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第3章
亡国皇子の願い
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竜となった竜生が二人を乗せて辿り着いたストライフ山脈。
元々は鉱山であったこの山だが今ではその鉱山も戦争によって被害を被って鉱物も取れないほどになったらしい。今では放置された山と言う。
山頂からしばらく歩くとアカネが声を荒げる。
「とまってください!」
突然にアカネの甲高い声にびくりと全身を震わせて立ち止った。
そこで、気づいた前方に誰かがいる。
黒いローブに全身を包み込んだ奇妙な人物である。
ゆらりと体を揺らし徐々に近づいてくる。
「何者!」
その人物に全員が息をのんだ。
「な、なんで……殺したはずよ」
「お前!」
一斉に3人は武器を抜いて構えた。サッカリア帝国での戦争で生きていたのは亡国の狂人者だったとは驚く。首を撥ね飛ばし胴体を燃やしたはずなのに彼は生きていた。
「まぁまぁ、お待ちくださぁーいな。今は戦う気はないですぅーな。ワン殿下がお待ちですぅーね。どうぞ、こちらに」
ルイスは奥の方に出現させた黒の輪の誘導を促すように手を奥へ指し示す。
生唾を飲み込みながら竜生の反応を待つように二人がみた。
「行こう。たぶん、大丈夫だろう」
「でも、あの輪ってあいつが奇妙な怪物を出現させたものだったでしょ?」
「そうだが今はその用途じゃないみたいだ」
「なんでわかるのよ」
「怪物がいるようには見えるか?」
「みえないけど」
輪の奥にはただ薄暗い世界が続いてるだけ。何かの怪物の目や腕が見えることはない。
でも、何があるのか分からないのもまた事実である。
竜生は生唾を飲み込み決意をする。
「行きましょうアルピノア。私はリュウセイさんを信じます」
「わかったわ」
先陣をきって竜生がまず入りそのあとに手をつないだ
アルピノアとアカネさんが続いた。
そうして竜生らはそのルイスの誘導のもとに黒の輪への道を進んでいく。
******
案内されるままに通された場所は大きな居城の一室。
その中に案内されるとまず真っ先に肌身に感じるのは淀んだようなじめっとした風。まるで、空気が死んでるかのようなものだった。次に鼻孔をとんでもない異臭が突き抜けた。
顔を顰めて身を揺さぶって精一杯の拒否反応を示す。
竜生のそばでアルピノア、アカネの二人も同じように顔を顰めて異臭に嫌悪感をむき出しに鼻を押さえていた。
「何この臭い‥‥」
「腐敗臭です」
アカネが断言するように言った後、すっと奥を指差した。
そこには人骨の山とミイラ化した人の残骸が転がっていた。
古びた血が床を汚し、ミイラにはこの世界の蠅らしき生き物がたかっている。
見るも無残な死にざまをしたその死体の山を見て吐き気を催した。
鼻をつまみどうにか堪える。
「それで、あなたのボスはどこ?」
目の前で微動だにしていない案内人のルイスにアルピノアが部屋の空気などと言った嫌悪感を植え付けられる連続に怒りをぶつけるように声をきつくして言い放つ。
「ねぇ、ちょっと聞いてるの!」
返事がすぐ帰って来ないことに違和感を感じすっとその肩に手をやった。
すると、コテンと人形のようにその案内人の体は倒れた。
「え?」
倒れた拍子からそのローブの案内人の素顔が初めてそこでお目見えになった。
人骨の山と同じ骸骨の素顔がそこにはありアルピノアも思わず声を上ずらせた。
「ど、どういうつもりよ! ルイスどこに行ったの!」
さすがは彼女だった。
すぐに持ち直して気張った態度を見せてルイスを呼び付けた。
しかし、反応なくただ人骨の山とミイラ化した死体のある墓場とも言うべき部屋に取り残されたかのような空気になる。
アカネが出入り口の扉を手にかけ出てみようと試みた。
「開かないぞ!」
「うそでしょ‥‥」
アルピノアが必死で扉に手をやって引いてみるも微動にもしなかった。
