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第2章 最初の開拓

種村雪菜の心を動かすもの / 同盟国交渉案 中編

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  彼が部屋を出ていった後の私は悲痛な心に沈み、強く拳を握って奮い立たせようとしたが――

「やっぱり無理」

 何度も何度も繰り返す気持ちの動き。
 一大決心に動くには足りなかった。
 彼の前向きな姿勢は尊敬すら抱く。
 でも、私は彼ではなく彼にはなれないと痛感する。
 いくら彼の憧れたあのアイドル声優の種村雪菜であったとしても今の私にそれを演じることはできない。

「情けない……」

 涙があふれて手の甲に零れ落ちた。
 その雫を見て、弱い自分をしっかりと自覚する。

「彼の憧れた声優なんかココにいない……」

 その言葉を彼が聞けばがっかりするのだろうかと考えてしまう。
 哀れに思うのか。
 呆れて自分を見捨てるか。
 次第に思った。

「あはは、私ってばおかしい。ずっと男性が嫌いだったはずなのにこの世界に来てから平気で男性と接することができてる。それに彼のことばかり……」

 同じ境遇の相手だから依存しているなんてことも考えられる。
 でも、それとは全く別の何かを感じてもいる。
 あの戦火の中でも彼は喧嘩一つさえしたことなさそうな人だったのに戦火で珍妙な動きで私を守ったのは今でも記憶に刻まれている。
 私に対して向ける一つ一つの気持ちを私は確かに受けてはいた。
 決して受け入れるなんてことはできないけど、その気持ちはどこか心地よいものを痛感している。

「ああ、だからなのか……。私は彼を信頼してるんだ」

 彼の意思や行動は他人を実感もって安心させる。
 あれは彼の人柄の本質というやつなのか。
 先ほど部屋に招き入れたように安心感はあったのだ。

「異世界で来てようやく接する男性ができたなんてばかばかしいじゃない」

 笑いが込み上げた。
 
「本当にあきれる」

 そんな弱くて他人の安心感で心が揺れるような私がどうして勇者として選ばれて召喚されたのかもわからない。
 その言葉を動かすものが先ほどの彼の言葉で反芻した。

「無視か……」

 自分のやりたいことを貫き通すという言葉を自身で言ったことなどとうに忘れてはいた。
 だけれども、その言葉で動いて今まで頑張っていた一人の男がいたのもたしか。
 もしかしたら、本当の勇者は彼で私はおまけだったのではないかと思う。

「彼の想い人だから付き合わされただけの可能性のほうがまだ……」

 そんな言葉が自然と口から出ていてハッと口元を抑えた。

「私何を言おうと……」

 むしゃくしゃし頭皮を掻き、一呼吸つく。

「ああ、もう。なんだかめちゃくちゃじゃない。さっきまで重い考えたことがだんだん馬鹿らしく思えてるじゃない。全部全部彼の生よ! そう……彼の……」

 と考えた時に気付いた。
 私は彼の――

「彼の名前知らない……アハッ、ハハハハハッ」

 思わず笑いが込み上げて腹を抱えて爆笑してしまう。
 この異世界へ来て数日経過して知らない。
 『霧山』という名字は知らされていたというよりも彼のもつペンライトケースには名前が入っている。
 霧山という。
 最初はペンライトケースにそういう種類の奴なのかと思ったが明らかに違うのは分かったのだ。
 そのペンライトケースは私の活躍する作品のイベントで販売された物品。
 つまり、後に彼が自身のロゴの名前を入れたと推理で思ったのだ。

「まったく馬鹿よ。本当にあの彼も馬鹿」

 次第に立つ気力と動く意思が湧いた。

「何もかも納得はできない。でも、私は彼の力にならなって、彼の動く理想を手助けする」

 それならできる自分がいる。
 そう思えた。
 
「だったら、早いところ名前を聞きに行きましょうか」

 私はようやく部屋を出ていった。

********


 王座の間の部屋の前で立ち止まる私。
 中から声が聞こえた。
 彼の声と王女の声だった。
 ゆっくりと開きわずかな隙間から中に入った。
 中では論争が繰り広げられているのか私が中に入ったのを誰も気づいていない様子である。

「――他国へ――へ行くっ!?」

 私の耳にそんな王女の言葉が聞こえた。

(え、どうゆうこと?)

 途中聞き取れなかった個所を踏まえても周囲があまりよろしいように受け取ってない印象が見受けられた。
 それどころか殺気立っていた。

(彼がこの国を出ていくの? 嫌。そんなの……)

 彼は真摯な眼差しで言葉をつづけた。


「そうするしか道はないんですよ。あなた方は確かにその行いに恐怖をしているのかもしれない。だけど、方法として戦争をしないために国を平和にするためにもコレしかない」
「いくら我が国へと一人の勇者が残りますとはいえ許容できませんわ」
「これが魔王へと勝てる手段だとしてもか?」
「それはまことに?」

 話がこのままでは決まってしまう。
 私は焦りの感情が芽生える。
 彼が近くからいなくなることに恐怖があふれだした。

(まだ名前も聞いていないのに! このままじゃあ彼がいなくなる)

 王女が決定を告げようとでも口を開きかけた瞬間私は大声をあげた。

「そんなのダメ!!」

 全員の視線が私へと一斉に向けられた。
 その中で一番驚いていたのが彼だった。

「た、種崎さん!? どうしてここに?」

 彼の同様の視線が私を捕えていた。
 私は彼へと近づいて襟首をつかんだ。

「どうして、どうして私を置いていくの! この国で文化を一緒に広めるんじゃなかったの!」
「え、え?」
「私がもうだめだと思ったから他国へと移動して他国にすがるとでもいうの? あなたはそんな人だったんですか!」
「あ、あの……種崎さん? 何か勘違いを……」
「私はまだあなたの名前すら教えてもらってない……私だって本名さえ名乗ってない……お互い同じ境遇なのに互い任意も知りえてないままで私の前からいなくなるとか……そんなの……そんなの……」

 涙がこぼれて私は彼の襟首をつかむ力が抜けてうずくまり、嗚咽が止まらず泣いてしまう。

「すみません! 本当にすみません! 種崎さん、泣くことないですって! 何か勘違いしていますよ! 俺は国から出ていきますがすぐじゃないですよ!」
「え」

 私は顔を上げて、困惑する。

「すぐじゃない。というかすぐに出発したところで同盟交渉なんかできません。まずはこの国である程度ライブの浸透化を図らないとね」
「え……」

 その言葉を聞いて私は疑問を投げた。

「どういうことなのか説明をして」
「あはは、ですよね。王女殿下にも話の続きを今からします」

 彼は同盟交渉の続きを話した。
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