怪物の少女と心優しき青年

ryuu

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プロローグ

プロローグ4

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 次の日、ユイカは森の中の川岸で待っていた。
 自分でもどうしてこんなことをしているのかと笑いたくなるほどにばかばかしく思ってしまう。
 でも、彼の存在がユイカの中では大きく、ここで彼を待ち、彼のことを知りたいと望んでしまう。
 何時間も待っても彼が来る気配はなかった。
 そもそも、約束を交わしただけ。
 それも口約束でしかないし時間指定なんかもしていない。
「来るはずがない……か」
 あきらめきったとき、木ずれの音が聞こえた。
 近くの木陰に身を隠し、雑木林から出てくるものを待つ。
 足音が近づいてくる。
 ごくりと生唾を飲み込み、身構えた。
「やっと出てこれたぁ」
 それは昨日であった男の子だった。
 ユイカはゆっくりと木陰から身を踊りだした。
「あ、よかったぁ。いなかったらどうしようかと思ったんだ」
「……どうしてきたんだ?」
「え、約束しなかったけ?」
「………」
「ほら、遊ぼう! 僕いっぱい道具持ってきたんだ」
 そういって見せてきたのは虫かごと虫取り網だ。
 女であるユイカにはそれの楽しみ方はいまいちよくわからない。
 でも、彼が進めるからなんとなく付き合った。
 木々の中を歩き、いろんな昆虫を見つけて採取を行う。
 それから、川の浅瀬で遊んで堪能していく。
 久しぶりの充実した一日。
 日が沈み、空がオレンジ色へ。
 夕焼け空が射しこんできたときに、男の子の持っていた携帯が鳴った。
 もう、終わりなのだとわかった。
「ごめん、僕帰らなきゃ」
「ああ、そうか」
「また、明日遊ぼうよ。今度は君の家でさ」
「え? それは……」
 ユイカは返答に困った。
 家などない。
 なぜなら捨てられたユイカの家はあの養護施設だけ。
 だけど、ユイカはあの養護施設から逃げてきたんだ。
 家といえば今はこの森がそうであった。
 だが、それを伝えたら男の子の反応が想像ついた。
 ユイカの困っている表情を見て何かを察した様子で少年は――
「ごめん、家が無理ならまたここで遊ぼう。明日も来るからさ」
「また、明日も来てくれるのか?」
「もちろんだよ。って、そういえば名前!」
 おかしな話だ。
 二人とも名前も知らずに夕方までこうして満喫をしていた。
 二人して顔を見合わせると笑ってしまう。
「僕、天壌優人てんじょうゆうと
「私はユイカだ」
「よろしく、ユイカちゃん」
「ああ」
 握手を交わし、また会う約束を交わし、この日ユイカは少年と別れた。
 森林の中でまた一人ぼっちになった。
 孤独な少女。
『あの少年もおまえを裏切る』
『信用するのか?』
『殺さないと』
 頭の中に響く悪魔のささやきにユイカは頭を振って「やめろ!!」と訴え叫んだ。
 響く悪魔のささやきは落ち着き、ユイカは町のほうへ足を運んでいく。
 森林を抜けて大通り、そこから歩いて住宅街へ。
 一件の大きな民家を見る。
 賑やかな声が聞こえてくる。
 ユイカにはない家族という血のつながり。
 母親と父親。
 ユイカはゆっくりとその家へ近づいていった。
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