竜生も同じく試したが反応は同じである。
まるで外からカギでも掛けられてるようだが、扉は中からしか施錠できない作りの扉なのにどうなってるのだろうか。
「私たちと最初から話し合う気はないってわけね」
「やはり、ついてくべきじゃなかったです」
アカネが悔いるように目を伏せった。
悔いる気持ちもあるがアルピノアは諦めた表情をしない。扉に手を当て未だに脱出の策を考えてる。
「この扉からの脱出は困難みたいね。でも、これならどうにかできる」
口から清廉な言葉で魔法の詠唱が紡がれていく。
そうすると、部屋の空気が変化をもたらした。淀んでいたような状態だったのが徐々に涼んだように浄化されてく空気へ。しばらくすると、あたりに転がっていた死体はその澄み切った空気の風にあおられて砂となる。
そのまま砂塵を巻き込んだ風が扉を乱暴に叩きぶち明けた。
「すごい、今のは明らかな上位魔法ですよね?」
「まぁ、そうなのかしらね、私はただ聞こえる声の通りに行うだけだからわからないわ」
アルピノアは自分が使用した魔法にもかかわらずいまいち理解していないかのような受け答えをする。それもそうなのか。
彼女は頭の中に響く声を頼りに魔法を使うという。
今回のもまたその要因で行われたということだろう。
扉が乱雑に開いた先にしかし、今まで通ってきた道は存在せずかわりにあったのはまた大広間の部屋。
そこは元は城の王室だったかのように上品な空間とおんぼろになった椅子に装飾などが施されていた。壊れた王室の玉座に一人の男が座っていた。
今まで出会ってきた動物的容姿ではなく普通の人間の容姿をもち、そしてアジア系の人物特有の顔立ちをしながらも細い目が特徴的でありモデルのような容姿をしているイケメン。体はさほど大きくもないので本当にテレビに出るようなモデル男。
この人物が亡国の王なのかと目を疑いたくなる光景だった。
「亡国の王ですね? 王女はどこにいるのですか!」
アカネは即座に自己判断で相手が王女を連れ出した人物たる確証をもち問いただしていた。
「諸君、ようこそ吾が城へ。ふっ」
歓迎するように大手を振るい手招きするような仕草でバンギッシュ皇国の皇子は答える。
「答えろよ。姫様はどこだ? お前が拉致ってんだよな?」
「そう、焦ることはないぞ、同胞よ、ふっ」
「だれが同胞だ、くそ野郎! こっちの命を何度も危険にさらしやがった奴を同胞なんて思わない。てめぇを消して平和をこっちは手に入れに来たんだ」
「平和? ふっ。この世界で平和を望むとは無謀なことよ」
「なに?」
皇子は玉座が立ち上がり、ゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。その優雅な姿に妙な威圧感を感じておもわず身構えた。
「知ってるかな? 吾にとってこのバンギッシュ皇国は自分がこの世界に居座るための肩書と居住が必要だったからにすぎない要因だったということを、ふっ、そう君たちのようにさ」
流暢に説明してわかったそぶりでドヤ顔で笑う。
「な、何が言いたいわけ」
アルピノアは問いただすもわかっていた。彼の次の言葉が何を言うのか。竜生もまたその言葉の答えがわかる。わかるからこそ、恐怖感が背筋を伝い彼から早く逃げろと警告してるように痛感してる。
「吾も君たちと同じ転生者だということだ、ふっ」
「「っ!」」
アルピノア同様に声にならない声が動揺として出てしまう。
激しくアルピノアは狼狽しながら「あなた何者?」と再度問い詰めた。
「数十年前に吾も神とかいうふざけた奴にこの世界に転生させられた哀れな一人の人間だ、ふっ。あいつらは自らのゲームの駒として吾らのような奴らをこの世界で戦わせるのが流儀にしてる。それが神様の娯楽であるからな」
「さっきから言ってることが全く理解できないわ。神様の娯楽って何? ならば、なんであなたは私たちを殺そうとしてくるの?」
「それはこの世界から脱出するためだよ」
目の前の人物が自分らの先輩であるという事実は気付いてたことだ。
