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第1章

第1話 こんな転生望んじゃいない

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 真っ暗闇が続く中で茫然とある学術書を思い出す。
 ペットロス症候群。
 ペットと死別したり、ペットが行方不明になったり、盗難に遭ったりしたことなどを契機に発生する、疾患ないし心身の症状のこと。
 まさにそうだと実感する。
 心が痛む。どうにかして、愛しのマイペットを復活させることができればと思う。
 仕事も失ったことよりもその方が心苦しい。

「――か」

 誰かの声が聞こえる。
 いったい誰だろうか。
 このまま眠って行きたいというのに。
 そう、確か歩道橋から飛び降りたはずなのにどうして意識があるのだろうか。
 あれ?
 ゆっくりと重い瞼を開く。

「やっと起きおったか」

 うっすらと闇の中に異様な光景があった。目の前に西洋風の祭壇のようなものがある。そして、その中心に毛むくじゃらの銀髪の爺さんがいた。
 西洋の祭壇はまるでその爺さんを奉るかのように作られたかのような神々しさを放つ。神々しさを深くさせるのは祭壇を中心として広がる光か。
 おじいさんが何者であるのかはわからない。
 だが、こういうパターンなら漫画やアニメが好きな竜生はすぐに理解した。

「どうもじゃ、最上竜生。ぬしは短い人生じゃったが主は死んだ」
「そうか、俺死んだのか」

 闇の空間にぽつりとこのような祭壇があるのならばそうした思考が追い付く。なにより最後の記憶は歩道橋から自殺したという記憶。
 車に撥ねられた感触だってある。
 この爺さんは自分自身の死を宣告したので神様だとかと考えた。

「もしや、爺さんはここの天国にいる天使とか神様か」
「ん? ここは天国ではござらんよ。ワシは神ではあることは正解じゃ。ここは転生の狭間じゃよ」
「転生か……はは。もし、そうなら愛しのピノを復活させてもらえるのかな」

 これが死んだ後のことならば夢にまで見た物語の実現だろう。
 転生なんて早々できるはずもない。
 だけど、現実に目を向けよう。
 この状況や自分の最後の記憶はなによりもの証拠だろう。
 彼が神様だっていう話は納得のことじゃないか。
 竜生はそんな期待はしたが実際のところ夢と言う可能性の方が納得のいく形を自分の中で示している。

「ふぉふぉっ、主はわしが今まで見てきたどのような人物も違う態度を見せるのぉ」
「そうか……。まあ、転生だとかどうだっていい‥‥。俺にはもう生きたい理由もない」
「うん? 転生したくないのか?」
「俺が生きる理由はただそいつが生きてればいいだけだった。だけど、今は死んだ。それにこの夢で頼んだところで実際にかなうはずがない」
「ふむっ、まだ信じ取らんようじゃな。ならば、貴殿の望みをかなえてみせよう」

 爺さんは一呼吸をおいて、柏手を打った。すると、竜生の足もとが輝きだす。それは輪郭を形成し一匹の動物を生み出した。

「ピノなのか‥‥?」
「そうじゃ」
「なっ、なっ‥‥ピノぉおお!」

  もふもふの体毛を肌に感じながら抱きしめてピノの体温を感じ取った。しっかりとピノは生きている。今この場にいる。

「じゃけど、そのピノも魂だけの存在じゃ主同様に」
「え‥‥」
「さっきも申したがここは転生の狭間じゃ。死者が来る場所」

 祭壇に居座った神様を自称する爺さんの発言に耳を傾けて初めて信用をもった。

「人生をやり直さんか?」

 その一言を爺さんは告げた。一瞬何を言われたのかピンとこなかった。竜生はゆっくりと目を閉じて再度開いた。自分の腕をつねり痛みのような感覚の刺激を感じる。だが、妙な感覚でもある。痛みを感じても通常感じる痛みとは違う。まるで、心身に感じ取った疼く痛覚刺激。

