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2本目 親友と彼女と女子バスケットボール部
我慢 18-8
しおりを挟む人が、たった一人のパートナーを選ぶこと。お互いのみを、他の「選ばれなかった人」たちとは違う特別な存在として扱うこと。それが恋人というもので。だからこそ、同時に複数の相手とそういう関係を持ってしまうと問題になる。そういうものだと、僕は理解していた。だから先輩のことも諦めた。
「好きな人に気持ちが受け容れられて付き合うことになったら、その先も結構、大変なんだよね」
僕はもう腕や足に力を込めて抵抗しようとすることを諦めて、影の中に沈んでいる成美さんの顔を見上げた。ここ部室棟の2階には女子の部室ばかりが並んでいる。仮に振り払って扉から飛び出したとしても、明らかに僕の方が不審人物だ。
「デートしたり通話したりメッセージを送り合ったりする時間を、生活の中で新しく作らなきゃいけないし。……ああ、これは聴いてもらったことあったよね。あとは、ケンカになることもあるし。特別な日があったらプレゼントは必要なのか、何がいいのか……」
淡々と。本当に淡々と、彼女は語りかけてきた。
「友達や家族が相手をどう見てるのか。卒業した後や将来はどうするのか。家が隣で家族ぐるみの関係だったりするとさ、切実なんだよね。お互い一人っ子だしさ」
愚痴を聞かされているという感じはしなかった。あまりにも、僕の知らない世界のことだった。
「付き合ってみて初めて知る考え方の違いもあるし。この部分は譲れないから、どうにかして変えてもらおうとか。この部分は相手に合わせるしかないのかなとか。もしこの先もずっと一緒にいるとしたら、これが一生続くのかなとか」
こういう話は、健一の側からも聞いたことはなかった。
「そんなことまで考えてなかった最初の頃みたいには、気持ちのスイッチが入らなくなっちゃうんだよね」
体の関係は拒まれている――そう言って悩んでいた健一の言葉に、ようやくある程度は理解が追い付いた気がした。
「たまたまムラムラした時もさ、じゃあしようって、簡単にはいかないんだよ。彼女だからって、どんな時でも受け容れると思われたら困るし……実際、困るんだよ? 体調のこともあるし、時間のこともあるし。他の要求を通すための駆け引きに使おうとか考えちゃうこともあるし」
そういうものなのだろうか。僕が憧れのゴールだと思っていた関係の先は、そんなふうになっていたのだろうか。
「たまたまうまくいってたり、妥協できてるカップルも、世の中にはたくさんいると思う。でも、あたしは今のところ無理っぽい。家が隣で幼馴染で家族ぐるみの付き合いまである恋人とは別に、そういうこと何も考えずに気持ち良くなれる相手がいた方がいいみたい。そんなところに……」
成美さんはこちらの両手首を握ったままで、じっと見つめてくる。
「何でも言うことをきいて、どこにも喋れないっていう、そんな玩具が転がり込んできたわけなんだけど。あたし何か我慢することってある?」
「……健一のことは好きなの?」
「惚れたのは向こうの方なんだけどね……これからも付き合ってくよ? うまくいかないから乗り換えたいとかいう話じゃ全くないよ。むしろアイツとうまくやってくために、他で気持ちのバランス取りたいってこと」
こんなことがあるのか。僕は常識が覆って混乱してしまいそうだった。
恋人と関係を続けるために、性欲だけは他の相手で解消する。しかもその相手として都合が良いのが、たまたま恋人の友人でもある僕だというのだ。
「それって……どこまでするの?」
持っている常識ではもう判断のしようがなくなってきたので、僕はそうきいてみた。
もしかしたら、手を握ってほしいとかハグしたいとか、先程したキスくらいまでを想定しているのかもしれない。それでも問題だとは感じるけど。性的な行為で負うリスクは女性の方が大きいはずだし。
僕が要求に応じると思ったのか、成美さんは両手を離して上体を起こした。そうして僕の腰の上に跨ったままスカートのポケットに手を入れ、それを取り出した。
「ちゃんと用意してあるから、心配しなくて大丈夫だよ」
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