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第1章 監禁生活の始まり
加速する恐怖/食料調達1
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訪問者の死体を埋めてから何日が経っただろうか。
優人の精神もだいぶ疲労が困憊になって、彼女へ逆らうこと、逃げることをもう考えなくなってしまっていた。
彼女に従い続けていく、毎日。
それしか、生きる道はない。
なぜならば、自分もまた犯罪者になり下がったからだ。
目の前で容赦なく訪問者を蹴り殺した。
優人の体はもう汚れてしまっている。
ユイカと同じ殺人鬼である自分には居場所はない。
そう、彼女の隣という場所しかないのだ。
「優人」
やつれた顔をしながら、久しぶりにユイカが声を掛けてきた。
ここ数日、彼女もつかれていて口さえ聞いていなかったのに今日になってようやく口を開いた。
優人はソファに寄りかかる彼女のほうに歩いていく。
ダイニングテーブルに座っていた自分のところからさほど、リビングソファまで距離はない。
だけど、その途中で優人は身体がぐらつき倒れた。
力が出ない。
それも、そうだった。
ここ数日、水と塩しか二人は口にしていなかった。
この家の食料が底をついたのだ。
今の自分たちはまさに餓死寸前。
町へ買い出しに行けばいいことなのだろうけれども、自分たちの状況が状況なだけにそれは危険が伴った。
「優人……聞こえるか……優人」
「聞こえてるよユイカちゃん……」
「優人……外に出よう……」
「……え」
初めて彼女から外に出ることを進められて信じられずに顔を上げてみた。
ソファの陰で彼女の反応はうかがえないが嘘を言ってるような雰囲気ではない。
「このままここにいてもしょうがない……。食料も底をついた…限界だ」
「そうだね……街で買い物をしたほうがいいよね」
「……私は買い物という者をしたことがない……だから……優人にお願いしたいんだ……」
ユイカは長い間、一切経験がないとでも言うようにそういう。
そんなことが実際にあるのかと疑いたくなったが彼女のような存在が過去にどのような経験を重ねてきたのかはここ数日同居して想像できてしまった。
買い物の一つも経験をしたこともないというのもまた真実だろう。
「わかったよ……でも、お金がないと……」
「お金か……」
ようやく、ソファから起き上がるユイカの影が見えた。
彼女はリビングを出ていき、どこかの部屋に向かったようだった。
しばらくして、彼女は黒い袋のようなものを持ってくる。
重たそうに引きずって持ってきたそれを彼女はドサッと優人の前に置いた。
起き上がり、袋の中身を確認するとそこには大量の万札が入っていた。
「ユイカちゃんこれっ」
「ここの住人のものだ。もとより個々の住人は犯罪者だったようだといったのはこういうことだ」
そういえば、そのような話を彼女がしていたような記憶はある。
それがこの証明だったのだろう。
確かにこれだけの大金を普通な仕事で稼げるとは思えない。
ここの住人もまともな人じゃなかったのだろう。
「だからってこれを……」
正直つかうのは気が引けた。
使用した段階で誰かに怪しまれるようなリスクが起きぬとも思えない。
優人は二束だけ、手に持った。
「ユイカちゃん、とりあえずこれだけ持っておこう。あとはどこかに隠しておこうよ。そうだ、死体のそばにでもさ」
と、言いながら自分の発言に自らで寒気が走る。
何気ない口調で自分はとんでもないことを今平然と口走った。
他の金までくすねて自分のモノのようにしようとする強欲な思考ではないか。
「それはいい考えだな。優人はやはり頼りになる」
「え……あ……うん」
カノジョもまた優人の提案を鵜呑みにした。
優人は徐々に自分が壊れていっているのを自覚する。
もう、思考がすべて悪に染まりつつある。
「駄目だ……」
「え」
「お金は燃やそう」
「なに?」
ようやく、自制を奮い起こしてその袋を奪うがユイカがまた奪い取った。