「夢じゃない‥‥現実だけど俺は死んでるのか‥‥。つまり、魂のみの存在‥‥なるほど‥‥」
 
 自問自答の結果を導き出して神様の目線をここで初めて合わせた。

「爺さん、人生をやり直しの話は有効なのか?」
「うむ、ここは転生の狭間じゃ」
「そうか‥‥なら、このピノを転生させてやってくれ」
「ぬっ? これは今まで来たやつとは別の答えじゃな。して、どうしてそうなのか聞かせてもらえんか」
「理由なんか決まってる。俺には人生をもう一度やっても仕方ないことしかない。当たり前に普通の人生しか送れない。でも、ピノは違う。ピノにはまだたった10年間しか生きてない。最初は飼育小屋で野生のように放逐されまともな餌さえもらえない人生を送っていた。コイツにはもっといい人生を送らせてあげてほしいから」
「それをいうなら主も20年間しか生きておらぬではないか」
「俺は20年も生きれば十分だ」
  
  竜生の熱い願いの言葉を聞き受け取った神様はふと、ピノに視線を送る。すると、驚いたことに会話を始めた。その会話の内容は大まかにしか聞き取れなかったがピノの気持ちを聞いてるというようだった。
  結果は――

「ピノも転生をしたいと望んでおる。じゃが、一人ではだめじゃという希望もあった」
「え」
「主の転生をピノは望んでおるぞ」
「ピノッ!?」

 自らの腕に抱いたウサギの目を見て嬉しさがこみ上げ涙が出た。

「ふぉっふぉっ、してどうするのじゃ? 転生する世界は主が生きておった世界とは全くの別物になるぞい。今までに生きていた人間の世界ではござらん。転生後ありとあらゆることで困惑しよう。だからこそ、神であるワシらは主さまらに恩寵を与え道を示し転生を行うのじゃ」

 爺さんは説明書でも読むかの如く説明する。

「じゃが、もう一つの道もある」
「もう一つの道?」
「そうじゃ。もう一つの選択肢は天国に行って爺さんまで暮らすことじゃが天国とはそこまでいいところではござらん。テレビや漫画、音楽など人間が作ったありとあらゆる遊び道具はござらん。まったくもってつまらんところじゃぞ、それにのぉ」

 大仰にため息をつきながら――

「体もないしのぉ女子と交配することもできんから一生日向ぼっこ人生じゃ」

 まるで経験者は語るかのような物言いで遠い目をしている。
 なんとなく察しがつくのであえてツッコまず勧めてくれる転生をするべきなのだろうと考える。
 だが、別に人生をやり直した後どうするかなどと考えてはない。
 だけど、ピノが人生のリトライを進めるのならばと竜生は思う。

「俺は、ピノが転生を望むなら転生するよ。だけど、その恩寵とやらで一つ頼みごとがある」
「なんじゃ?」
「ピノを俺と同じ場所に転生させてくれ」
「ん?」
「ピノも転生をするんだろう? だったら、ピノと俺を同じ場所に転生させてくれ」
「それはかまわぬ。じゃが、そうなると主は恩寵をそのようなことに使うということじゃがよいのか?」
「別にかまわない。俺はピノと一緒にいたい。転生後も」
「そうか」

 爺さんは微笑むとピノの方に視線を向けると「あい、わかった」と言う。
 ピノも承諾したのだろう。

「では、今から主らには異世界へ飛んでもらうが、その前に伝えておくぞい。その世界では邪悪なる軍団が蹂躙し人々を殺戮しておる世界じゃ。じゃから、転生というシステムを用いて生前の状態のまま転生をさせ恩寵を与える」
「えっと、どういうことだ?」
「つまりは世界の法則性に異常をきたさないための作戦とでも思っておればよいのじゃ」

 なんか、いいように利用されたのかと思われるような補足説明が入った。
 気にした方がいいのだろうか。
 内容を聞く限りではゲームなどでありきたりな冒険ファンタジー世界にでも飛ばされると考えるべきなのだろう。
 待てよ。そうなるのであれば……。

