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6本目 女子バスケットボール部員の告白

ママ IS BACK 67-11

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 お母さんが帰ってくる。それはいい。

 ただし、男を連れてくる。送られてきたメッセージに書いてあった、それが香織さんは怖いのだ。

 僕は伶果さんに通話をかけた。まだ学校で仕事中のようだったが、僕が「部活の先輩の家に泊まっていい?」ときくと、声が裏返った。

『は? え? 女子バスケ部の、先輩? あ、いや、正直に相談してくれるのはいいんだよ。いいんだけど、いいんだけど、あれ、いいのかな……お姉ちゃん分かんなくなっちゃったよ?』

 壊れかけのお姉ちゃんに、僕は手短に伝えた。

 香織さんの家であること。これからその母親が男性を連れてくること。香織さんはその相手と面識もないのに、同じ家で一晩を過ごさなくてはならないこと。

 伶果さんは少し考えた後で、すっかり冷静な口調に戻って言った。

『いいよ。許可します。でも、何かあったらすぐに電話すること。夜中でも迷わずに。鳴らしてくれるだけで、すぐに車で行くからね。2人だけで家を出るのは、緊急で避難する以外はダメ。そんなことするくらいなら、お姉ちゃんを呼ぶんだよ?』

   ●

 僕が保護者の許可を得られたことを伝えると、香織さんはすぐにお風呂に入った。知らない男が来る前にということだ。僕は、既に帰った今日の部員と一緒に済ませてある……。

 ダイニングキッチンで一人待っている間は、落ち着かなかった。

 香織さんのお母さん。きっと背が高くて、僕を警戒していた頃の香織さんのようにクールな感じなのだろうか。留守中に男子が居着いていると知ったら、怒るだろうな……。

 まだ浴室からシャワーの音が響いている間に、玄関に外から鍵の差し込まれる音がして、すぐにドアが開いた。

 思わず立ち上がって身構えたが……僕の視線は、ある意味で空振った。

 玄関に入ってきたのは想定よりもずっと背の低い女の人だった。成美さんより小さいんじゃないだろうか。化粧をしているのは分かるので僕目線では女の子とは呼べそうにないが、顔立ちは幼い。ピンク系統のワンピースを着ていた。

「あれ? 間違えたかな?」
 女の人は声も幼かった。一旦ドアの外へ出て、また戻ってくる。

「間違えてないじゃん! 誰なのアンタ!」
 プンプン、とでも言いそうな仕草で僕を指差す。
「香織ちゃんをどうしたの!? すぐに男の人も来るんだからね! 観念しろ!」

「え……」

 あまりに予想外だったので、反応ができなかった。確かに、これでは不審者だろう。

「香織さんの、お母さんですか……?」

   ●

 お母さんにはダイニグキッチンの椅子に座っていただき、香織さんが急いで身支度を整える間に、僕が自己紹介をしつつ麦茶を出した。

「あの、お連れの方は……」

「コンビニ寄ってから来るって。先に車から降ろしてもらったの」
 両手でコップを持つお母さんからは、お酒と、微かな煙草の匂いがした。

 僕の隣、母親とテーブルを挟んで向かい合う位置に椅子を持ってきて座った香織さんは、長袖丈のTシャツとジャージ姿で、お風呂上りのとてもいい匂いがした。

「そうだ、彼が来る前に話しといた方がいいかな」
 お母さんはポンと手を叩いて、ニコニコしながら言った。

「香織ちゃん、ママ結婚するから!」

 僕は目を剥いたが、香織さんは平然と「そう」と返し、続けて「いつ?」ときいた。

「来月!」

「来月……!?」
 そこで初めて香織さんも絶句した。

「べつに今更、式を挙げるわけでもないし。お役所に書類を出して引っ越しするだけだからね」

「え、引っ越し……?」

「うん。だから香織ちゃん、このお家(うち)の荷物まとめといてね。ママは新しいお家のこと考えないとだから。よろしくね」

 急な展開がもたらす衝撃のあまり、僕も口を挟んでしまった。
「あの、来月の……いつ、なんですか?」

 お母さんは怪訝そうな顔を僕に向ける。香織さんも、重ねてきいた。
「来月の何日なの?」

 告げられた日付は……県大会の当日だった。


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