その先輩が竜生らの敵となっていた理由がまさか――
「世界からの脱出?」
「そう。この魔法世界アスフィルトからの脱出だ。碑文の通りに吾は動き転生者を探しては殺してきた。だが、いくら殺しても帰るための道は開けない。ならば殺し続けて願いの力を手にして吾は元の世界へ帰るのだよ」
「願いの力か」
帝国の碑石で読んだ文章にも確かに描かれてあったことだった。
その結末が願いの力と言う産物を受けもらえるというのを彼は言ってる。
だからこそ、今まで多くの『転生者』をころした。つまりは同じ境遇者を殺してきたのだ。まるで、神様の仕掛けた殺しあいゲームにわざわざ乗ってしまうなんてばかげた真似を行っていた。
「あんたはあんなものを本当に信じてるのか! そんなものを信じて今まで自分と同じ境遇者を殺してきたのかよ!」
「その通りだ」
悪びれもせずに真顔で答えた彼に心底、呆れよりも恐怖を感じた。
この男は心底狂った思想をもっていた。
「馬鹿じゃないの! そんなの碑文の通りなんてあるはずないわ! そんなのフィクションの物語の方が可能性が高いじゃない! だというのにあなたはそれを信じてずっと殺してきたの? ふざけないでよ! 狂ってる! 狂ってるわよ!」
「吾は狂ってなどいない! なぜなら、吾はしっかりとこの目で見たのだ! 吾の先輩が転生者を殺した後に起こした願いの力の末路を!」
「え?」
彼の言葉から発せられたのは信じられない内容だった。
つまり、碑文に描かれた現実を見たというのだ。
「馬鹿を言わないでよ!」
「馬鹿な話ではない。事実、先輩は吾と同じ転生者だった。先輩は最初は吾も殺そうとしたがその時吾が勝利した故に先輩は逃した」
「逃したね……じゃあ、うそじゃないか! その先輩の奇跡を見たなんて。お前が先輩に勝ったならその先輩は敗者で碑文のとおりの奇跡を起こせないだろう」
「最後まで話を聞けぇ!」
今までにない荒くれぶりで彼は怒号を響かせた。
さすがにこれには竜生を含めアルピノアもアカネも威圧にすくみあがった。
「先輩は吾に負けたが故に吾に情報をくれた。この世界においての真実を。この世界を作ったのは吾らを転生させた神様たちであり神様たちが作った娯楽場だと。吾らは転生した時から神様の駒なのだと。先輩はその逃れられぬ運命だったからこそ同じ境遇者を殺すしかなかったと語った。だが、境遇者をたくさん殺せば神に出会い願いを聞き届けてもらえると語った」
あの時の興奮は忘れられないと付け足す。
「そう、まるで体全体が燃えたぎった。先輩は一緒に願いの力を手に入れようと手を差し伸べた。吾は同意した。そして、多くの同胞を殺した。そして、先輩はついに神様と謁見を果たした。先輩はその時に願ったのだ。帰還を。そのあとの先輩は消えたが故に吾は知らぬ。だが、先輩は無事帰れたと神は言ったのだ!」
「この世界を戦場にした神様を信じるとかますますあんたは馬鹿だよ」
「あなたのやってることは意味のわからない行為よ。亡んだ皇国のためにあなたが復讐をしてるのならわかるのだけどあなたはただ自分の欲望のためだった。しかも、ふざけた思想を抱いて! 最低のクズ野郎よ!」
「違う! この世界の理に従うのが道理であり吾はクズではない。道理に従わぬ者こそが屑であろう!」
最低最悪の返答に吐き気がする。
「吾の目的のためには貴様等も殺す。特に貴様だ赤髪の奴! 貴様は昔に逃した分きっちり始末する! 王女は餌にして正解だった」
「っ! 王女はどこです! 関係ない彼女を解放してください!」
「貴様を殺したら解放するさ、ふっ」
「そんなことさせるかよ! 第一てめぇはここで俺らを殺したところで碑文の通りにはいかないぞ」
「それはどうかな、ふっ」
そう言って彼が指を鳴らすと竜生たちの背後からあの不気味な感覚が伝う。
振り返ればシルクハット帽の男、ルイスがいた。
「どうもですぅーね」
シルクハット帽を脱ぎ捨て、彼の帽子が地につくとその帽子から流れるように放出される黒のオーラ。それは例の不気味な黒の輪を形成した。