「おい、さっきの恩寵ってそういうことなのか、その邪悪なる軍団に殺されぬ防衛対策で一つだけ力を与えるってやつかっ」
「そうではござらん。これはあくまで神様がその世界に転生者を順応させるための力を分け与えるというだけじゃ」
「うそくさい」
「本当じゃ! だってぇー主が断るムードだったから最後に補足説明したとかじゃないぞい! 軍団を退治しないとぉ世界が邪悪になっちゃうからぁワシだって困っちゃうとかじゃないんだからね」
  
  ツンデレ口調が微妙に気持ち悪い。
 にしても、爺さんの罠にはまったのであろうか。
 やはり、うまい具合に利用された?
 だが、ピノと一緒にもう一度やり直せるのならばどんなこんなんだって乗り越えられるはずか。

「爺さんの考えはどうだっていいか。まあ、ピノのことは頼んだし俺はピノさえいればいいさ」
「うむ、では、始めるぞい」

 そう言って爺さんは手元に杖を出現させる。杖の柄の部分を地に「カツン」と叩きつけると魔法陣が出現し竜生とピノは宙に浮かびあがる。上空には光の輪がある。
 まるで、そこへ吸い込まれていくようにどんどん地上から遠ざかっていく。

「では、頑張るのじゃぞ。無事世界を平穏へと導いてくれることを切に願うぞ」
「は? どういう意味だ? え、ちょっと――」
「では、期待するぞい」

 何かを問い詰める前に異空間へ飛ばされ視界は真っ白に染まった。

 *****

   果てしなく白い視界は徐々に色あせ始めた。
 まず、飛び込んできたのは家屋を彩る茶色の木造。
 そして、足場を彩ったコンクリート色のタイル張りの白。
 最後は噴水広場だとわかるかのようにある噴水の水の透明色と噴水の模型の銀。

「ここは……どこだ……?」

 あたりをきょろきょろと見回すとにぎやかなムードを漂わせていろんな人が跋扈している。
 ある人は店の物を買い込み、ある人は店の店員だろうことで必死で物販の販売を行い客寄せする、そしてまたある人は喧噪する。
 だが、それらの人々の容姿はすべてが違う。性格が違うとかではない。特徴そのものが違った。
 民族という特徴とでも呼ぶべきか。
 ある人はトカゲのような図体や容姿で二足歩行でありある者は猫のような姿をして二足歩行をし、またオオカミだったりキツネだったり、黒い人形っぽい姿のものまでいたりする。
 中には竜生と同じ容姿の人間であろうとすぐわかる者までいた。
 そう、例のごとく爺さんが言っていたファンタジーな世界がこういうことだと理解させられた。

「なるほど、これが異世界ってやつか。邪悪の軍団だとか驚かせて全然平和なところじゃないか」

 事実に転生させられたのだという実感を持って周りの景観に感情を高ぶらせる中でふと思い出す出来事があった。
 自分の位置を的確に認識し探す。
 噴水広場の中心のベンチに腰掛けたような姿勢でいる竜生は目を凝らすも目的である奴はいない。

「あの爺さんに嵌められた! クソッ! こんな世界じゃあ一人で生きてく意味なんてっ――」

 ないと言いながら立ちあがろうとした挙動はふいに足に感じた重みで静止した。
 足元、ちょうど大腿部を確認した。
 一人の端正な美貌で綺麗な茶色の長髪に頭部からウサ耳を生やしたグラドル並みにグラマラスなボディーでありつつ姐御肌的な顔つきと印象を受けるかのようなスタイルの美女。年齢はさほど自分と変わらない。
 その彼女がビクリと肩を揺らし重い瞼を持ち上げ起き上がる。
 起き上がった拍子に胸元が揺れつい目元が食いつく。彼女は全裸状態だったために周りの目もこちらにちょこちょこ向いていたことが分かった。
 彼女は「ンー」とウサギ伸びのような感じで背筋を伸ばし綺麗な茶髪が背筋のラインからすべりおちベンチにきらきらと日の光を受け神々しく煌めかせながら垂らす。

