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3本目 女子バスケットボール部の幽霊部員
フリースロー 38-8
しおりを挟む次の休日練習の後も、僕は翠さんの迎えの車に乗せてもらった。
「奈津姫さん、次の一投で僕が勝ったら、お願いをきいてくれませんか?」
「いいけど、何してほしいんだ?」
この日も2人が練習をする合間に、フリースローに加わっていた。
「部に戻ってほしいんです」
「はぁ?」
そしていきなりそんなことを言えば当然、嫌な顔をされる。
「言っただろ、アタシはもういいって……」
「女子バスケ部には奈津姫さんが必要だと、僕が思ったんです」
「オマエが思ってても、しかたねーだろ。試合に出たいプレイヤーがどう思うか……」
「聞いて回りました。少なくとも、2年前の事件と奈津姫さんのことを知っている3年生には」
1・2年生には僕のことを「使用」していない部員もいるので、突っ込んだ話を聞くことはできなかった。
でも後輩が「上手い先輩」を疎ましく思うだろうか。むしろ目標にしたり、そういう人から教えてもらうことで上手くなっていってほしい。
「もちろん、奈津姫さんの復帰についてどう思うか――なんて直接きいたわけではないです。でも、心配しているようなことになるとは、どうしても思えませんでした」
なお、僕のことを相変わらず警戒しまくっている部長の香織さんとは、話すことはできなかった。ただ翠さんが「香織は大丈夫」と言っている。
「でも、本心なんて分かんねーだろ……」
バスケットボールを横向きに回転させたまま、器用に片手の指先に乗せている奈津姫さん。
「分からないってことは、奈津姫さんに帰ってきてほしいって思ってるかも分からないってことじゃないですか」
「屁理屈じゃねぇ?」
「レギュラー争いを足の引っ張りあいにしてしまうような人も、実際にいたんだと思います。理不尽な扱いをしてくる人たちも。でも、それは今のバスケ部のメンバーではないはずです。1年生の時に庇ってくれた仲間と、その後輩たちのことを、見てくれませんか」
奈津姫さんはしばらく僕を見下ろしてから、唇を尖らせてそっぽを向いた。
「オマエが勝てたら、だったな」
「いいんですか!?」
「一本で勝てたらだ。確かに何でもするって言ったしな」
僕は頷いて、フリースローラインに立った。
前回から数日の間だけど、学校の体育館でも練習してきた。未だに入らないことの方が多い。けれど練習試合で先生が教えてくれたようにバスケは「繰り返すことで実力の差が表れる」スポーツだ。僕が奈津姫さんに勝てる可能性があるとすれば、それは一発勝負しかない。
朝の体育館では成美さんもシュートを教えてくれた。香織さんも見てくれてはいた――相変わらず距離を取って。
ゴールのリングに向かって真っ直ぐ当てたくなる気持ちを抑えて、高く上げて上から狙うことを思い出す。ボールを飛ばすのは手だけではなく全身で。
僕の手を離れたボールはゴールに向かって上がっていって、そしてリングを抜けてネットを揺らした。
「入った……!」
多分、自分が一番驚いている。翠さんが拍手してくれた。
奈津姫さんはゴールを見たまま頷いた。
「よくやった」
そう言って、立っていたスリーポイントラインの位置から何気ない動作でシュートを放った。
シュパッ!
僕のシュートよりも美しい音を立てて、ネットが揺れた。
呆然と立ち尽くす僕の前で、2つのボールを拾って左右の手でそれぞれ器用に地面に弾ませる奈津姫さん。
「勝負どころでフリーのシュートを外すような相手を、オマエはチームに誘ってたのか?」
翠さんが「あら~」とため息をついている。
「外すまでやるか?」
と片方のボールを投げてよこす。
諦めたらそこで説得終了。けれどシュートを打てば打つほど、勝てる確率は絶望的に低くなる。
仕方ない。
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