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9本目 女子バスケットボール部の挑戦
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試合が再開されて間もなく、ゴール近くで、香織さんのマークに付いている選手にスッと翠さんが接近した。スクリーンプレーというやつだ。相手が香織さんを追いかけ続けるためには、翠さんの体が邪魔になる。
174cmの香織さんよりも更に身長の高い選手が相手。しかしこの時は、おそらくスミレ子さんや奈津姫さんを警戒していたのだろう。スクリーンへの対応が遅れて翠さんに阻まれた彼女に代わり、それまで翠さんに付いていた例の5番の選手が香織さんを追いかける。彼女には香織さんほどの高さはない。
その瞬間を狙いすましたかのようなパスが成美さんから通る。
香織さんは長い脚でゴールに向かって踏み込んでから振り返り、シュートを狙う。
相手は高さの差を埋めようとして咄嗟に手が出たのだろうか。審判の笛が鳴った。
接触されながらも打ちきった香織さんのシュートが、バックボードに跳ね返ってバスケットに入る。審判は2本の指を立てて上から下へ振り下ろし、宣言した。
「カウント・ワンスロー!」
シュート体勢中に相手のファウルを受けた場合、そのシュートが入れば得点は認められる。
ゴール下で、相手に囲まれようが当たられようがボールを押し込む。大黒柱とも言われるセンターのポジションの役割だった。
これで73-78の5点差。更にフリースローが1本与えられることになる。
再び場内からはどよめきと拍手が降り注ぐ。
嶺南の5番は呆然とした顔をして数秒、動けないでいた。
先生が呟く。
「わざと外して更に通常のゴールを狙うなんてことはしなくていい。まだ1分半は切っていない。話したことを忘れるな」
フリースローでは防御側がゴールの近くに待機できる。しかも高さのある香織さん自身は決められた位置からシュートを放つので、リバウンドに参加することは難しいのだ。
長身で凛々しい香織さんだが、フリースローは必ず両手で放つ。片手でも両手でも本人の得意な方で良いらしいのだが、なんとなくかわいらしいそのフォームを見るのが、僕は好きだ。
シュートはきれいに決まった。フリースローは1点なので、74-78。ファウルを受けたプレーと合わせて3点が一挙に入ったことになる。
●
既に残り時間は1分半を切っている。先生の言う通り、相手は無理に速い攻撃を仕掛けてくることはなかった。ボールを回して機会を窺われている、
もしこの攻撃で6点差に離されてしまうと、すぐに2点を取り返したとしても4点差で改めて相手ボールとなり、その時には残り1分を切っている可能性が高い。先生の言っていたラインを越えてしまう。
24秒を計測するショットクロックが残り5秒を切ったところで、ボールは9番に渡った。それはそうだろう。僕が相手だってそうする。
そのドリブルに、スミレ子さんは反応するものの追いつけない。相手はシュート体勢に入る。香織さんが跳ぶ。
第2Qの最後と同じだ。相手はダブルクラッチで香織さんの手をかわし、改めてボールをゴールへと放り上げる。
そこに、翠さんの手があった。
スミレ子さんが反応できたから、僅かにゴールから遠くなっていた。香織さんが跳んでみせたから、すぐには放たれなかった。そのシュートの軌道に、翠さんは手が届いた。
3人がかりで止めにかかったその間、フリーになっていたはずの他の選手にパスは出されなかった。エースには自身こそが決められるという自信があったのだろう。
僅かに軌道を逸らされたボールはゴールリングに納まらず、リバウンドボールとして落ちてくる。
ブロックを決めた翠さんが、着地した瞬間にまた跳んだ。誰よりも速く、そして高く。
その手に、しっかりとボールは握られた。
残り時間は、ちょうど1分を切るところだった。
●
ちゃんと攻撃ができる機会は多くても残り2回と考えていい。2点ずつ返すだけでは延長戦になる。できれば3点を取りたい。
相手も、そのことは頭に入っているのだろう。奈津姫さんのマークに付いた相手は、スリーポイントラインの外ではボールを持たせまいと張り付いてきた。
「さすがのディフェンスだ。奈津姫のスリーポイントが、よほど頭にこびり付いてしまったらしい」
そう先生が言う。
「だが、そうやって選択肢を狭めていくと、うちの選手たちの思うツボだ」
奈津姫さんがスリーポイントラインの内側へと走り込む。マークの選手は外へ意識を向けていたため反転しきれず置いていかれる。
そこへ成美さんからボールが渡る。
9番の選手はスミレ子さんから離れられない。
「元々エースとして奈津姫をマークしていたことを、忘れてもらっては困る」
奈津姫さんは一気にドリブルでゴールに迫りシュート体勢に入る。相手の選手がブロックに跳ぶ。さすがに高い。
まるで相手の9番がしたように、奈津姫さんはボールを両手に持ち直した。そうして跳んでいる相手の脇から投げ渡した。フリーになっていた香織さんに。
