイツ」
俺は一本のペンライトを取り出した。
「これは勇者様が使う武器ではありませんか!」
「あはは、まあ武器じゃないんだけど……。コイツを量産してくれないか?」
「え……」
店主が一瞬にして硬直した。
顔を青ざめて首を全力で振った。
「無理無理無理無理、無理です! このような神に選ばれた道具など一回の鍛冶職人である私に作れることなどありません!」
「そこを何とかお願いできませんか! 無茶を承知でお願いしたいんです」
「ですが……構造もわからないですし」
「なんなら、このペンライト分解してもいいからさ」
「何を言うんですか! そんな罰当たりな行いできません!」
逆に俺が怒られてしまった。
よほど怖いのか彼はおびえた表情でいる。
「無理か……。それなら、この器具をこのような形に変えることは可能ですか?」
「えっと……どういうことでしょうか?」
「コイツ見た目はこんなだけど、実際光るんだよ。コイツは光るペンのようなものなんだ」
「光るペンですか?」
ここの世界にもペンという物体は存在しているのはこの目で視認している。
契約書を書いていた王女の手元を見た時に認知している。
「そう。手元サイズでなるべく光るのがわかる感じがいいんだ? お願いしてもいいだろうか?」
「………どのように扱うかは存じませんが何とか頑張ってみましょう」
「それと、おおーい! ジル!」
俺は外で待機していた奴隷のジルを呼び出した。
鍛冶屋の中へと入ってくるジルは多くの道具の合間を縫って近づいてくる。
道具の間を通り抜けるが実に億劫そうな顔をしている。
「おい、勇者ぁ、アタシを呼びつけたってことは何かやるってのかぁ?」
「ああ。ジル今日は奴隷としてお前に初の仕事を与える」
「あはっ! なんだ? アタシへひどい仕打ちか!」
「その喜び方が逆に怖いが……ひどいことはしねぇよ」
「なぁんだよ、なら、何をさせるんだ?」
「そこまでがっかりするのが逆にひくわ。ゴホン、コイツを夜に扱ってほしい」
「あ? コイツを? これをどう使うんだ?」
「あとでそのことについては説明書を渡す。それの通りにやってくれればいい」
「そんなものでわかるってのか?」
「単純な作業だ。もしも失敗してもフォローの仕方は用意してるから問題ない」
俺は鍛冶屋の店主に向き直ってジルの肩に手を置いて宣告する。
「明日の夜にコイツがこの道具を使うためにそこのベランダをお借りしますがいいでしょうか? 店主」
「あ、あの勇者様一つお尋ねしますがその方はもしや傭兵ではないですか?」
「ああ」
「でしたら、申し訳ないですが傭兵を簡単に家へ入れることなどできません。いくら勇者様の頼みといえども……」
「ならば、こういうのはどうでしょうか?」
俺はジルの額へと手を触れる。
「この店主に危害を加えること一切として許さず、店主の命令を厳守とする。これは命令だ」
ジルの身体中に刺青のような魔術の紋様が浮かび上がる。
ジルは苦しみに喘ぎ、その場に膝をついた。
「おい、勇者ぁ! コイツはどういうことだぁ!」
「どうもこうもない。命令権の追加だよ」
「勇者ぁ、アンタ……従属魔法をたやすく扱えて来るようになってきてんじゃねぇかぁ。ああ、ぞくぞくするなぁ」
ジルに行使した命令は彼女には興奮度をあげるだけにしかすぎなかった。
俺がこの命令を行使した意図は店主の反応を覆すことにある。
「今のは一体……」
「店主、コイツは傭兵です。でも、今は私の奴隷です。今のは従属魔法の証です。命令を追加に行使しました。これで店主の命令もコイツは従います」
「っ!」
「あなたがコイツを憎んでるなら死ねと命じたりすることも可能です。それで、私の頼みごとを聞いてくれませんか?」
「あなたという方はなんとも横暴でありますね……。わかりました。勇者様を信用しましょう。しかし、本当に私が命令をしてそれが可能なのか試してみてもよろしいですかな?」
店主はジルへと近づく。
「ハッ、アタシを辱めるなり殺すなりするといいさ。アタシは屈しねぇぞ」
「傭兵であることをやめなさい」
「あっ!? アンタ何を言ってやがるんだ! そんなこと……ぐぁああああああ!」
彼女の身体に電撃が走る。
それは命令を無視したことによる魔術的罰則。
彼女は苦痛に顔をゆがめながら、鍛冶職人を睨んでいた。
