怪物の少女と心優しき青年

ryuu

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プロローグ

プロローグ2

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 ある日、外ではすごい雨が降っていた。
 ユイカは施設へ帰るのが嫌で施設から少し離れた森林の中で膝を抱え丸くなって座り込む。
 ぼうっとしながら今までの人生のことを考えた。
 私がいけなかったのだろうか。
 生まれてくる場所を間違えた。
 生まれてこなければよかった。
 最悪なことばかりが頭をよぎる。
 そのとき、犬の鳴き声が聞こえた。
 鳴き声のするほうへと歩いていくと森林の茂みの中に一つの箱を見つけた。
 箱の中には小さな泥まみれの子犬が一匹いた。
「お前も捨てられたのか」
「ワン」
 なんともかわいらしくその犬に同情心が湧いてくる。
 おもわず、その手を伸ばし子犬を抱き上げて抱きしめた。
「あったかいな、おまえ」
 ユイカにとって初めての友達といえる存在を見つけたのだった。



 ―――それからというもののユイカは例の子犬の元へ何度も自分の給食の残りをわけに森林のの中へ入っていくような生活を続けていた。
 そのたびにうれしそうに吠える子犬を見ていて心が安らいだ。
 施設の奴らとは全然違う。
 私のことを信用してなんも言わない。
 憐みの視線もしない。
 ユイカにとってあの場所は地獄でしかない。
「お前だけは私の傍にいてくれ」
「ワンッ」
「あはは、かわいいやつめ」
 ユイカは嬉しそうに子犬の世話を続けた。
 ある日になってユイカをいじめから救ってくれた少女にだけは子犬のことを話すことを許容しようと考えた。
 彼女はいろいろと自分を助けてくれている。
 信用してもいいだろう。
 彼女をユイカは呼び出して子犬を見せた。
 ユイカは彼女をもう一人の友として信頼し、子犬のことは内緒にしてくれるように懇願した。
「ええ、いいわよ」
「本当か?」
「うん。ふたりだけのひみつね」
 ユイカはうれしくなって笑みをこぼす。
 二人で犬の世話を約束してユイカは新しい人生の兆しを見つけた気がした。

 だけど、その明るい人生は長くは続かなかった。
 約束を交わし3日後、教室でユイカはまた例の少年たちに殴られるなどのいじめを受けていた。
 また、自分の普通とは違うこの容姿が気に入らないのだ。
「なんだよ、その目! きもいんだよ!」
「うぐっ!」
 挙句の果てに道具まで持ち出して殺す勢いで少女を殴っていく。
「俺知ってんだからな。おまえ先生たちにも気味悪がられてんだろ。さっさと、いなくなれよな」
「そうだそうだ」
「消えろー」
「うるさい!」
 一人を突き飛ばした。
 それは少年たちに怒りの火をつけた。
「ちっ、おい!」
 リーダー格の少年が呼びかけると下っ端の少年が廊下から教室へ入ってきて手に何かを掴み連れてきた。
 それは一匹の子犬だった。
 そう、ユイカが世話をし続けてきた友達。
「や、やめろ!」
「あはは、お前と一緒できっもちわりー」
 そういうと、子犬の腹をリーダー格の少年は蹴飛ばした。
 犬は教室内の壁に叩きつけられる。
 犬の悲鳴が耳朶をうち、ユイカは慌てて彼へ懇願した。
「やめてくれ! あいつはなんもわるくない!」
「うっせぇ!」
 ユイカを突き飛ばすとリーダー格の少年は下っ端に命じてユイカを取り押さえさせた。
 そうして、近くにあった花瓶を手にしてぐったりしている犬へ振り下ろす。
 物陰に隠れて見えない。
 ひたすらに少年の興奮しきった吐息が聞こえ、さらに犬の悲鳴が連続的に続く。
 やめろ、やめてくれ。
 すべてが終わったのか少年は血にまみれた花瓶を手にして少女のほうへ歩み寄る。
「アハハ」
 ユイカの中で何かがささやいた。
 『壊せ』
 『殺せ』
 『お前を貶めるやつは全員殺せ』
 いやだ、そんなことをしたくはない。
「ユイカちゃん!」
 そのとき、少女が唯一心を許したもう一人の友達が駆けつけてきた。
「おい、アユミ遅かったな。お前の言った通りの場所に確かに薄汚いのが一匹いたぞ」
「え」
 ユイカは少女をみた。
 少女は苦笑しながらこちらをみて謝る。
 約束したはずだ。
 二人だけの秘密だと。
「だからさ、おもわずやっちゃったよ」
「うそ……話が違うじゃない! ……ユイカちゃんごめんなさい。まさか……まさか……こんなことになるなんて」
 今更謝ってすむ話じゃない。
『みんな殺せ!』
 ユイカの中で何かがこと切れた。
 すべての偽りはもう嫌だ。
 ユイカの陰から黒い何かが飛び出し、ユイカを取り押さえていた少年を弾き飛ばした。
 少年の臓物と首が床を転がり血が飛び散って教室中を真っ赤に染め上げた。
 その光景を見てリーダー格の少年は硬直した。
「は?」
 ユイカの冷めた目つきは少年を捕えて――
「死ね」
 と口にした。
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