足場がなくなり浮遊感に包まれた。
「フハハハッ! 戦場へ案内しようか」
竜生たちの悲鳴がこだました。
元々は鉱山であったこの山だが今ではその鉱山も戦争によって被害を被って鉱物も取れないほどになったらしい。今では放置された山と言う。
山頂からしばらく歩くとアカネが声を荒げる。
「とまってください!」
突然にアカネの甲高い声にびくりと全身を震わせて立ち止った。
そこで、気づいた前方に誰かがいる。
黒いローブに全身を包み込んだ奇妙な人物である。
ゆらりと体を揺らし徐々に近づいてくる。
「何者!」
その人物に全員が息をのんだ。
「な、なんで……殺したはずよ」
「お前!」
一斉に3人は武器を抜いて構えた。サッカリア帝国での戦争で生きていたのは亡国の狂人者だったとは驚く。首を撥ね飛ばし胴体を燃やしたはずなのに彼は生きていた。
「まぁまぁ、お待ちくださぁーいな。今は戦う気はないですぅーな。ワン殿下がお待ちですぅーね。どうぞ、こちらに」
ルイスは奥の方に出現させた黒の輪の誘導を促すように手を奥へ指し示す。
生唾を飲み込みながら竜生の反応を待つように二人がみた。
「行こう。たぶん、大丈夫だろう」
「でも、あの輪ってあいつが奇妙な怪物を出現させたものだったでしょ?」
「そうだが今はその用途じゃないみたいだ」
「なんでわかるのよ」
「怪物がいるようには見えるか?」
「みえないけど」
輪の奥にはただ薄暗い世界が続いてるだけ。何かの怪物の目や腕が見えることはない。
でも、何があるのか分からないのもまた事実である。
竜生は生唾を飲み込み決意をする。
「行きましょうアルピノア。私はリュウセイさんを信じます」
「わかったわ」
先陣をきって竜生がまず入りそのあとに手をつないだ
アルピノアとアカネさんが続いた。
そうして竜生らはそのルイスの誘導のもとに黒の輪への道を進んでいく。
******
案内されるままに通された場所は大きな居城の一室。
その中に案内されるとまず真っ先に肌身に感じるのは淀んだようなじめっとした風。まるで、空気が死んでるかのようなものだった。次に鼻孔をとんでもない異臭が突き抜けた。
顔を顰めて身を揺さぶって精一杯の拒否反応を示す。
竜生のそばでアルピノア、アカネの二人も同じように顔を顰めて異臭に嫌悪感をむき出しに鼻を押さえていた。
「何この臭い‥‥」
「腐敗臭です」
アカネが断言するように言った後、すっと奥を指差した。
そこには人骨の山とミイラ化した人の残骸が転がっていた。
古びた血が床を汚し、ミイラにはこの世界の蠅らしき生き物がたかっている。
見るも無残な死にざまをしたその死体の山を見て吐き気を催した。
鼻をつまみどうにか堪える。
「それで、あなたのボスはどこ?」
目の前で微動だにしていない案内人のルイスにアルピノアが部屋の空気などと言った嫌悪感を植え付けられる連続に怒りをぶつけるように声をきつくして言い放つ。
「ねぇ、ちょっと聞いてるの!」
返事がすぐ帰って来ないことに違和感を感じすっとその肩に手をやった。
すると、コテンと人形のようにその案内人の体は倒れた。
「え?」
倒れた拍子からそのローブの案内人の素顔が初めてそこでお目見えになった。
人骨の山と同じ骸骨の素顔がそこにはありアルピノアも思わず声を上ずらせた。
「ど、どういうつもりよ! ルイスどこに行ったの!」
さすがは彼女だった。
すぐに持ち直して気張った態度を見せてルイスを呼び付けた。
しかし、反応なくただ人骨の山とミイラ化した死体のある墓場とも言うべき部屋に取り残されたかのような空気になる。
アカネが出入り口の扉を手にかけ出てみようと試みた。
「開かないぞ!」
「うそでしょ‥‥」
アルピノアが必死で扉に手をやって引いてみるも微動にもしなかった。
竜生も同じく試したが反応は同じである。
まるで外からカギでも掛けられてるようだが、扉は中からしか施錠できない作りの扉なのにどうなってるのだろうか。
「私たちと最初から話し合う気はないってわけね」
「やはり、ついてくべきじゃなかったです」
