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2本目 親友と彼女と女子バスケットボール部

事件 8-6

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 血の繋がっていない、14歳年上の女性。それがたった一人の僕の家族。

 物心付く前に亡くなった母に代わって、今日まで僕を育ててくれてきた人だ。

「おはよー……のぞみくん、今日アルバイトだよね? ちょっと学校にも寄れないかなぁ」
 その日、伶果れいかさんは眠そうな顔で、身支度をしている僕に声をかけてきた。

「おはよう。まだ時間もあるし、寄れるけど?」

安斉あんざい先生が女バスの練習で体育館にいるそうだから。これ、届けてもらえないかな? お姉ちゃんね、持ち帰りの仕事が片付かなくって……」
 寝起きらしく眼鏡着用で化粧もしていない伶果さんは、紙袋を手渡してきた。書籍かノートのようなものが何冊か入っている様子だった。

 看護師として働いていた時期も長かった伶果さんは、今は僕の通う学校の保健室の先生をしている。女子バスケ部の顧問である安斉先生とは同僚ということだ。

「うん。預かってくよ」

 受け取る僕に「ありがとう」と言ってから、伶果さんは思い出したように続けた。
「成美ちゃんもバスケ部じゃない? あれからクラスではどう?」

「うん。だいぶ元気になったように見えるよ。友達とも彼氏とも仲良くやってるし、もちろん部活も続けてるし」

 伶果さんにも、成美さんのことは聴いてもらっていた。貧血を起こした彼女と、それを受け止めようとして転んだ僕。それを保健室で診てくれたのは伶果さんだったからだ。

「そっか、良かった。希くんも無理しちゃダメだよ? お姉ちゃん、ちゃんと働いてるんだから」

 アルバイトが原則禁止の学校で、僕は特例で働くことを認められている。

 卒業後に、奨学金を頼りに進学するにしろ、働くにしろ、初期費用は必要になる。そこまで伶果さんに負担を強いるわけにいかないからだ。

 当人は「最初からそのつもりだから気にするな」と言うけれど、十代で母親代わりを引き受け、僕が父親と離れてからは一人で育ててくれたのだ。さすがにもう、その脛を僕にかじらせるのでなく、自分自身の人生設計とか好きなことに使ってほしい。

「大丈夫だよ。流河ながれかわは、いいお店だし、楽しいし」

「それならいいけど……。あ、連絡はしてあるから、アルバイトに行く格好のままで学校に入っても大丈夫だからね」
 そう言う伶果さんに見送られ、僕は少し早めにアパートを出た。

   ●

 体育館でバスケ部が練習をしているのは、ボールや靴の音ですぐに分かった。

 けれど大きな金属製の扉を開けて中に入るのは、ちょっと躊躇ためらわれた。女子だけの運動部が練習をしているところに男子が入っていっては変なふうに思われないだろうか。そう思った。

 女子バスケ部が流河に食事に来る度、特に部長さんからは厳しい視線を感じていたし。

 そんなふうに迷っているうちに、扉は内側から開かれた。

 思わず数歩下がった僕の前に現れたのは、副部長のみどりさんだった。こちらを見下ろして、首を傾げる。
「あら、小暮君?」

 ちょうど休憩に入ったところだったらしい。

「出前は頼んでいないと思うのだけど?」

 彼女たちは、流河のメニューには載っていない「部活定食」を利用する程の常連さんなのだ。

「いえ、今日は……ええと、保健室の小暮先生から安斉先生への届け物があって」


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