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8本目 女子バスケットボール部員の恋人
バッシュ(brand-new) 84-13
しおりを挟む頭を下げる。しばらく反応がなかったので、やっぱり不安になった。
「……え?」「はぁ?」「あら?」「んん?」「あっははは!」「何いってんだ?」「オィ?」
僕が顔を上げると、部員たちは揃って不思議そうな顔をしていた。
明日佳さんが大笑いしながら言う。
「ほら、伝わらないって言ったじゃんwww」
奈津姫さんが苦笑している。
「オマエ……やっぱイイ子だな」
翠さんが目をニッコリと細めて説明してくれた。
「私たち、何でもするって言ったでしょう? だからいいのよ、今度は希君が日替わりで好きなようにしても。もちろん、部にいてくれたら最高だわ。というか、希君を知らなかった頃には、もう体が戻れないのよねぇ。ストレス解消しないと頑張れないわぁ」
「え……」
口をポカンと開けて、おそるおそる見ると、香織さんは恥ずかしそうに、そして成美さんはなんか不服そうにはしていたが、どちらも否定しなかった。
「……続けるんですか?」
●
それがお昼休みのことだった。部の中には無関係の生徒もいるわけなので、部活の前後にやるわけにはいかなかったのだろう。
いつも僕は、選手たちが着替えを終えてから部室に出入りする。でも、この日の放課後の練習前。もう入っていいと連絡が来たので行ってみたら、まだ10人全員がそこにいた。
「あれ? 体育館、まだ使えないんですか?」
着替えた人から体育館に移動するのが常なのだが。
いいから入って、と腕を引かれる。すると、香織さんが両手で四角い箱を持って進み出てきた。
「希さん。もちろん同じ部員同士ではありますけど、マネージャーという役目を一人で担ってもらっていることには、きっと大変さがあると思います。いつも選手である私たちの都合に合わせてくれたり、遠征や合宿でも色々な負担があると思います」
負担といえば。僕の意思に関係なく参加することになった部活の費用については、実は微妙な問題だった。遠征の交通費や、合宿の費用。彼女たちは自分たちで出し合うと言ったのだけど、僕は未だに受け取りを固辞し続けていた。
「その代わりというには、きっと足りませんけど……このチームが念願の一勝を挙げ、県大会へ進出できたのは、希さんのおかげでもあります。このメンバーに加わってくれた記念ということで、みんなからです。受け取ってください」
包装と外箱を開けると、それは新品のバスケットボールシューズだった。成美さんとショッピングセンターの店舗でサイズを合わせてもらった、あの時のものだ。
「こんな……あ、ありがとうございます!」
未だに授業用の体育館シューズを使っていた僕には正直、憧れの品だった。
後で聞いたのだが、最初は僕を「使用」していた部員たちでお金を出し合って、費用の負担へのせめてもの補填にと考えていたらしい。でも、たまたま話が耳に入った他の部員たちも、裏の事情なんて知らないのに当然のように加わってくれたのだそうだ。
喜んで履いてみせる僕に、奈津姫さんがニヤニヤしながら言った。
「同じチームでお揃いって……バカップルがバレバレじゃね?」
あ……そういうことになるのか。これは、成美さんが履いているのと同じモデルだったのだ。
「なっちゃん! それは言わないであげるってものでしょう?」
翠さんが嗜める。
成美さんは赤くなり、香織さんは満面の笑みになった。
部員たちにはもう、僕たちが三人で付き合うことになったことは話してあった。
このシューズを履いて、僕はみんなと一緒に県大会に臨む。もう、香織さんの参加についても心配はない。後はただ、最強の相手である嶺南からの一勝を目指すだけだった。
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