アカネが悔いるように目を伏せった。
悔いる気持ちもあるがアルピノアは諦めた表情をしない。扉に手を当て未だに脱出の策を考えてる。
「この扉からの脱出は困難みたいね。でも、これならどうにかできる」
口から清廉な言葉で魔法の詠唱が紡がれていく。
そうすると、部屋の空気が変化をもたらした。淀んでいたような状態だったのが徐々に涼んだように浄化されてく空気へ。しばらくすると、あたりに転がっていた死体はその澄み切った空気の風にあおられて砂となる。
そのまま砂塵を巻き込んだ風が扉を乱暴に叩きぶち明けた。
「すごい、今のは明らかな上位魔法ですよね?」
「まぁ、そうなのかしらね、私はただ聞こえる声の通りに行うだけだからわからないわ」
アルピノアは自分が使用した魔法にもかかわらずいまいち理解していないかのような受け答えをする。それもそうなのか。
彼女は頭の中に響く声を頼りに魔法を使うという。
今回のもまたその要因で行われたということだろう。
扉が乱雑に開いた先にしかし、今まで通ってきた道は存在せずかわりにあったのはまた大広間の部屋。
そこは元は城の王室だったかのように上品な空間とおんぼろになった椅子に装飾などが施されていた。壊れた王室の玉座に一人の男が座っていた。
今まで出会ってきた動物的容姿ではなく普通の人間の容姿をもち、そしてアジア系の人物特有の顔立ちをしながらも細い目が特徴的でありモデルのような容姿をしているイケメン。体はさほど大きくもないので本当にテレビに出るようなモデル男。
この人物が亡国の王なのかと目を疑いたくなる光景だった。
「亡国の王ですね? 王女はどこにいるのですか!」
アカネは即座に自己判断で相手が王女を連れ出した人物たる確証をもち問いただしていた。
「諸君、ようこそ吾が城へ。ふっ」
歓迎するように大手を振るい手招きするような仕草でバンギッシュ皇国の皇子は答える。
「答えろよ。姫様はどこだ? お前が拉致ってんだよな?」
「そう、焦ることはないぞ、同胞よ、ふっ」
「だれが同胞だ、くそ野郎! こっちの命を何度も危険にさらしやがった奴を同胞なんて思わない。てめぇを消して平和をこっちは手に入れに来たんだ」
「平和? ふっ。この世界で平和を望むとは無謀なことよ」
「なに?」
皇子は玉座が立ち上がり、ゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。その優雅な姿に妙な威圧感を感じておもわず身構えた。
「知ってるかな? 吾にとってこのバンギッシュ皇国は自分がこの世界に居座るための肩書と居住が必要だったからにすぎない要因だったということを、ふっ、そう君たちのようにさ」
流暢に説明してわかったそぶりでドヤ顔で笑う。
「な、何が言いたいわけ」
アルピノアは問いただすもわかっていた。彼の次の言葉が何を言うのか。竜生もまたその言葉の答えがわかる。わかるからこそ、恐怖感が背筋を伝い彼から早く逃げろと警告してるように痛感してる。
「吾も君たちと同じ転生者だということだ、ふっ」
「「っ!」」
アルピノア同様に声にならない声が動揺として出てしまう。
激しくアルピノアは狼狽しながら「あなた何者?」と再度問い詰めた。
「数十年前に吾も神とかいうふざけた奴にこの世界に転生させられた哀れな一人の人間だ、ふっ。あいつらは自らのゲームの駒として吾らのような奴らをこの世界で戦わせるのが流儀にしてる。それが神様の娯楽であるからな」
「さっきから言ってることが全く理解できないわ。神様の娯楽って何? ならば、なんであなたは私たちを殺そうとしてくるの?」
「それはこの世界から脱出するためだよ」
目の前の人物が自分らの先輩であるという事実は気付いてたことだ。
その先輩が竜生らの敵となっていた理由がまさか――
「世界からの脱出?」
「そう。この魔法世界アスフィルトからの脱出だ。碑文の通りに吾は動き転生者を探しては殺してきた。だが、いくら殺しても帰るための道は開けない。ならば殺し続けて願いの力を手にして吾は元の世界へ帰るのだよ」