「あなた、見るからに若い……。それなのにそのような粗暴な仕事について何も思わないのかい? 変える意味でまずは私の命令を聞くのだ」
ジルは屈したかのように服を脱ぎ捨てた。
上半身が露出して素っ裸になるジル。
「おい、何し――」
俺が口を挟もうとしたときに気付いた。
ジルの胸元に何かの烙印のようなものが押されている。
「そうか、それが君の傭兵の印ですか」
店主は分かったかのような表情をしているが全く俺には何が何やらわからない。
ジルは悔しそうにその烙印に手を添えて――
「―――・――――」
どこかの言葉とも知れない詠唱のようなものをつぶやいた。
烙印は消失すると同時にジルがその場で気を失ったかのように眠り落ちた。
「おい、店主、あんた何をしたんだ?」
「勇者様、あなたも簡単に人に奴隷の命令権をお譲りするものではない」
「いや、何をしたか聞いてるんですよ!」
「彼女の傭兵の資格をはく奪したのです。ですから、彼女は力を失ったただの少女に戻りました。これで私は安心してこの場に彼女を招き入れます」
「剥奪って……」
困惑した俺を他所に鍛冶屋の戸にノックの音が響いた。
「お父さん、帰りが遅いけどどうかしたの? ……って、お客さん?」
「ああ、ゆかり。申し訳ない。今から帰るよ。勇者様今日はこれでお引き取り願えますか? もう遅いので」
もう、外は真っ暗闇に包まれていた。
あっという間に暗闇に落ちる時間なのもわからないではないくらい今日の一日はハードであったかもしれない。
俺は困惑したままにジルをかつぎあげ、その店を出ていった。
「傭兵のことについて俺は知らないことがあるのかもしれねぇな」
俺はそう思いながら王城へと足を延ばしに歩みだした。
今日は騎士たちだけで配給は行われ、雪菜さんが野外の夜間公演を行い、会場に笑顔を届けていた。
俺はその光景を遠目から窺っていた。
「ここからなら、会場を一望できそうだな」
「あ、あの……勇者様?」
「ああ、すみません。急に押し掛けるような形になってしまって」
「いえ、それはかまわないのですが一体全体これは何に使う予定でしょうか?」
俺がいるのはジルとの戦いの時に雪菜さんが訪問して、歌を歌う場所に利用した鍛冶屋だった。
そこには多くの鉄を用いた道具が作られてる。
その中に俺は『ある道具に近い道具』があるのじゃないかと考えて訪問していた。
その目的のブツは見つけたが店主は困惑した眼差しでジッと俺を見ている。
「歌を彼女が歌うための演出に使うんだよ」
「えんしゅつ? なんですかソレ?」
「まぁ、それは今日のライブでわかるんだけど、その前に店主に色々とお願い事をしてもいいだろうか?」
「勇者様の頼みであれば全然引き受けますがなんでしょうか?」
「まずはコイツ」
俺は一本のペンライトを取り出した。
「これは勇者様が使う武器ではありませんか!」
「あはは、まあ武器じゃないんだけど……。コイツを量産してくれないか?」
「え……」
店主が一瞬にして硬直した。
顔を青ざめて首を全力で振った。
「無理無理無理無理、無理です! このような神に選ばれた道具など一回の鍛冶職人である私に作れることなどありません!」
「そこを何とかお願いできませんか! 無茶を承知でお願いしたいんです」
「ですが……構造もわからないですし」
「なんなら、このペンライト分解してもいいからさ」
「何を言うんですか! そんな罰当たりな行いできません!」
逆に俺が怒られてしまった。
よほど怖いのか彼はおびえた表情でいる。
「無理か……。それなら、この器具をこのような形に変えることは可能ですか?」
「えっと……どういうことでしょうか?」
「コイツ見た目はこんなだけど、実際光るんだよ。コイツは光るペンのようなものなんだ」
「光るペンですか?」
ここの世界にもペンという物体は存在しているのはこの目で視認している。
契約書を書いていた王女の手元を見た時に認知している。
「そう。手元サイズでなるべく光るのがわかる感じがいいんだ? お願いしてもいいだろうか?」
「………どのように扱うかは存じませんが何とか頑張ってみましょう」
「それと、おおーい! ジル!」
俺は外で待機していた奴隷のジルを呼び出した。
鍛冶屋の中へと入ってくるジルは多くの道具の合間を縫って近づいてくる。
道具の間を通り抜けるが実に億劫そうな顔をしている。