そして、優人のことをあの恐ろしき赤い瞳で睨みつける。
「優人、お前は死にたいのか? 今更、罪悪感でも湧いたとは言わせないぞ」
「それは……」
「もとより私たちは一蓮托生の犯罪者だろう。それに、この金はもとより汚れた金だ。それを私たちのような小さな子供を生かす糧になるのならばいいことではないか」
「………」
その子供というのも悪に染まった子供に変わりはなく、『子供を生かす糧』という表現はいいけれども実際はそう悪い所業には変わらない。より汚れた結果でしか変わらないのだ。
「死体の傍に金は埋めてくる。優人は外へ出る準備をしておいてくれ。変装を忘れるな」
まるで、これからのお出かけを楽しみにするかのように彼女はウキウキと浮足立つようにスキップしながら死体が埋められている裏庭へ向かい、リビングからまたいなくなった。
リビングに残った優人は彼女に言われるままに変装をしようとこの家の中にある二階の寝室へ向かおうと思うが思考が止まった。
これ以上の罪を重ねていいのか。
「俺は……」
リビングを出て二階の階段で足を止めてから振り返るとそこにはいつの間にか戻ってきていたユイカが立っていた。
狂気の笑みを浮かべて彼女の手には血にまみれた手。
滴り落ちる血の水滴音が妙に静寂さを際立たせる。
おもわず、優人は喉を引きつらせた。
恐怖を感じていないというように演じるために彼女へ質問する。
「そ、その手どうしたの?」
「ん? なんでもないさ。さぁ、早く着替えていこうじゃないか」
それ以上彼女へ聞くことがためらわれた。
明らかに彼女の血ではない。
あの血は誰のものだろうか。
この彼女と一緒に本当に外へ出て買い物なんてできるのか。
不安を胸にしながら優人は彼女の後を続いていった。
ユイカが寝室の前で立ち止まる。
「ユイカちゃん……」
「優人は私を裏切らないでよね。私裏切ったら何をするかわからないからさ」
「っ」
一瞬の躊躇が一瞬で消え失せた。
もう、俺には彼女から逃げることはできない。
犯罪に手を重ね続けていこう。
「俺はユイカちゃんの味方だよ。早く買い物のいく支度しよう」
「うん」
その時に見せた彼女のあどけない笑顔は優人には背筋も凍る恐怖でしかなかった。
優人の精神もだいぶ疲労が困憊になって、彼女へ逆らうこと、逃げることをもう考えなくなってしまっていた。
彼女に従い続けていく、毎日。
それしか、生きる道はない。
なぜならば、自分もまた犯罪者になり下がったからだ。
目の前で容赦なく訪問者を蹴り殺した。
優人の体はもう汚れてしまっている。
ユイカと同じ殺人鬼である自分には居場所はない。
そう、彼女の隣という場所しかないのだ。
「優人」
やつれた顔をしながら、久しぶりにユイカが声を掛けてきた。
ここ数日、彼女もつかれていて口さえ聞いていなかったのに今日になってようやく口を開いた。
優人はソファに寄りかかる彼女のほうに歩いていく。
ダイニングテーブルに座っていた自分のところからさほど、リビングソファまで距離はない。
だけど、その途中で優人は身体がぐらつき倒れた。
力が出ない。
それも、そうだった。
ここ数日、水と塩しか二人は口にしていなかった。
この家の食料が底をついたのだ。
今の自分たちはまさに餓死寸前。
町へ買い出しに行けばいいことなのだろうけれども、自分たちの状況が状況なだけにそれは危険が伴った。
「優人……聞こえるか……優人」
「聞こえてるよユイカちゃん……」
「優人……外に出よう……」
「……え」
初めて彼女から外に出ることを進められて信じられずに顔を上げてみた。
ソファの陰で彼女の反応はうかがえないが嘘を言ってるような雰囲気ではない。
「このままここにいてもしょうがない……。食料も底をついた…限界だ」
「そうだね……街で買い物をしたほうがいいよね」
「……私は買い物という者をしたことがない……だから……優人にお願いしたいんだ……」
ユイカは長い間、一切経験がないとでも言うようにそういう。
そんなことが実際にあるのかと疑いたくなったが彼女のような存在が過去にどのような経験を重ねてきたのかはここ数日同居して想像できてしまった。
