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5本目 女子バスケットボール部員との一日
窓の外で 57-8
しおりを挟む「どうしたの? 小暮っち、今日なんか積極的なんだけど……」
「ご、ごめん……嫌だった?」
「ううん……いいよ。したいことして」
いつもと違う格好の成美さんと長い時間、一緒だったからだろうか。今までは部室のスノコや長椅子の上だったので、こうしてベッドで落ち着いて彼女とするのは初めてだからだろうか。それとも、家の前で健一に会ったからなのだろうか。
僕は、いつも以上にドキドキしていて、彼女に触れるのを我慢できなかった。今までは、彼女からされたり命じられるままだったのに。
やがて、二人で夢中になって腰を動かしている間に、玄関のドアが開く音が聴こえた。
「あ……お母さん帰ってきた」
「え!?」
僕は慌てた。枕元に置いていた成美さんの下着を手に取って渡そうとしたくらいに。
「大丈夫。部活の相談してるから挨拶は帰る時にって伝えてあるし。うちのお母さん、勝手に部屋まで入ってきたりしないから」
「そ、そうなの?」
だから慌てずに落ち着いて身支度をしろ、という意味かと思いきや。
「だから続けていいよ。こんなところで止めないで」
そう言って成美さんは、脚を絡めて僕を離すまいとしてくる。
本当だろうか……と不安は抱きながらも、当の彼女が促してくるので、僕はおそるおそる動きを再開した。
漏れ出す声を抑えるために、彼女は上半身に掛布団をかぶった。
そんな状況が刺激になってしまったのか。元々いつも以上に興奮していた僕は結局、下の階に彼女の母親がいるのにもかかわらず、体を貪った。
途中で止めるどころではなかった。1回では治まらなくて、布団をかぶせたまま体勢を変えさせて、更に行為を続けた。
そうして僕が我に返った時には、彼女は動くこともできず下半身だけ布団からさらけ出して、汗まみれのシーツの上に横たわっている状態だった。荒く息はしているけれど、脚を閉じることもできずに脱力してしまっている。
これ、本当に大丈夫だったんだろうか……。
そう思った時、予想外の方から物音が聞こえてきた。
「健一! もうすぐお父さんが……」
カーテンの引かれた窓の方向から微かに女性の声が聞こえ、すぐにサッシが閉まるような音がして、何も聞こえなくなった。
この部屋の窓が開いていたとは思えない。
ということは、あの向こう側にあるもう一軒が、窓を開けていたということだろうか。ある程度の大きさの声は聞こえる状態だったのか。
二軒の家は隣り合っていたけれど、まさか成美さんと健一とは、部屋が窓越しに面しているのだろうか。
そうして健一は窓を開けていて、自分の母親の声が響いてきたことで慌ててそれを閉めたのか。
だとすれば、こちらの声は、いつから、どこまで、あちらに聞こえていたのだろうか。
布団をかぶっていた成美さんは、気付いた様子はなかった。
●
「ふぅん? まあ、いいんじゃない。元々、浮気してるつもりもないし」
身支度を整えながらそのことを話したが、成美さんはあっさりとしていた。
「健一は了承してるの? その……僕とこういうことしてることを」
「ううん。なんで自分のここ使うのに他人の許可取らないといけないの」
そういう考え方らしい。
ただ、成美さんから話していない以上、僕からも健一に余計なことは言えないだろう。
「うぅ……さすがに腰にきてるかも」
と手を当てる成美さん。
「ご、ごめん……」
「まあ、気持ち良かったからいいけど」
実は僕も脱力感でいっぱいなのだけど、このまま寝ていくわけにはいかない。
乱れたシーツの後始末は彼女に任せるしかないので、せめてゴミは残すまいと、僕はティッシュなどを拾い集めて荷物に突っ込もうとした。
「いやいや、ちょっとアンタ、そのまま持ってくつもり? 臭うでしょ」
「そうかもしれないけど……置いてかれたら困るでしょ?」
ティッシュといっても行為の後始末に使ったものだし、縛ってあるとはいえ使用済みの避妊具もくるんである。
こんなものがゴミ箱に入っているのを家族に見付かったら……僕だったらもう伶果さんと顔を合わせられる自信はない。ましてや女の子の部屋に残していい匂いではないはずだ。
「べつにいいって。っていうか今更それ言う? いつも部室で使ったもの、誰が持ち帰ってると思ってんの?」
「え? 持ち帰ってたの?」
考えてみれば当たり前のことだった。女子の部室のゴミとして……でなくとも、そもそも学校のゴミ収集所に出せるようなものではない。
でも、彼女たちにされるがままに始まったことなので、ゴミの始末まで確認する機会は今までなかったのだった。
成美さんは「口を滑らせた」とでもいうようなハッとした表情を見せてから、視線を逸らした。僕に気を遣わせないよう、何も言わずに片付け続けるつもりだったのかもしれない。
「ごめん……変なもの持ち歩かせちゃって……」
自分の精液が入った使用済み避妊具を、口を密閉できるビニール袋に入れたとはいえ女子に家まで持ち運ばせていたという事実に、僕は今更ながら動揺しつつ謝った。
「いや、べつに……あー、とにかく慣れてるから、任せて」
どうして耳まで赤くなっているんだろうと考えて、ようやく気付いた。この部屋では健一とも会っているわけだから、そりゃあゴミも出るだろう。
恋人同士の行為に言及するのは野暮というものだ。僕はそれ以上は何も言わず、後のことは任せることにした。
成美さんに伴われて階段を下りる。
彼女のお母さんは、黒髪で大人っぽくなって落ち着いた成美さんという感じの、綺麗な人だった。
「家に来るのは久し振りじゃない?」
自己紹介と挨拶をすると、そんなことを言われた。
「お母さん、健一と間違えないでよ。部活の新しいマネージャーだって言ったじゃん」
呆れたように言いながら、成美さんは僕を押し出すように玄関へ向かわせる。
僕も、匂いや態度でバレないかと気が気でなかったので、足早にその場を失礼した。
家の外まで見送りに出てくれた成美さんが言った。
「うちのお母さん、塾で講師の助っ人やってるんだ。前は学校の先生もやってたんだって。私や香織ちゃんにも勉強教えてくれるんだけど、すごく分かりやすいよ」
入る時にはなかった車が駐車場に停まっている。
「もう学校の先生はしてないの?」
うちの伶果さんが今は学校勤めなので、保護者同士が同僚になる可能性もあると考えると不思議な感じがした。
「お父さんも仕事が忙しいから。あたしが生まれてからは、お母さんまで学校で働くってのは無理だったみたい」
少し申し訳なさそうな顔で、成美さんは家を振り返った。
でも、伶果さんの仕事も忙しそうなので、よく分かる。
「それも含めて、お父さんとお母さんが決めたことだとは思うんだけどね。結婚する時、どっちが仕事を辞めて引っ越すかは話し合ったって言ってたから」
「そうなんだ」
両親が揃っている家庭で、どのように役割分担が決められるのか、僕にはよく分からなかった。
●
その日の夕食の席で、僕はふと伶果さんに尋ねてみた。
「僕のお父さんとお母さんは、お互いに好き合って、それで僕が生まれたの?」
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