「おい、勇者ぁ、アタシを呼びつけたってことは何かやるってのかぁ?」
「ああ。ジル今日は奴隷としてお前に初の仕事を与える」
「あはっ! なんだ? アタシへひどい仕打ちか!」
「その喜び方が逆に怖いが……ひどいことはしねぇよ」
「なぁんだよ、なら、何をさせるんだ?」
「そこまでがっかりするのが逆にひくわ。ゴホン、コイツを夜に扱ってほしい」
「あ? コイツを? これをどう使うんだ?」
「あとでそのことについては説明書を渡す。それの通りにやってくれればいい」
「そんなものでわかるってのか?」
「単純な作業だ。もしも失敗してもフォローの仕方は用意してるから問題ない」
俺は鍛冶屋の店主に向き直ってジルの肩に手を置いて宣告する。
「明日の夜にコイツがこの道具を使うためにそこのベランダをお借りしますがいいでしょうか? 店主」
「あ、あの勇者様一つお尋ねしますがその方はもしや傭兵ではないですか?」
「ああ」
「でしたら、申し訳ないですが傭兵を簡単に家へ入れることなどできません。いくら勇者様の頼みといえども……」
「ならば、こういうのはどうでしょうか?」
俺はジルの額へと手を触れる。
「この店主に危害を加えること一切として許さず、店主の命令を厳守とする。これは命令だ」
ジルの身体中に刺青のような魔術の紋様が浮かび上がる。
ジルは苦しみに喘ぎ、その場に膝をついた。
「おい、勇者ぁ! コイツはどういうことだぁ!」
「どうもこうもない。命令権の追加だよ」
「勇者ぁ、アンタ……従属魔法をたやすく扱えて来るようになってきてんじゃねぇかぁ。ああ、ぞくぞくするなぁ」
ジルに行使した命令は彼女には興奮度をあげるだけにしかすぎなかった。
俺がこの命令を行使した意図は店主の反応を覆すことにある。
「今のは一体……」
「店主、コイツは傭兵です。でも、今は私の奴隷です。今のは従属魔法の証です。命令を追加に行使しました。これで店主の命令もコイツは従います」
「っ!」
「あなたがコイツを憎んでるなら死ねと命じたりすることも可能です。それで、私の頼みごとを聞いてくれませんか?」
「あなたという方はなんとも横暴でありますね……。わかりました。勇者様を信用しましょう。しかし、本当に私が命令をしてそれが可能なのか試してみてもよろしいですかな?」
店主はジルへと近づく。
「ハッ、アタシを辱めるなり殺すなりするといいさ。アタシは屈しねぇぞ」
「傭兵であることをやめなさい」
「あっ!? アンタ何を言ってやがるんだ! そんなこと……ぐぁああああああ!」
彼女の身体に電撃が走る。
それは命令を無視したことによる魔術的罰則。
彼女は苦痛に顔をゆがめながら、鍛冶職人を睨んでいた。
「あなた、見るからに若い……。それなのにそのような粗暴な仕事について何も思わないのかい? 変える意味でまずは私の命令を聞くのだ」
ジルは屈したかのように服を脱ぎ捨てた。
上半身が露出して素っ裸になるジル。
「おい、何し――」
俺が口を挟もうとしたときに気付いた。
ジルの胸元に何かの烙印のようなものが押されている。
「そうか、それが君の傭兵の印ですか」
店主は分かったかのような表情をしているが全く俺には何が何やらわからない。
ジルは悔しそうにその烙印に手を添えて――
「―――・――――」
どこかの言葉とも知れない詠唱のようなものをつぶやいた。
烙印は消失すると同時にジルがその場で気を失ったかのように眠り落ちた。
「おい、店主、あんた何をしたんだ?」
「勇者様、あなたも簡単に人に奴隷の命令権をお譲りするものではない」
「いや、何をしたか聞いてるんですよ!」
「彼女の傭兵の資格をはく奪したのです。ですから、彼女は力を失ったただの少女に戻りました。これで私は安心してこの場に彼女を招き入れます」
「剥奪って……」
困惑した俺を他所に鍛冶屋の戸にノックの音が響いた。
「お父さん、帰りが遅いけどどうかしたの? ……って、お客さん?」
「ああ、ゆかり。申し訳ない。今から帰るよ。勇者様今日はこれでお引き取り願えますか? もう遅いので」
もう、外は真っ暗闇に包まれていた。
あっという間に暗闇に落ちる時間なのもわからないではないくらい今日の一日はハードであったかもしれない。
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