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9本目 女子バスケットボール部の挑戦
勝利への執念 91
しおりを挟む7点差に詰めると、9点差に離される。その距離が遠い。残り時間が減っていくのに伴って差が縮まっていくのならともかく、嶺南の大きな背中には、まだ手がかからない。
そんな状態は、きっと選手たちにとっても辛い時間のはずだった。
試合が始まってからもう30分以上、走り続けている。しかも一回一回のプレーが相手のある競争なのだ。
ベンチに下がっていた時間のある翠さんにしても、もう一回たりともファウルをするわけにはいかない、神経をすり減らすような時間を戦っているはずだ。
地区大会で負けた時のように奈津姫さんが動けなくなるようなことは起こっていない。彼女もスタミナを増強するトレーニングを続けてきたし、成美さんも負担が集中しないようにパスを振り分けて攻撃を組み立てているのが分かる。相手のエースとスミレ子さんが対等にやり合っていることも大きい。
それでも、みんなの表情は厳しかった。
特に9点差にされた後に得点が決まらず相手にボールが渡った時には、僕も祈るような気持ちになった。1ゴール決められたら点差は2桁になる。それは避けてほしい。希望を繋いでほしい。そう願ってしまうのだ。
まさにそんな状況。9点差で相手の攻撃中のことだった。パスに対してスミレ子さんが驚異的な反応を見せて跳びついたのだ。
指先に弾かれたボールは山なりに軌道を変え、双方が意図しない方向へ飛んでいく。
そのままコートの外に出れば、最後に触っているのがスミレ子さんであるため相手側のスローインになると思われた。
黒いポニーテールが空中に軌跡を描く。そちら側に近い相手をマークしていた香織さんが、コートの端まで全力で走って、跳んだのだ。
ボールや選手の体がコート外の空中にあったとしても、直前に踏み切った位置がコート内であれば、まだプレーは続く。彼女はコートの中からボールに向かって跳んでいた。相手チームのベンチの前へ。
長い手がボールに届き、それをコート内へと投げ返す。
ボールは、同じく駆け寄ってきた奈津姫さんの手へと収まって――。
そうして、香織さんの体は相手のベンチへと突っ込んだ。
パイプ椅子が立て続けに倒れる乱暴な音が、僕の耳まで飛び込んできた。
●
「香織さん!」
立ち上がって叫んだけれど、ベンチの間には係員席があるので様子が分からない。
コート内では奈津姫さんが歯を食いしばるような表情を見せながら、振り返ってボールを投げている。それ以上は視界に入らなかった。
応急救護セットを手にして駆け出そうとする間に笛が鳴り、試合は停まっていた。
先生も控えの部員たちも、現場へ走る。
コート内からも成美さんがものすごい速さで駆けつけてきた。
「香織ちゃん!? 香織ちゃん!」
嶺南のベンチは、香織さんが倒れている場所を中心にパイプ椅子が倒れて散らばっていた。
彼女は両手で頭を抱え、丸まったような状態でいた。この体勢で突っ込んだのかもしれない。
審判が千華子先生に尋ねる。
「担架を呼びますか!?」
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