「えっと、君誰?」

 聞かずにはいられなかった。見知らぬ美女に膝枕をしていた現状である以上。
 この短時間に何かをしたという記憶は一切ない。ある記憶と言えば爺さんとの会話のみ。
 彼女がいったいどこのどちらさんなのかこの場合はっきりとわかっておきたい。自分は転生早々犯罪を起こしたという経緯はあってほしくない。

「ここはドコ?」
「それは――」

 自分も来たばかりだという事実があってるのであれば正しくは知らないはずであるから答えられない。
 もし、もうとっくの数日前もしくは数時間前に来ており、この美女と何かを起こしたとなるのであればココがどこでということは記憶を掘り起こせばわかるだろう。だが、掘り起こしても思い当たる節はない。
 ということならば、来たばかりだという事実が確立するのであるわけで――

「わからない……」
「んー? よく見れば。そう、来たんだ。じゃあ……あなたは……チッ、屑のご主人さまか」
「へ?」

 一瞬、彼女の口からとんでもないことを言われたような気がした。
 彼女はこちらをじっと見つめながら「こういう風にしっかりと見えるんだ」と言ってから周りをぐるっと見回して「これが転生ね」と納得というように首を頷かせてる。
 こっちが放置され混乱するのお構いなしでベンチから立ち上がる。

「そっか、そっか、無事成功か。あー、でもなんでこうなるかなぁ」

 こちらをじーと睨みながら頬をつねってきた。

「いひゃいひゃい――ってなにすんじゃい! つか、君誰だよ!」

 その手を振り叩き、彼女を睨みつけたがすぐに目線をそらす。彼女は全裸なためにすべての場所が見えてしまっている。女性のクロスラインまで見えてしまってるために童貞な俺は目も当てられない。
 できれば凝視したいがそうなれば犯罪者だ。
 周りの視線も彼女が起きたことで集中して注目を浴びまくってるじゃないか。

「なんか、注目されてるわよね? なんでかしら?」
「なんでかしらって服を着てないからだろ!」
「きゃっ! なんでぇ!」

 今頃になって気付いたのか。
 彼女はその場にうずくまるようにして座り込んで体を隠すもそのグラマラスな体はやはり隠しきるには少々手が足りてはいない。

「これ使えよ」

 竜生は死んだ時の衣服を着ていた。
 生前の状態とはつまり、こういうことなのだろう。
 ジーパンにTシャツの上にジッパー式パーカー。
 そのパーカーを彼女の体にかける。

「屑で馬鹿なご主人様に気を使われるなんて最悪」

 また、彼女は竜生のことを「屑で馬鹿なご主人様」といった。
 これから結びつくことは一つだ。
 だが、竜生があくまで頼んだのは元の状態である。

「なんで、そんな状態で転生してるんだよ」

 そんな転生望んじゃいない。
 あくまで、ウサギとして共にということであったはずなんだが彼女の姿は人間のような容姿をしている。
 ウサ耳と尻尾があるのをのぞけば。

「私だって馬鹿ご主人さまと一緒とか……。こんな転生なんて望んじゃいないのだからね」

 怒って顔が赤いのかそれとも羞恥に顔を赤らめてるのか分からないが、今の彼女には威厳もなくかわいらしさを感じてしまう。
 おもわず、ニヤケ面をさらすと彼女の沸点が切れたようにパーカーに素早く袖を通し足を地団駄を踏むようにして「ダン」と踏み込むとそのまま「ウー」と唸りながらの溝に強烈な突貫頭突き攻撃。