「願いの力か」
帝国の碑石で読んだ文章にも確かに描かれてあったことだった。
その結末が願いの力と言う産物を受けもらえるというのを彼は言ってる。
だからこそ、今まで多くの『転生者』をころした。つまりは同じ境遇者を殺してきたのだ。まるで、神様の仕掛けた殺しあいゲームにわざわざ乗ってしまうなんてばかげた真似を行っていた。
「あんたはあんなものを本当に信じてるのか! そんなものを信じて今まで自分と同じ境遇者を殺してきたのかよ!」
「その通りだ」
悪びれもせずに真顔で答えた彼に心底、呆れよりも恐怖を感じた。
この男は心底狂った思想をもっていた。
「馬鹿じゃないの! そんなの碑文の通りなんてあるはずないわ! そんなのフィクションの物語の方が可能性が高いじゃない! だというのにあなたはそれを信じてずっと殺してきたの? ふざけないでよ! 狂ってる! 狂ってるわよ!」
「吾は狂ってなどいない! なぜなら、吾はしっかりとこの目で見たのだ! 吾の先輩が転生者を殺した後に起こした願いの力の末路を!」
「え?」
彼の言葉から発せられたのは信じられない内容だった。
つまり、碑文に描かれた現実を見たというのだ。
「馬鹿を言わないでよ!」
「馬鹿な話ではない。事実、先輩は吾と同じ転生者だった。先輩は最初は吾も殺そうとしたがその時吾が勝利した故に先輩は逃した」
「逃したね……じゃあ、うそじゃないか! その先輩の奇跡を見たなんて。お前が先輩に勝ったならその先輩は敗者で碑文のとおりの奇跡を起こせないだろう」
「最後まで話を聞けぇ!」
今までにない荒くれぶりで彼は怒号を響かせた。
さすがにこれには竜生を含めアルピノアもアカネも威圧にすくみあがった。
「先輩は吾に負けたが故に吾に情報をくれた。この世界においての真実を。この世界を作ったのは吾らを転生させた神様たちであり神様たちが作った娯楽場だと。吾らは転生した時から神様の駒なのだと。先輩はその逃れられぬ運命だったからこそ同じ境遇者を殺すしかなかったと語った。だが、境遇者をたくさん殺せば神に出会い願いを聞き届けてもらえると語った」
あの時の興奮は忘れられないと付け足す。
「そう、まるで体全体が燃えたぎった。先輩は一緒に願いの力を手に入れようと手を差し伸べた。吾は同意した。そして、多くの同胞を殺した。そして、先輩はついに神様と謁見を果たした。先輩はその時に願ったのだ。帰還を。そのあとの先輩は消えたが故に吾は知らぬ。だが、先輩は無事帰れたと神は言ったのだ!」
「この世界を戦場にした神様を信じるとかますますあんたは馬鹿だよ」
「あなたのやってることは意味のわからない行為よ。亡んだ皇国のためにあなたが復讐をしてるのならわかるのだけどあなたはただ自分の欲望のためだった。しかも、ふざけた思想を抱いて! 最低のクズ野郎よ!」
「違う! この世界の理に従うのが道理であり吾はクズではない。道理に従わぬ者こそが屑であろう!」
最低最悪の返答に吐き気がする。
「吾の目的のためには貴様等も殺す。特に貴様だ赤髪の奴! 貴様は昔に逃した分きっちり始末する! 王女は餌にして正解だった」
「っ! 王女はどこです! 関係ない彼女を解放してください!」
「貴様を殺したら解放するさ、ふっ」
「そんなことさせるかよ! 第一てめぇはここで俺らを殺したところで碑文の通りにはいかないぞ」
「それはどうかな、ふっ」
そう言って彼が指を鳴らすと竜生たちの背後からあの不気味な感覚が伝う。
振り返ればシルクハット帽の男、ルイスがいた。
「どうもですぅーね」
シルクハット帽を脱ぎ捨て、彼の帽子が地につくとその帽子から流れるように放出される黒のオーラ。それは例の不気味な黒の輪を形成した。
足場がなくなり浮遊感に包まれた。
「フハハハッ! 戦場へ案内しようか」
竜生たちの悲鳴がこだました。
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