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4本目 女子バスケットボール部の合宿

3 DAYS 40-8

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 合宿所として利用する施設は、学校の敷地に隣接している。だから練習を行う場所自体は、いつもの体育館だ。

 2泊3日の合宿練習の初日。午前中に施設の掃除や荷物の搬入を終えた女子バスケ部が、午後からの本格的な練習に臨もうとしていた時だった。

 ウォーミングアップのランニングと柔軟運動、ボールを持たずに基礎的な足捌きを繰り返すフットワーク、パス回し、そしてゴール下に走り込んでシュートを放つレイアップの練習。

 部長の香織さんの号令の下、選手たちの「1・2・3……」や「ハイ!」といった声がけが響く。

 女子部員たちは地声は様々であるものの、こうした練習中の掛け声や返事では、きれいに揃った同じ高さの声色を出す。そういうものなのだそうだ。

 そんな中で、不意に体育館の入り口から野太い声が響いた。
「失礼しまっす!」

 頭を丸刈りにした男子生徒だ。試合用のユニフォームではないが、それに似た形の練習着を着た野球部員たちが続々と続く。
「しゃっす!」「おなーしゃす」「しまっす!」「っす!」

 靴は履いていない彼らのドスドスという足音が床に響いてくる。うちの学校の野球部は結構な大所帯で、1クラス以上の人数はいるように見える。

 先頭の主将を僕が「こちらです」と体育館内の空いている箇所へ誘導する。女バスに男子がいることに不思議そうな顔をされるのにはもう慣れた。

 あらかじめ聞いていることなので、バスケ部員たちも練習の手は止めていない。

 普段の練習でも、男子バレー部や男女混合で練習しているバドミントン部と隣り合うことはある。Tシャツにハーフパンツの練習着は、見られて恥ずかしいような格好ではない。

 パシャリ、パシャリ。

 しかし、次第にバスケ部員たちは野球部の方に視線を向けるようになり、練習のペースが乱れていった。

 パシャリ、パシャリ。

 ホイッスルが鳴らされた。バスケ部の顧問である千華子 ちかこ先生が集合をかけたのだ。

 授業でも部活でもパンツスーツ姿でいた先生の、白いジャージ姿を見るのは初めてだ。さすがに合宿生活をするのにスーツのままでは不便があるのだろう。

「すぐに上着を着て構わない。指示があるまで休憩とする」

 『はい!』と揃った返事をし、彼女たちはフロアの隅に置いてあった各々のジャージを練習着の上に羽織っていく。

 ようやくのっそりと体育館に姿を現した野球部顧問の元へ、千華子先生が足早に向かっていった。

 ジャージのボタンは止めずに羽織った副部長の翠さんが、手を頬に当ててため息を吐いた。
「いきなりこれじゃ、先が思いやられるわね」

 僕たちと同時に合宿を行う野球部。

 初日には、彼らが女子バスケ部の練習を見学する時間が設けられていた。それ自体は決まっていたことだ。色々と思うところはあるけれど練習を中断するようなことじゃない。

 3年生の明日佳さんが呆れたように野球部の方を見る。
「しーんじらんない。見学に来て無断で写真撮る? てか、部活中にスマホ持ってくる?」

 同じく3年生の智実さんも、前開きのジャージをしっかりと留めながら言う。
「休憩時間のエンターテインメント感覚ってことでしょ。それに写真撮ってるのは1年生ばかり。ってことは2・3年が命令してるよね、あれ」

 野球部が来るまで凛として指示を飛ばしていた香織さんは、ジャージの上下共に着込んで隅の方に縮こまっている。彼女の苦手とする対象は僕だけではなく、本当に男子全般のようだ。仲の良い成美さんがそばについている。

 奈津姫さんが舌打ちをして手の指の骨を鳴らした。
「要するに……アタシら、ナメられてるってことか」


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