買い物の一つも経験をしたこともないというのもまた真実だろう。
「わかったよ……でも、お金がないと……」
「お金か……」
ようやく、ソファから起き上がるユイカの影が見えた。
彼女はリビングを出ていき、どこかの部屋に向かったようだった。
しばらくして、彼女は黒い袋のようなものを持ってくる。
重たそうに引きずって持ってきたそれを彼女はドサッと優人の前に置いた。
起き上がり、袋の中身を確認するとそこには大量の万札が入っていた。
「ユイカちゃんこれっ」
「ここの住人のものだ。もとより個々の住人は犯罪者だったようだといったのはこういうことだ」
そういえば、そのような話を彼女がしていたような記憶はある。
それがこの証明だったのだろう。
確かにこれだけの大金を普通な仕事で稼げるとは思えない。
ここの住人もまともな人じゃなかったのだろう。
「だからってこれを……」
正直つかうのは気が引けた。
使用した段階で誰かに怪しまれるようなリスクが起きぬとも思えない。
優人は二束だけ、手に持った。
「ユイカちゃん、とりあえずこれだけ持っておこう。あとはどこかに隠しておこうよ。そうだ、死体のそばにでもさ」
と、言いながら自分の発言に自らで寒気が走る。
何気ない口調で自分はとんでもないことを今平然と口走った。
他の金までくすねて自分のモノのようにしようとする強欲な思考ではないか。
「それはいい考えだな。優人はやはり頼りになる」
「え……あ……うん」
カノジョもまた優人の提案を鵜呑みにした。
優人は徐々に自分が壊れていっているのを自覚する。
もう、思考がすべて悪に染まりつつある。
「駄目だ……」
「え」
「お金は燃やそう」
「なに?」
ようやく、自制を奮い起こしてその袋を奪うがユイカがまた奪い取った。
そして、優人のことをあの恐ろしき赤い瞳で睨みつける。
「優人、お前は死にたいのか? 今更、罪悪感でも湧いたとは言わせないぞ」
「それは……」
「もとより私たちは一蓮托生の犯罪者だろう。それに、この金はもとより汚れた金だ。それを私たちのような小さな子供を生かす糧になるのならばいいことではないか」
「………」
その子供というのも悪に染まった子供に変わりはなく、『子供を生かす糧』という表現はいいけれども実際はそう悪い所業には変わらない。より汚れた結果でしか変わらないのだ。
「死体の傍に金は埋めてくる。優人は外へ出る準備をしておいてくれ。変装を忘れるな」
まるで、これからのお出かけを楽しみにするかのように彼女はウキウキと浮足立つようにスキップしながら死体が埋められている裏庭へ向かい、リビングからまたいなくなった。
リビングに残った優人は彼女に言われるままに変装をしようとこの家の中にある二階の寝室へ向かおうと思うが思考が止まった。
これ以上の罪を重ねていいのか。
「俺は……」
リビングを出て二階の階段で足を止めてから振り返るとそこにはいつの間にか戻ってきていたユイカが立っていた。
狂気の笑みを浮かべて彼女の手には血にまみれた手。
滴り落ちる血の水滴音が妙に静寂さを際立たせる。
おもわず、優人は喉を引きつらせた。
恐怖を感じていないというように演じるために彼女へ質問する。
「そ、その手どうしたの?」
「ん? なんでもないさ。さぁ、早く着替えていこうじゃないか」
それ以上彼女へ聞くことがためらわれた。
明らかに彼女の血ではない。
あの血は誰のものだろうか。
この彼女と一緒に本当に外へ出て買い物なんてできるのか。
不安を胸にしながら優人は彼女の後を続いていった。
ユイカが寝室の前で立ち止まる。
「ユイカちゃん……」
「優人は私を裏切らないでよね。私裏切ったら何をするかわからないからさ」
「っ」
一瞬の躊躇が一瞬で消え失せた。
もう、俺には彼女から逃げることはできない。
犯罪に手を重ね続けていこう。
「俺はユイカちゃんの味方だよ。早く買い物のいく支度しよう」
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