「ぐほぉ」

 一発KOとか格闘ゲームならば出るだろう。
 まさに竜生は一瞬、気を失った。

「な、何しやがる!」

 まるで、ウサギの時はこんなことすらしなかった。
 今の彼女はまるで性格が真逆ではないか。

「笑った顔がむかついたので」
「なっ! ――っお前ピノのまがい者だろう! 本当のピノはどこだ!」
「私はピノよ! あんたの目は節穴ね馬鹿ご主人さま!」

 腹立たしくなってくる。
 なんだ、こいつ。
 本当にあのピノだと疑わしくなるのも無理はないではないか。

「私はあんたのような屑で馬鹿なご主人様にアイスの名前を付けられた正真正銘のペットよ! ペットだったってことがはずかしいくらいよ!」

 間違いではないようだがこれはひどく誤った転生である。
 彼女は竜生のピノであってもこんな性悪女に変えて転生させろとは言ってはいない。

「なんで、こんな性悪女になってんだよ」
「ウーッ! 私は性悪女じゃない! 言わせてもらうけど私だってあんたと一緒がごめんだったのよ。だけど、あの爺は望みは絶対叶えるとか言って聞かないし私はいやだって申告したのに取り下げてもくれないから私望みとして人間として転生させてもらっただけよ! おまけとしてあんたの転生を望んであげたら何? 私と同じ場所に転生? キモイのよ!」

 などと彼女は捲し立てた。
 どうやら、あの爺さんは竜生だけの望みではなくペットであったピノの望みまで聞きいれることができてたという事実に気付いた。

「あの爺さん一言くらい伝えろよ! くそっ、真面目にこれはある意味で嵌められた」
「こっちだってそうよ!」

 二人していがみ合いながらいると周りも徐々にざわめきだし二人のことを噂の種として会話をしだす。
 次第に遠くから足音が聞こえ出す。

「ほら、どけぇ! 道を開けろ!」
「王女殿下のお通りだ! さっさとあけろ」

 その足音の正体たる人物は人ごみのモーゼを通り竜生らの前に現れた。
 その人物には目を奪われる。綺麗なブロンドヘアーをなびかせる猫のようなつぶらなブルーの瞳をし、スラッとした鼻梁や小ぶりな唇、泣きホクロが特徴的な美女。年齢は20代後半か。
 彼女は騎士甲冑を着こんでおり傍らには同様に赤髪の騎士甲冑を着こんだ美女を護衛のように従えている。
 金髪の美女は剣を突き付け言い付ける。

「公序陵辱違反で王城に来てもらいますわよ、アカネは彼女と彼を連行しなさい」
「ハッ」

 するとすぐに竜生とピノの両サイドから騎士甲冑の兵隊らしき人物たちに捕まる。

「あ、おい、どういうことだよ! はな――」
「おとなしくしてろ!」
「離しなさいよ!」
  
  その時だった。
  眼前で信じられぬ光景を目にした。素早い動きでピノが足を振り上げ騎士の女の顎先を蹴りあげた。そのまま回し蹴りで騎士を二人殴り飛ばす。

「うそだろ」
  
  さすがのピノのすさまじい威力と条件反射スピードにおもわず口をあんぐりと開いた。
  騎士たちも騒然となって剣を引き抜き抵抗者を傷をつけてでも捕える意向に変更。

「おい、ピノ落ち着け!」
「馬鹿ご主人さまは黙って!」
   
  赤髪の美女騎士が「おとなしくせぬならば強硬手段に移させてもらう」と言って剣を構えて上から振りかぶって突撃して来た。ピノが足先で剣を食い止める光景を目にしてますます衝撃を受けた。
 ピノの動きはまるでカンフー映画に出てくる主人公の様なたち振るまい。
 足先で食い止めた剣を蹴飛ばし腹に強烈な掌底打ちを決める。
 悶絶した騎士がその場に倒れ伏していく。

「まさか、これが恩寵の力?」
  
  竜生は転生の狭間で伝えられた言葉を思い出した。 
 眼前にある光景は必死で抵抗するピノの姿。それを目の当たりにして自分の方にも何か力があるのではないかとさえ思えた。
 近くににじり寄った騎士たちを伺い竜生も構えをとった。

「貴様もおとなしく縄につけ!」
「いやだね。俺もここに来てすぐに捕まるわけには――」
  
  威勢だけは良かったが――力及ばず頭部に強い衝撃を受け竜生はそのまま眼前の光景を見つめながら気を失った。
 
(俺の恩寵は……)

 そんな嘆きの言葉を心に呟いて――
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