得点は76-78となり、ついに1ゴール差に迫った。
174cmの香織さんよりも更に身長の高い選手が相手。しかしこの時は、おそらくスミレ子さんや奈津姫さんを警戒していたのだろう。スクリーンへの対応が遅れて翠さんに阻まれた彼女に代わり、それまで翠さんに付いていた例の5番の選手が香織さんを追いかける。彼女には香織さんほどの高さはない。
その瞬間を狙いすましたかのようなパスが成美さんから通る。
香織さんは長い脚でゴールに向かって踏み込んでから振り返り、シュートを狙う。
相手は高さの差を埋めようとして咄嗟に手が出たのだろうか。審判の笛が鳴った。
接触されながらも打ちきった香織さんのシュートが、バックボードに跳ね返ってバスケットに入る。審判は2本の指を立てて上から下へ振り下ろし、宣言した。
「カウント・ワンスロー!」
シュート体勢中に相手のファウルを受けた場合、そのシュートが入れば得点は認められる。
ゴール下で、相手に囲まれようが当たられようがボールを押し込む。大黒柱とも言われるセンターのポジションの役割だった。
これで73-78の5点差。更にフリースローが1本与えられることになる。
再び場内からはどよめきと拍手が降り注ぐ。
嶺南の5番は呆然とした顔をして数秒、動けないでいた。
先生が呟く。
「わざと外して更に通常のゴールを狙うなんてことはしなくていい。まだ1分半は切っていない。話したことを忘れるな」
フリースローでは防御側がゴールの近くに待機できる。しかも高さのある香織さん自身は決められた位置からシュートを放つので、リバウンドに参加することは難しいのだ。
長身で凛々しい香織さんだが、フリースローは必ず両手で放つ。片手でも両手でも本人の得意な方で良いらしいのだが、なんとなくかわいらしいそのフォームを見るのが、僕は好きだ。
シュートはきれいに決まった。フリースローは1点なので、74-78。ファウルを受けたプレーと合わせて3点が一挙に入ったことになる。
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既に残り時間は1分半を切っている。先生の言う通り、相手は無理に速い攻撃を仕掛けてくることはなかった。ボールを回して機会を窺われている、
もしこの攻撃で6点差に離されてしまうと、すぐに2点を取り返したとしても4点差で改めて相手ボールとなり、その時には残り1分を切っている可能性が高い。先生の言っていたラインを越えてしまう。
24秒を計測するショットクロックが残り5秒を切ったところで、ボールは9番に渡った。それはそうだろう。僕が相手だってそうする。
そのドリブルに、スミレ子さんは反応するものの追いつけない。相手はシュート体勢に入る。香織さんが跳ぶ。
第2Qの最後と同じだ。相手はダブルクラッチで香織さんの手をかわし、改めてボールをゴールへと放り上げる。
そこに、翠さんの手があった。
スミレ子さんが反応できたから、僅かにゴールから遠くなっていた。香織さんが跳んでみせたから、すぐには放たれなかった。そのシュートの軌道に、翠さんは手が届いた。
3人がかりで止めにかかったその間、フリーになっていたはずの他の選手にパスは出されなかった。エースには自身こそが決められるという自信があったのだろう。
僅かに軌道を逸らされたボールはゴールリングに納まらず、リバウンドボールとして落ちてくる。
ブロックを決めた翠さんが、着地した瞬間にまた跳んだ。誰よりも速く、そして高く。
その手に、しっかりとボールは握られた。
残り時間は、ちょうど1分を切るところだった。
●
ちゃんと攻撃ができる機会は多くても残り2回と考えていい。2点ずつ返すだけでは延長戦になる。できれば3点を取りたい。
相手も、そのことは頭に入っているのだろう。奈津姫さんのマークに付いた相手は、スリーポイントラインの外ではボールを持たせまいと張り付いてきた。
「さすがのディフェンスだ。奈津姫のスリーポイントが、よほど頭にこびり付いてしまったらしい」
そう先生が言う。
「だが、そうやって選択肢を狭めていくと、うちの選手たちの思うツボだ」
奈津姫さんがスリーポイントラインの内側へと走り込む。マークの選手は外へ意識を向けていたため反転しきれず置いていかれる。
そこへ成美さんからボールが渡る。
9番の選手はスミレ子さんから離れられない。
「元々エースとして奈津姫をマークしていたことを、忘れてもらっては困る」
奈津姫さんは一気にドリブルでゴールに迫りシュート体勢に入る。相手の選手がブロックに跳ぶ。さすがに高い。
まるで相手の9番がしたように、奈津姫さんはボールを両手に持ち直した。そうして跳んでいる相手の脇から投げ渡した。フリーになっていた香織さんに。
得点は76-78となり、ついに1ゴール差に迫った。
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