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5本目 女子バスケットボール部員との一日
さあ、いこっか 55-8
しおりを挟む休日のショッピングモールで声をかけられた時、最初はそれが成美さんだと分からなかった。
「あたしだよ、あたし。アンタの待ち合わせ相手だよ」
茶色っぽいミディアムヘアはキャスケットの中にまとめ、フレームの太い眼鏡をかけている。下半身はカラータイツにデニムのショートパンツとスニーカー。丈の長いシャツを羽織ってポーチを肩にかけていた。そして学校で会う時よりも更にバッチリのメイク。
「ご、ごめん。いつもと雰囲気が違いすぎて……」
ほとんど変装だ。というか実際に変装なのか。
彼氏持ちの成美さんが、同じ学校の生徒たちも出入りしていそうなこの場所で僕と二人でいるところを見つかるのはよろしくない。
「どう?」
と一周回ってみせる彼女。
「うん、とてもおしゃれだと思うよ」
と答える僕は、トレーナーにデニムパンツと運動靴。特に工夫もない、平凡な休日の服装だった。
「……まあよろしい。じゃ、ついてきて」
昼過ぎの施設内は、家族連れを中心に混みあっていた。
その中を歩き始めた彼女の後をついていく。
向かった先は、併設された映画館だった。
「チケット発券してくるから、ここで待ってて」
そうして渡された券に印字されたタイトルを確認し、ロビーに掲げられた宣伝用ポスターへ目を移す。
女の子たちが変身して戦うアニメの劇場版だった。
命令されるままにここに来たけれど、どうやらこれを成美さんと観るらしい。
財布を出すと、それを遮られた。
「そのチケットを持って一緒に入って――ってのが命令だから、お金は払わなくていい。べつにリアクションも感想もなくていいし。親子連ればっかりの中、一人ではちょっと……入りにくいだけだから」
うん、まあ僕だったら一人では入れない。どうしても観たければ平日の昼間を選ぶだろう。女子でもそういうものなのか。
入場口で子供だけに配布されている特典についてはスルーされ、僕たちは館内へ入った。
少数派ではあるけれど、カップルのお客さんもいた。女の子同士も。
周囲の席の子供たちが、変身する少女たちを「がんばれー!」と応援している中、成美さんは伊達メガネを外して静かにスクリーンに見入っているようだった。
上映が終わってロビーまで出ると、彼女は大きく伸びをしてから言った。
「お昼は食べてきたよね?」
「うん、ちょっと急がしかったから、軽くだけど」
午前の部活動の後、一旦それぞれ帰宅してから、ここで待ち合わせたのだ。
「じゃあ、ちょっとお茶していこ?」
僕たちはトイレに寄ってからフードコートに移動して、それぞれに好きなものを注文して席に着いた。食べるものは、もちろんそれぞれの財布で購入した。
アイスティーで喉を潤してから、僕は成美さんにきいた。
「映画、楽しめた?」
彼女はフライドポテトを片手で摘んだまま頷いた。
「うん。でも、小暮っちは退屈だったでしょ? 命令とはいえ、付き合わせちゃってゴメンね」
目線をテーブルの上に落としてから上目遣いに向けてきた彼女に、僕は首を振った。
「ううん。このアニメは観ているわけじゃないけど、それでも単独で話は分かったし、面白かったよ」
「そう?」
眼鏡のフレームの外から、おそるおそる送られてくる視線。社交辞令ではないことを信じてもらおうと、僕は続けた。
「緑色担当の女の子がさ、仲良くなった宇宙人の子供を、寂しい気持ちを我慢して親元に返したところ、ちょっと泣いちゃったよ。物語が始まった時点でのあの子だったら、あれはできなかったよね」
「あ、あたしも、実は泣いてた……」
「うん。そのままの彼女だったら踏み出せなかったかもしれないけど、きっと変身することで勇気を持てたってことなのかな」
「そ、そう! だから変身なの……わかる?」
「彼女と一緒に、映画を観にきていた子供たちも今日、大切な体験をして成長したのかもって考えたら、なんか熱いものがあるよ」
「そう、そうなの! このシリーズね、毎年新しい作品に変わるんだけど、その度にテーマがあってね。しかも一話一話に……」
僕は素直に感想を告げたのだけど、どうやら何かのスイッチを入れてしまったらしい。
「最初は2人組だったの。その後で……」
急に早口になった成美さんの熱い語りは、ポテトと飲み物が空になってからも長く続いた。
というか、何の資料も見ずにこんなに語れるのってすごいな……全く噛まないし。
●
成美さんは、クラスではギャルグループの中心的存在だ。彼女たちといったら、オシャレか恋愛かタレントやインフルエンサーの話ばかりしているという印象があった。なので、こんなに好きなアニメがあったなんて正直、意外だった。
存分に語ってから、彼女は満足気に言った。
「ほんと、来られて良かったー。上映が多分来週までだし、地区大会が終わるまではお預けにしてたから」
「そうだったんだ」
「あー、でも、地区大会か……悔しかったなぁ」
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